以前、雑誌の表紙用に写真を送った時、編集者から「美人ですね」とだけ書かれたメールが返って来た。普通なら何のことか分からないのだが、僕自身もその写真を見て「美人」だと感じていたので、すぐに写真に写っている動物のことだと分かった。
写真の主はSteenbok。中型犬くらいの大きさの小型のアンテロープだ。鼻筋にシャープな黒い模様があって、より一層顔が整って見える。見れば見るほど、Steenbokが「美人」に見えてくる。
月: 2017年10月
猛禽類の狩りも命がけ
肉食獣の狩りが命がけであることは前回書いたが、ワシやタカなど猛禽類の狩りもまた命がけだ。
Martial Eagleが大木の頂上に止まり獲物を探していた。1時間ほど経った頃、Martialが獲物を見つけたようだ。首を伸ばして前方下部をさかんに見ている。ひょいと飛び立ち降下した。翼をすぼめて翻るように急角度に地上に向かって降下してブッシュの裏に消えた。少し待つが出て来ない。
狩りに成功したと思い、その辺りが見えるところに移動する。降りたところはほぼピンポイントで分かっているのだが、見つからない。そのうちに翼と尾羽を半開きにしてボロ布のように地上に伏せているMartialを発見した。
獲物をおさえこんでいるのだと思うが、姿勢があまりにも低く横たわっているように見える。しばらくして頭を上げたので、後方から顔が見えた。すぐに頭を下げて見えなくなった。何度か頭を上げたり下げたりを繰り返した後、立ち上がった。脚で頭を掻き、羽繕いをしてから飛んで行った。しかし、獲物はなく、狩りは失敗していた。
狩りが失敗して10分以上もの間、地上に横たわるように動かなかったのはなぜだろうか?それも普通に座っているというよりも倒れているように見えた。おそらく獲物に襲いかかった時、誤って地面に激突したのだと思う。以前日本でクマタカが林道脇で死んでいるのを見つけたことがあった。これも獲物を追いかけて林道の法面に激突して死んだものと考えられた。今回のMartialは脳震盪を起こしただけで事なきを得た。
猛禽類も楽々と獲物を手に入れている訳ではない。特に獲物が鳥類の場合には、地上すれすれまで猛スピードで突っ込んで行くので、地上への激突の危険性も高い。どこまで猛スピードで突っ込めるかで狩りの成功率は変わるだろう。成功率を上げるためには危険度も高まる。厳しい選択だ。
✳ 23日にアフリカを発ち、24日夜に日本に戻りましたが、もう少しアフリカの動物についての報告を予定しています。
肉食獣に怪我はつきもの
今回1カ月の間に怪我をしているライオンを2頭も見た。1頭は左脚首辺りが裂けてぱっくりと口を開け、傷は奥のほうまで達している。人間なら何針も縫う大怪我であるが、このライオンは歩いても怪我をしていることをほとんど感じさせない。雌2頭で行動しているので、獲物が捕れずに困ることもないだろう。
別の1頭は、右後脚を引きずるように歩いていて具合が悪そうだ。少し距離があるので怪我の詳細はわからないが、立ったり座ったりするのもやりにくそうだ。この状態では獲物を捕獲するような激しい動きはできないだろう。単独で周りに仲間はいない。インパラが近くを通っても狩をする素振りは見せなかった。傷が癒えるのを静かに待つのだろうか?このライオンのこれからの行動が気になるところだ。
肉食獣の怪我の頻度は高いのではないかと思える。ライオンなどの大型肉食獣は、自分よりも大きな動物も度々捕獲するので、狩りは非常に激しいものになる。角を持った動物も多いので角で突かれたり脚で蹴られたり、油断すると自分の生命も危ない。強いということばかりが強調される肉食獣だが、彼らも死と隣り合わせで狩りに挑んでいるのだ。
毒ヘビ、樹上で生活
世界最強クラスの毒ヘビ、ブラックマンバ。「噛まれたら30分以内に血清をうたなければ死んでしまう」と現地の人に聞いたことがある。30分というのが事実かどうかはわからないが、非常に強い毒を持っていることは確かだ。
ブラックマンバにはこれまでに何度かお目にかかった。1度目はジンバブエの国立公園内の道路だった。長さが3mほどもある大きなもので、素早く道路を横切っていった。また、捕獲した2,5mほどのブラックマンバを間近で見たこともある。その後も道路を横切るのを2回くらい見た。
今回はクルーガー国立公園のレストキャンプ内で、人や車が通る道脇の木に登って枝の上でとぐろを巻いていた。1.8mくらいの大きさなので、4m以上にもなるブラックマンバとしては小ぶりなほうだと思う。大勢の人が木の下に集まってブラックマンバを見ていた。
日本なら人の集まるレストキャンプのようなところへ毒ヘビが出てきたなら、すぐに捕獲されるだろう。アフリカではどうするだろうかと興味があった。
2日後、そのレストキャンプに行くと、同じ木の下で数人が上を見ている。ブラックマンバが前回と同じ木の上にいた。枝を伝って少しずつ移動している。数羽の小鳥がヘビの周りに来て騒いでいる。その4日後には、2本隣の木に移っていた。枝が重なり合っているので、枝伝いに移動して来たのだろう。5日以上も木の上で暮らしている。
アフリカではブラックマンバを木から落としてまでは捕獲はしなかった。レストキャンプと外の原野をヘビは行き来できるので、1匹を捕獲したところでレストキャンプ内が安全というわけではない。
自分の身の安全は自分で十分注意して、自己責任で行動すべし、ということだ。
地味だが鳴き声は派手な鳥
ブッシュの中では見つけるのが困難な地味な色彩の鳥、Redcrested Korhaan。普段の動きは超スローモション。風にそよぐ草や枝に擬態しながら歩いているのだと思う。体色がブッシュの中では目立たない迷彩色なので、大きく素早い動きをしなければ外敵に見つかりにくい。ところが雄の鳴き声は、非常に大きく変わった声を出す。
カチッ、カチッ、カチッと響き渡る音がするので、周辺で工事でも行われているのかと見回すが何もない。その後続けてピィカチッ、ピィカチッという声に変わり、ようやく鳥の声だろうと分かった。ブッシュの中に立ち尽くして鳴いている1羽のKorhaanがいた。縄張り宣言なのか雌を呼ぶ声なのか、かなり大きな声なので遠くまで届いているだろう。
この声に注意していると、遠くのあちこちから鳴き声が聞こえていることに気づいた。Korhaanも繁殖期に入ったのだ。
カラフルな鳥が多い
アフリカには原色の鮮やかな色彩の鳥がたくさんいる。こんな派手な色があったのかと驚かされる。金属光沢を持った青緑や蛍光色のような赤など、すごい色だなあと感心してしまう。
アフリカでは鳥だけでなく、人もまた原色鮮やかな服を普通に着こなしている。
チーターには「颯爽」が相応しい
チーターを見るといつも「颯爽」という言葉が頭に浮かぶ。寝転がって獲物が来るのを待っているときにも、また立ち上がって歩くときにも、ライオンやレパードとは一味違う気高さを感じる。
今日出会った1頭のチーターは、1本の小さな樹の下に横たわって、獲物が近づいて来るのを待っていた。一見完全な休息モードのように見えるのだが、インパラの群れが現れたときには素早く反応した。頭を少しだけ上げてインパラの動きに注目している。インパラとの距離は120mほど離れている。インパラの群れは、チーターにそれ以上近づくことなく通り過ぎて行く。その時、チーターが動き始めた。
低い姿勢で草陰に隠れながら、インパラのいる方向へと歩き出した。残念ながらインパラは僕のところから見えない窪地に入ってしまった。チーターもその窪地へ「颯爽」と入っていった。
セクレタリーバードは求愛ディスプレイ中
鶴のような容姿の鳥、セクレタリーバード。後頭部の羽毛が何本ものペンを刺したように見えることから、英名は書記官のような鳥と名付けられている。日本名はヘビクイワシ。この長い脚で地上を闊歩しながらヘビやトカゲなどを探す。獲物を見つけると叩き潰すように踏みつけて捕まえる。
今はちょうど繁殖に入ろうとしている時期だ。雌(推定)が巣の上で頭を上下させている。地上にいる雄(推定)に対するディスプレイ行動だ。雄は直径15cmほどの干からびたような塊をくわえている。その塊をくわえたまま飛び立って巣に入った。塊を巣の上に置くと雌がその塊をくわえて少し持ち上げて巣に置いた。儀式的なプレゼントであるらしい。その後はペアが巣の上で長い首を交差させて絡ませるディスプレイを繰り返していた。
巣から出て地上をしばらく歩きまわった後、鶴のように優雅に高く高く舞い上がり空の彼方に消えていった。
繁殖が遅れているマーシャルイーグルの巣
日本のイヌワシよりも少し大きいマーシャルイーグル。獲物はスティーンボックやギニーフォール、1mほどもあるオオトカゲなどかなり大きな鳥獣や爬虫類などを捕食する。2年に1回くらいのペースで繁殖している。
ヒナの巣立ちは10月初め頃が多い。今回見つけた2巣のうちの1巣には巣立ち間近な雛がいた。別の1巣は繁殖の開始が何らかの理由で遅れたらしく、まだ雌親が巣に座っている。抱卵中なのか小さなヒナがいるのか、巣を見上げて見ているので中の様子は分からない。
3時間ほど経って、雄親が獲物を運んで来た。ほとんど骨だけになった鳥類の残骸だ。雄が去った後、雌親は獲物の肉片を引き裂いて給餌を始めた。ヒナの姿は全く見えないが、孵化後数日程度の小さなヒナがいるようだ。
その後も雌親は抱雛したり巣の上に立ったりを繰り返している。それから10日ほど経った今日は、ヒナが少し大きくなったのと暖かいので、親鳥は巣から離れた木に止まっていた。しかし、まだヒナの姿は見えない。
成功率低いレパードの狩り
レパードが木陰になったアリ塚の上で寝そべっている。目を閉じて眠っているだけのように見えるが、実は獲物が現れるのを待っているのだ。
インパラの群れが近づいて来た。レパードは両眼を開き、頭を低くしてインパラの動きを見つめている。しかし、この時はインパラがレパードから少し離れたところを通り過ぎたので攻撃しなかった。
それから2時間ほど経った頃、レパードが動き出した。地面に這いつくばるような姿勢のままアリ塚を降りて窪みに入った。前方に群れから離れた1頭のインパラがいる。インパラが頭を下げて草を食べている間にレパードは歩を進め、インパラが頭を上げると同時に動きを止めて待機する。レパードは、インパラの手前の倒木の陰に身を潜めた。レパードとインパラの距離は十数メートルくらいだ。レパードは今にも飛び出しそうに構えてタイミングを計っている。その時、インパラがレパードに気づき、頭を高く上げてレパードを覗き込んだ。この瞬間にレパードが襲い掛かるかと思ったが、レパードはタイミングを逸して襲い掛かれなかった。一呼吸置いてインパラは一気に駆け出し逃げ去った。
その後も2回、インパラとイボイノシシを狙ったが、距離を詰める前に気づかれて狩りは失敗した。狩りの成功の裏には、その何倍もの失敗があるのだ。