鉄塔営巣のクマタカは順調に雛を育てている。雛の翼には羽毛が少しずつ伸びてきた。雛は羽毛の伸び具合から生後42日程度(7月6日時点)と推測される。雛が孵化したのは5月25日頃であろう。結構遅い孵化日である。僕がこれまでに観察した中で早いものでは4月下旬に孵化しているから、それと比べるとちょうど1ヶ月遅い。しかし繁殖の始まりは気温や雪の量など地域によって違いがあるので、このペアの地域ではこれがスタンダードなのかもしれない。
雛が生後1ヶ月ほどになると、日中は保温の必要がないので親鳥は巣から離れ、雛だけで過ごす時間が多くなる。しかし、雌親は巣が見える場所から雛の様子を見守っている。
繁殖の妨げにならないよう、これまでは遠くからの観察にとどめていたが、今日は親鳥がいない間にブラインドに入り、少し近くから観察する。案の定、巣にいるのは雛だけだ。それでも雌親はそう遠くないところにいる可能性が高いので、林の中に隠れてそっとブラインドに入る。
10時半頃、近くで親鳥2羽が鳴き交わしているのが聞こえてきた。雄親が獲物を持って近くまで来たのだろう。雛も鳴き始めた。間も無く雄親が獲物を持って巣に入った。雛は激しく鳴きながら雄親の足元に飛びついて獲物を押さえ込む。雄親はすぐに巣から出て行った。
雛は両翼を広げて獲物を覆い隠して押さえ込んでいる。しばらくして雌親がその獲物を雛へ給餌するために巣に戻って来た。その時にマツの青葉も持ち込んで巣に敷き込んだ。針葉樹の青葉には殺菌作用があるので、巣を清潔に保つためには欠かせない。生肉を食べる猛禽類の多くが、巣に度々青葉を運び込む。
雌親が獲物を持ち上げると、それはモモンガであった。引きちぎっては雛に与え、時々雌親も食べる。ものの15分ほどでモモンガ1頭を食べ終えた。
夜行性のモモンガが、早朝にまだうろついているところを襲われたのだろう。クマタカは小さなものではネズミ類や小鳥、大きなものではノウサギやタヌキ・キツネの子どもなども捕らえる。小さなものから大きなものまで、いろんな獲物を捕獲する俊敏さがクマタカの強みである。