伊吹山のイヌワシ繁殖状況2024年4月10日



4月10日、雛が孵化している。雛は見えないのだが、母ワシの動きから雛への給餌をしていることがほぼ確実だ。5分間くらいの給餌行動が5回観察できた。

巣には獲物があるので少し安心だ。雄ワシは、雛と雌ワシのために狩りにでかけて今日は巣には来なかった。上空でヤマドリを追っている姿を見ることができた。最初の急降下攻撃で捕獲に失敗して、逃げるヤマドリを追っているのだ。しかし、水平飛行ではヤマドリがイヌワシを引き離して谷間を横切って見えなくなった。残念ながら狩りは失敗した。

今朝は冷え込んで霜が降りたが、日中は風も穏やかで気温がぐんぐん上がって暑いくらいだ。暖かい時間帯を利用して、雌ワシは巣を離れて一時的に休息していた。巣から飛び立った後に飛びながら勢いよく糞を飛ばした。親ワシは巣ではほぼ糞をしない。外へ飛んでいって糞をする。時には巣から飛び立って旋回しながら糞をして、すぐに巣に戻ることもある。

夕方気温が下がり始めると、雌ワシは姿勢を低くしてしっかりと雛を保温している。雌ワシの姿は遠くからは全く見えなくなった。

※ 「伊吹山のイヌワシ観察会」は2024年5月12日に開催予定です。
来週に案内を出す予定です。

「伊吹山のイヌワシ子育て生中継」ダイジェスト2023 ニーナの成長

4月11日に孵化した1番雛ニーナは、2番雛のミミが4月21日に死んでからは巣に運ばれてくる獲物を自分だけで独占して食べることができるようになった。2羽が育つだけの獲物が確保できない日本のイヌワシでは、この兄弟闘争によってほとんどの場合1羽しか育つことができない。

4月と5月は比較的順調に獲物が巣へ運び込まれた。それでも2〜5日も獲物が運ばれて来ないことが何度かあった。ニーナはまだ小さく食べる量も少ないのでどうにか深刻な餌不足にはなっていない。普通よりも少し早い成長だ。4月30日(19日齢)には、わずかに伸び始めた風切羽が黒く見えるようになった。

この巣はオーバーハングがなく雨や雪が降りかかり、落石が直撃する可能性がある。4月28日には落石があった。幸いニーナにも母ワシにも当たることなく、すぐそばの巣の上にいくつかの石が落ちてきた。母ワシは慌てて巣から飛び出した。20分ほどで戻ってきたが盛んに上を気にして見上げている。
母ワシは巣の中に落ちている5cmほどもある石を嘴でくわえて巣から飛び立ち捨てに行った。巣に戻ったあと、別の石を拾い上げて巣の端に移動させた。
夕方にまた落石があった。母ワシは驚いて巣から出て行ったが、日没までには戻って来た。

29・30日と獲物の搬入がなく、巣に残っていた餌も無くなった。母ワシは早朝から狩りに出た。普通なら母ワシは日中も雛と一緒に巣で過ごしている時期なのだが…。
母ワシは昼頃に帰巣したがすぐにまた出て行った。夕方にも一旦戻ったものの、落石を気にして上を見上げていたが再び出て行った。薄暗くなった頃に戻って来て、今度はニーナをお腹の下に入れて落ち着いて座った。
落石の原因は、ツキノワグマが巣のある岩壁の上を歩いていたためだと思われた。夕方になって近くの木に登っているクマを発見した。
獲物は3日目の夕方(5月1日)に母ワシがノウサギを持ち帰った。ニーナは2日ぶりに餌にありついた。

5月3日、母ワシは夜になっても帰巣しなかった。22日齢のまだ幼いニーナが1羽で夜を過ごすことになった。通常この日齢の雛には夜間は母ワシが添い寝するはずだがどうしたことか。寒さは大丈夫だろうか。
翌朝、暗いうちからライブ映像を確認する。徐々にニーナの白い体が暗闇から現れてくる。小鳥たちの囀りが賑やかだ。ニーナは横たわってまだ眠っているのか動かない。頭を上げてくれ、と祈るような気持ちで画面を見続けた。4:36頭を上げた。いつもと変わらないクリッとした目であたりを見回している。
元気そうだ。今朝は強くは冷え込まなかったのは幸いだった。気温は8度くらいだろう。0度近くまで冷え込んでいたらと考えるとゾッとする。
2日後(5月5日)の夜も母ワシは帰って来なかった。前回も切り抜けたのだから大丈夫と思いながらも翌日早朝からライブ映像を確認する。元気な姿にホッとする。
次の試練は5月13日、ニーナが32日齢の時だった。母ワシは帰巣せず、夕方から雨が降り出し、夜になって雨足が強まった。まだ羽毛が伸び始めたばかりの綿毛のニーナが冷たい雨の一夜をやり過ごせるのだろうか?今回は前の時よりさらに厳しい夜になりそうだ。
翌朝、ニーナは座ってはいるが体を立たせた姿勢で雨に打たれていた。この姿勢は、雨が羽毛や綿毛の表面を流れて内部には侵入しにくい。横たわって寝ると、雨は綿毛や羽毛の向きと逆行して内部(体)にまで浸透しやすくなる。幼いニーナはそのことを本能的に知っているのだろう。
ニーナは雨に耐えてあまり眠れなかったのか、明るくなってからも居眠りを繰り返していた。

雛が20〜30日齢なのに母ワシが夜間巣にいないことは普通ではない。獲物が捕れないとしても夜には帰巣するはずだ。考えられる原因は落石だ。以前の落石以来、母ワシは巣に戻るたびに上を気にして、落石を恐れている様子だった。

獲物の搬入は5月下旬以降さらに少なくなった。ニーナは餌がなくて雛が普通は食べない大きな骨を何本も何本も食べた。3〜5日間の絶食も何回もあった。ニーナはいつも空腹状態で親ワシの帰りを待っていた。
ニーナは母ワシから給餌を受けることも少なかった。腹が減り過ぎて給餌を待ってはいられなかったのだと思う。自分でガツガツ食いついてガンガン食べた。大きなヘビも引きちぎっている余裕はない。丸呑みで一気に食べた。
ニーナは常に飢餓と闘っていた。それは両親も同じだったと思う。母ワシは6月28日にヘビを運んだ時、巣の上に何か餌はないかと盛んに探していた。拾い上げるものは干からびた骨と皮ばかりだった。その日を最後に母ワシが巣に来ることはなかった。

その後は雄ワシだけが時々獲物を運んで来た。ニーナの飢餓はどんどんひどい状況になった。7月下旬には10日以上の絶食となって、両脚と尾羽も使って3点支持で立っているのがやっとという状況まで衰弱していた。痩せて羽毛の成長がほとんど止まっている。80〜85日齢で巣立つと予想していたが、108日齢で巣から落下したが、その時のニーナの外見は75日齢程度の雛と同じだった。成長は1ヶ月以上遅れていた。(7月下旬以降の話は「ニーナ救護の舞台裏」に続く)

巣に搬入された獲物は、ニーナが孵化する前の4月9日に運び込まれたヤマドリからニーナの救護に動き始める前の7月26日まで、計109日間に65個体だけだった。また獲物が搬入された日は49日、搬入されなかった日は60日で搬入されない日が多かった。ニーナが最も食欲旺盛となる6〜7月の58日間では、搬入された日は16日、搬入されなかった日は42日とさらに厳しい状況となっていた。

今年のこれまでにない餌不足はなぜ起こったのか?記録的な猛暑によって獲物となる動物が暑さを避けて日中に姿を現さなかったことが要因となっているのではないだろうか。
また年間を通した主要な獲物であるノウサギはかなり以前から減少していることも関係しているだろう。現在は増加したニホンジカの子供を捕獲することでノウサギの減少分を少しは賄っている。しかし子ジカを捕獲できるのは5〜6月の出産期だけである。

日本の山はスギやヒノキなどの人工林が40%以上を占めている。
近年はシカの食害で植物が減少し裸地化していることが大きな問題となっている。それと同様に放置された人工林の林床にはシカの食害以上に植物は少ない。人工林内には動物たちが生活できる食物が非常に少ないのだ。
放置人工林を伐採して自然林へと転換することは、自然環境や野生動物の保全のための重要な取り組みだと考えている。



「伊吹山のイヌワシ子育て生中継」ニーナの絵日記

絵日記風にニーナ親子を描いたスケッチブックを、ライブ視聴者のミナレグさんから送っていただきました。
その絵日記をみなさんに紹介します。20日間限定でYouTubeに公開します。
他にも何人かの視聴者の方にニーナ親子の絵や創作小説などをSNS等にアップしてもらっています。

ニーナ親子の子育ての様子がリアルに思い出されます。
絵に添えられた俳句も感慨深いです。

9月20日20時まで下記のURLでご覧になれます。
閲覧期間は終了しました。



「伊吹山のイヌワシ子育て生中継」公開のお知らせ



伊吹山のイヌワシ子育て生中継

4月1日から公開します。
ライブ映像を通して、イヌワシを身近な存在として感じ取ってもらい、イヌワシの現状や自然環境について考えるきっかけになってほしいと思っています。
イヌワシが警戒しないように、無人リモートカメラによるライブ映像です。普通には見ることのできない空の王者イヌワシの子育てをご覧ください。

伊吹山ではイヌワシの巣に近づいて撮影を試みるカメラマンが増えて、卵や雛が死亡する恐れが高まっています。
巣を探し回ったり近づいて撮影したり、絶対にしないでください!!
ライブカメラは、カメラマン対策として巣の周辺での人の動きも監視しています。イヌワシ保護のために巣の場所やカメラの配置は公開していません。

米原市と連携し、ライブ配信を通じて多くの市民と共に「イヌワシを見守る」体制づくりをしています。

注意事項
・イヌワシや希少種等の生息や繁殖の妨害となる情報(撮影ポイントや巣場所など)は書き込まないでください
・不適切と判断した書き込みは削除させていただきます
・録画等による二次利用は著作権の侵害にあたります

「伊吹山のイヌワシ子育て生中継」URL:https://youtube.com/live/7GT1ToXBM64

鉄塔営巣のクマタカ。ようやく巣立った

雛は巣立っていた。巣やその周りの鋼材にも止まっていない。鉄塔から飛び出して近くの林の中にいるのだろう。雛は巣立ってしまえば雛とは呼ばずに幼鳥となる。
幼鳥は巣立ち後しばらくの間、巣に戻って親鳥から獲物を受け取ることが多い。戻って来るのを待つことにするが、2時間経っても何の動きもない。3時間ほど経過してようやく、巣から100mほど離れたあたりから幼鳥の鳴き声が聞こえてきた。3〜4声で鳴き止んでしまったが、幼鳥が無事に巣立って近くにいることが確認できたのでほっとした。巣に戻って来ることを信じてさらに待つ。

13時ごろ、鳴き声が聞こえたので巣を見ると、巣の上に幼鳥が戻っていた。尾羽が前回見た時よりさらに伸びて、見た目に立派なクマタカとなっている。巣の上を歩いて、水平に伸びた鋼材の上に移った。そこで親鳥が獲物を運んで来るのを待つことにしたらしい。夕方までその場を動かずに止まっている。
遠くを飛行する親鳥を見つけては数声鳴く。しかし、今日は獲物が捕れないらしく、親鳥は戻って来なかった。

巣と近くの林を行き来しながら過ごしている。今は巣のそばで親鳥が獲物を運んで来るのを待っている

羽繕い

鉄塔営巣のクマタカ。まだ巣立たない

お盆に西日本を通過した台風の影響で、吹きさらしの巣ごと飛ばされるのではないかと心配したのだが、巣も雛も無事だった。雛は巣の上で落ち着いていて、まだ巣立つような仕草は見られない。尾羽や風切羽はまだ短く、これではもうしばらく巣立つことはないだろう。普通はこのくらいの日齢になると盛んに羽ばたきの練習をして、空中に浮き上がったりするのだが、この雛はほとんど羽ばたき練習をやらない。

その原因はこの巣の形状にあるのかもしれない。普通は直径1m近い丸い巣が樹木の枝に造られる。クマタカの雛はそこで思い切り翼を広げて羽ばたき練習をする。しかし、この鉄塔の巣は待避所のL字になった細長い網目状のところに細長く巣をかけている。その上、手すりのようになった鋼材が周りを囲んでいるので、翼を広げて羽ばたくと翼がその鋼材に当たりそうだ。

巣立ちが近くなると、巣から離れた枝先に止まったり上の枝に飛び移って止まったり、首を伸ばして巣の外を見て飛び出したそうな行動をしたりするものだが、この雛は全くそういう行動も見られない。
これらの行動をするかどうかは雛によって個体差がある。樹上営巣の雛でもあまり羽ばたき練習をしない個体もいるので、巣立ち前の行動が見られないのが鉄塔営巣の影響なのかどうかはわからない。

この雛の巣立ちは、8月末か9月に入るかもしれない。巣立ちは本州では7月中旬頃、北海道でも7月下旬から8月上旬とされているから、この鉄塔営巣のクマタカは遅い巣立ちの日本記録になるかもしれない。
鉄塔営巣と遅い巣立ちの両方で日本記録樹立となりそうだ。しかし、巣立ちが遅いのは、クマタカの生息状況が良くない場合が多いので喜んではいられない。



鉄塔に営巣するクマタカの育雛。親鳥が今回もモモンガを運んで来た

鉄塔営巣のクマタカ。巣立ちまでもう少し

早ければもう巣立っているかもしれないと思いながら、鉄塔の巣を望遠鏡の視野に入れる。巣の端っこに座っている雛が見えた。8月6日の時点で羽毛が生え揃い、一見立派なクマタカとなっている。しかし、立ち上がった姿を見ると尾羽がまだかなり短い。巣立ちまでにはあと10日くらいかかるだろう。

いい風が吹くと、翼を広げて羽ばたきの練習をし、親鳥が持ち帰った獲物に飛びつき、翼で覆い隠して押さえ込むなど元気に動き回っている。今日の獲物は鳥類(種不明)と大きなヘビだった。どちらもすぐには食べなかったが、しばらくして鳥のほうを食べ始めた。鳥をすべて食べ尽くしてもヘビのほうは食べずにいる。ヘビより鳥のほうが好みなのかもしれない。夕方までにはヘビも少しだけ食べた。

35度以上の猛暑が続いているが、日陰のほとんどない鉄塔の巣で雛は元気に育っている。明後日ごろに超大型の台風が西日本に上陸するとの予報だ。巣ごと吹き飛ばされないことを祈っている。



鉄塔営巣のクマタカ。雛の羽毛が生え始めた

鉄塔営巣のクマタカは順調に雛を育てている。雛の翼には羽毛が少しずつ伸びてきた。雛は羽毛の伸び具合から生後42日程度(7月6日時点)と推測される。雛が孵化したのは5月25日頃であろう。結構遅い孵化日である。僕がこれまでに観察した中で早いものでは4月下旬に孵化しているから、それと比べるとちょうど1ヶ月遅い。しかし繁殖の始まりは気温や雪の量など地域によって違いがあるので、このペアの地域ではこれがスタンダードなのかもしれない。

雛が生後1ヶ月ほどになると、日中は保温の必要がないので親鳥は巣から離れ、雛だけで過ごす時間が多くなる。しかし、雌親は巣が見える場所から雛の様子を見守っている。
繁殖の妨げにならないよう、これまでは遠くからの観察にとどめていたが、今日は親鳥がいない間にブラインドに入り、少し近くから観察する。案の定、巣にいるのは雛だけだ。それでも雌親はそう遠くないところにいる可能性が高いので、林の中に隠れてそっとブラインドに入る。
10時半頃、近くで親鳥2羽が鳴き交わしているのが聞こえてきた。雄親が獲物を持って近くまで来たのだろう。雛も鳴き始めた。間も無く雄親が獲物を持って巣に入った。雛は激しく鳴きながら雄親の足元に飛びついて獲物を押さえ込む。雄親はすぐに巣から出て行った。

雛は両翼を広げて獲物を覆い隠して押さえ込んでいる。しばらくして雌親がその獲物を雛へ給餌するために巣に戻って来た。その時にマツの青葉も持ち込んで巣に敷き込んだ。針葉樹の青葉には殺菌作用があるので、巣を清潔に保つためには欠かせない。生肉を食べる猛禽類の多くが、巣に度々青葉を運び込む。

雌親が獲物を持ち上げると、それはモモンガであった。引きちぎっては雛に与え、時々雌親も食べる。ものの15分ほどでモモンガ1頭を食べ終えた。
夜行性のモモンガが、早朝にまだうろついているところを襲われたのだろう。クマタカは小さなものではネズミ類や小鳥、大きなものではノウサギやタヌキ・キツネの子どもなども捕らえる。小さなものから大きなものまで、いろんな獲物を捕獲する俊敏さがクマタカの強みである。



鉄塔営巣のクマタカ、雛が孵化。繁殖順調

鉄塔に営巣しているクマタカの繁殖は順調に継続している。5月中旬には、まだ抱卵であったが、月末には雛が孵化していた。遠方からの観察なので雛の姿は確認できなかったが、雌親が獲物を引きちぎって給餌している姿が確認できた。

鉄塔は周りの林から飛び出て高いので、森の中の営巣と違って直射日光や雨や風を遮るものがない。以前樹木で営巣していたクマタカの雛が、台風の強風で吹き飛ばされて地上に落ちて死んでいたことがあった。鉄塔の上ではさらに強い風が吹き付けるだろう。強い陽射しもまた小さな雛にとっては致命的だ。親鳥が翼で覆って日陰を作って凌ぐしかない。新しい環境での心配事は次から次へと思い浮かぶのだが、新世代クマタカはそれらの問題をいとも簡単に克服するに違いない。



鉄塔に営巣するクマタカ。
雌親は獲物を引きちぎって雛に与え、時々自分も食べる