ブラックイーグルが棲む岩山で、最もよく目にする動物はダッシー(別名ハイラックス)である。
ダッシーは、体長40〜60cm、体重2〜5kgで、ブラックイーグルにとってちょうど手ごろな獲物である。ジンバブエのブラックイーグルは、獲物のほとんどをこのダッシーに依存している。
ブラックイーグルのテリトリーの至る所で、ダッシーの小さな群れが岩の上で休んだり、走り回ったりしている。食うものと食われるものがお互いの姿を目にしながら暮らしている。ブラックイーグルはダッシーの動きを監視し、狩りのチャンスを狙っている。ダッシーは危険が迫ると岩のすき間に素早く逃げ込んで難を逃れる。常に緊迫した状況にあるはずだが、僕にはダッシーが緊張してビクビクしながら暮らしているようにはまったく見えない。むしろブラックイーグルをからかっているようにさえ思えてくるのだ。
夜間は、気温が10℃以下に下がるため、ダッシーは朝になると岩の上に出てきて、日光浴を始める。岩の上にたたずみ、全身に太陽の光を浴びている。体が温まったダッシーは、大胆にも全身を伸ばし、まったくの無防備な体勢で岩の上に横たわる。中には、ブラックイーグルが真上を旋回していても、この無防備な体勢を崩さないダッシーもいる。
ブラックイーグルは、岩に止まってあるいは上空を飛翔しながら、遠くからダッシーの動きを監視している。ブラックイーグルがスピードを上げ、接近してきた時に初めて、くつろいでいるように見えたダッシーの群れは、警戒の声を上げて一気に岩のすき間へ逃げ込んでしまう。無防備に眠っているように見える体勢の時、まわりへの警戒は最大になっているのかもしれない。ブラックイーグルもそのことを心得ているのか、日光浴をしているダッシーを遠くから見ているだけである。
どんな時にブラックイーグルには狩りのチャンスがやって来るのだろうか。実は、ダッシーが岩の上でのんびり過ごしていてその姿がよく見える時ではなく、比較的目に付きにくいのだが、木の上や地上に降りて採食している時が、まわりへの警戒が手薄になっている時である。また、採食地へ移動中に逃げ込む隠れ場所が無い場合もチャンスである。
ブラックイーグルはじっくりとダッシーの行動を観察し、狩りのチャンスが来るのをひたすら待っている。やがて油断している一匹に狙いを定めたブラックイーグルが静かに飛び立ち、一直線にダッシーに向かう。しかし、襲いかかる直前に気づかれたり、まわりにいる他のダッシーの警戒声で気づいて逃げられたりと、狩りの成功率は低い。
非常に多くのダッシー(獲物)のいる岩山に暮らしているブラックイーグルは、獲物には事欠かないと考えていたが、それほど単純なものではないようだ。
日本のイヌワシでは、ノウサギなどの獲物が減少したために、食物不足で繁殖成功率が低下している。日本のイヌワシは、獲物が見つからないために厳しい生息状況が続いている。
ジンバブエのブラックイーグルは、たくさんの獲物を目の前にしながら手を出せずに厳しい生活をしている。どちらもなかなか厳しい状況である。