小高い尾根のアナグマの巣穴には、農繁期のトラクターや草刈り機の音など、里の喧騒が聞こえてくる。アナグマや他の動物たちもそんなことはお構いなしに悠々と暮らしている。集落まではほんの数百メートルだが、ここにやって来る人は滅多にいない。
9:40、キツネが近くを通り過ぎて尾根を越えて見えなくなった。
11:20、アナグマが戻って来て巣穴へ入る。朝早くに巣穴から出ていたようだ。
13:50、巣穴から出て来た。巣穴の横で毛繕い。毛繕いというよりダニを掻き落としているように見える。痒そうだ。歩き出していつものように左の尾根を越えて見えなくなった。
アナグマの行き先を見ようと尾根まで歩いて行くと下から誰かが登って来た。まさかこの山の中で人に会うとは思ってもいなかったので一瞬ぎょっとしたが、よく見ると隣の集落の正信さんだった。正信さんとは渓流散策や山菜採りで時おり一緒に山歩きをしている。良い天気なので裏山へコシアブラを探しに来られたのだ。一緒に尾根を登ってコシアブラを探す。数本の木から新芽を採集してから別れた。僕は巣穴が見えるところへ戻り、アナグマの帰りを待つ。
17時まで待つが、アナグマ戻らず。
月: 2015年4月
アナグマの行く先で待ち受ける
先日から観察しているアナグマは、巣穴から出るといつも左下方向へ山を下っていく。その先にはすぐに集落がある。これまでにそこで何度かアナグマを見かけている。今日はその集落脇でアナグマが山からおりて来そうな場所で待つ。
予想はピタリと当たった。気付いた時にはアナグマは目の前に来ていた。僕から5mのところで立ち止まった。人間の臭いが強烈にするのだろう。そのうちに僕のほうを凝視し始めた。僕は全く動かずに立ったままの姿勢を保つ。アナグマは、僕が動かなければ僕を人間だと見分けられない。何か物体がそこにあると思っているだけのようだ。しかし、臭いには敏感だ。危なっかしい方へは行かず、方向を変えて歩き出した。20mほど歩いて廃屋の裏に座って毛繕いをした後、歩き出して僕の視界から消えた。日中に人目につくところにはめったに出ないから、集落には入らず山際を移動しながら餌を探しているのだろう。機会あれば次回さらに追ってみよう。
小春日和に奥山散策
今日は、地元の人がほとんど行くことのない山奥へ山菜採りに出かけた。清冽な水が流れる沢筋を遡る。ワサビが白い可憐な花を咲かせている。ミズ(ウワバミソウ)もある。岩場にギボウシが伸び始めている。
人の採集圧を受けていない山菜は太くて大きいものが多い。ワラビは茎の太さが1cmもあるのが林立している。
昼食時、対岸の山の斜面にツキノワグマを見つけた。木に登り鮮やかな新緑の葉を食べている。上空高くにイヌワシが舞っている。
夕方帰宅し、ミズとギボウシを塩水でさっとゆがき、タラノメは木灰を入れて茹でる。ゴマドレやマヨネーズなどであえて食べる。ワサビは少量を生のままで肉類と一緒にいただく。ピリッと辛みが効いてさわやかだ。ワラビは木灰で一晩アクを抜くので、明日以降の楽しみだ。
小春日和に里山散策
春の野山は気持ちがいい。
今が一年のうちで最も過ごしやすい気候だ。花が咲き、夏鳥たちのさえずりが賑やかだ。オオルリやクロツグミ、キビタキが競うようにさえずっている。遠くからツツドリの筒を叩くようなポポポポという声も聞こえてくる。太く大きなシマヘビが日向ぼっこをして体を温めている。
小高い丘の地上に巣穴を発見。10m四方の中に出入り口が9箇所もある。80mほど離れたところにも巣穴を発見。出入り口は6箇所だ。出入り口にハエがたくさん飛び回っているので使っているかもしれない。巣穴はいずれも出入り口の直径が20〜30cmで、キツネかタヌキまたはアナグマが使用している可能性がある。
さらに80mほど行ったところにも5箇所の出入り口がある。またさらに80mほど先に2箇所の出入り口がある。
2番目に発見した巣穴の近くに戻った時、ガサゴソとかすかな足音が聞こえた。見ると1頭のアナグマが歩いて近づいてきた。6箇所の出入り口のうち一番端の穴へ入っていった。
午後はこの巣穴を少し離れたところから観察と撮影。
待つこと40分。アナグマが巣穴から顔を出した。近くの枯れた枝葉を集めて巣穴へ引き込んだ。出入り口を隠したのだろうか?
2分後、キツネが僕のいる方向へ歩いて来る。70mほど手前で立ち止まった。僕の気配を感じ取っている。方向を変えて去っていった。キツネもこのいずれかの巣穴を利用しているのだろうか?
視線をアナグマの巣穴へ戻すと、アナグマが巣穴から出て歩いている。尾根を越えて見えなくなった。
2時間後の17:15、アナグマが戻って来た。巣穴の10m手前で座り込んで、しばらく毛繕いをしてから巣穴へ戻った。
アナグマは食事に夢中
このところ毎日のように雨が降り、肌寒い日が続いている。サクラはこの雨の間に満開を迎え、今はほとんど散ってしまった。
家の外は出るのも億劫な雨だが、こんな日にも集落脇の田んぼの畔で餌を探すアナグマがいた。昼間に堂々と、まわりの様子を気にするふうもなく餌探しに夢中になっている。草むらを鼻先と前脚で忙しそうに耕して、時々何かをくわえて食べている。
食べているのは、太くて大きなミミズだった。
クマは昼寝
4月12日8時、タムシバの木に登っているクマを発見。このところ毎日クマを見ている。クマたちは今、タムシバの花を盛んに食べている。
8:20、別の所でタムシバに登るクマを発見。8:30、さらに別の1頭が地上を歩いている。9時、タムシバに登っている4頭目のクマ発見。花をたくさん付けた食べ応えのありそうな大きな木に登っている。
こんな風にクマを見ていると、クマがゴロゴロとたくさんいるように思われるかもしれないが、広い山並みのあっちに1頭こっちに1頭といった具合にポツリポツリと見つかる程度だ。このあたりは森林に覆われているので、発見するのも追跡するのも難しい。実際にはこの何倍ものクマがいるだろう。
9:30、クマタカが対岸斜面を旋回上昇して尾根を越えて行った。
9:55、地上で採食するクマ発見。5頭目にしてやっと撮影できそうなクマを発見できた。僕のいる所から約200m。地形から見るとさらに近づくことができそうだ。
撮影に集中する。近い時にはクマは約50mのところにやって来た。しかし、木やブッシュが邪魔してなかなか撮影が出来ない。クマは昼寝と採食を繰り返している。冬眠明けのためかよく眠る。採食と昼寝の時間は半々くらいだ。
機材を片づけ始めた時、6頭目のクマを発見した。これもまた地上で眠っている。
昨日のクマ
8時に昨日の観察地点着。どんよりと曇り、今にも雨が降り出しそうだ。まもなく、昨夕最後まで見ていたほぼ同じあたりにクマ発見。昨夕からほとんど移動していない。このあたりで眠っていたのだろう。昨日同様、新芽を食べている。ササのあるところではタケノコを食べている。
11時前には姿を見失った。雨が降り出した。付近にいると思うのだが、ちょっとしたブッシュや林の陰で姿が見えなくなることが多い。13:35になってようやく姿を現した。やはり遠くには行かずにブッシュの陰で眠っていたのだ。採食と移動を繰り返す。
雨本降りが続く。クマは平気な様子で相変わらず採食を続けているが、こちらは雨にめげて退散する。
冬眠明けのクマ
4月に入りタムシバが咲く季節になった。ツキノワグマたちは冬眠から目覚め、活動を始めている頃だ。今年はまだクマ探しに行けていない。しかし、今年になって初グマはすでに見ている。3月9日に集落近くの川沿いを歩いている痩せて毛づやの悪い1歳のクマを偶然に発見した。前日に小さな子グマがサル捕獲檻にかかっていたらしいのだが、僕が見に行った時にはいなくなっていた。クマの大きさや発見場所がサル檻からそれほど離れていないことから、同一のクマにほぼ間違いはない。10cm四方の網目を抜け出たか、出入り口をうまく持ち上げて逃げたかのどちらかのようだ。昨秋このあたりでは、集落にある柿を食べにクマが大出没した。子グマの痩せこけた様子や行動から、母グマはいない。おそらく昨秋大出没した時に母グマは捕獲されてしまったのだろう。子グマは空腹のあまり冬眠もそこそこに活動を始め、サル檻のサツマイモに引き寄せられて捕まったのだ。一旦はうまく逃げ出したものの、4月2日になって目撃場所近くで子グマの死体を発見した。ほとんど骨と皮だけになっていた。僕が目撃してから数日のうちに死んでしまったようだ。母親なしでは冬を乗り切ることは出来なかったのだ。
今日4月9日、遅まきながらクマ探しに出かけた。昼前に観察ポイント着。すぐに1頭目のツキノワグマを発見。予想したとおり、タムシバの木に登って花を食べている。12:20頃に2頭目を発見。地上の灌木の根元で眠っている。冬眠明け間もないので食い気より眠気のようだ。14:30頃に3頭目を発見。地上で灌木の新芽を食べている。3頭は離れた別々の場所にいるが、同時に見えている。眠っていたクマも起きて採食したり、また眠ったりを繰り返している。1頭目のクマは別のタムシバの木に登り変えている。たくさんの白い花が咲いてきれいだったタムシバの木は、クマが登ったあとには花がかなり食べられて遠目には目立たなくなっている。2本目の木も見る見る色あせていく。16時頃には1頭目と2頭目の姿が林の中で見えなくなってしまった。3頭目は見え隠れしながらもまだ採食を続けている。発見した時の場所から100m以内をうろついている。18:30少し薄暗くなり始めた。今日の観察は終了。
『伊吹の野生だより』始めました
今月より新たなコンテンツ『伊吹の野生だより』を始めます。伊吹の麓に住み、そして伊吹の森で活動する写真家 須藤一成が、豊かな自然の象徴である”伊吹の野生”の姿、音、そして声を映像や写真とともにお届けします。