真上から覗かれていることに気づかないアナグマ

山からの帰り、薄暗くなり始めた林道を車で走っていると前方の林道脇からアナグマがこっちに向かって走り出した。アナグマは車の少し手前で危険を察知して、林道のコンクリートの法面から下を覗き込んで思い切って飛び降りた。僕は車から降りて、足音を忍ばせてアナグマを探しに近づいて行った。アナグマが飛び降りたところからそっと下を覗き込んで見ると、約1.5m下でコンクリートの壁に寄り添うように座っている。僕が近くにいることにはまったく気づかず、車が通り過ぎるのを待っているようだ。

上から覗いている人間に気づかずに、隠れているつもりのアナグマ

コンクリートの壁からは水抜きの土管が出ている。アナグマはちょうどその横にいる。いざとなればその土管に逃げ込もうと考えているのだろう。余裕綽々といった風で、お気楽そうに見える。アナグマの目は良くないので、僕はわざと身を乗り出してアナグマを見た。上半身は明らかにアナグマから見えているはずだ。たまに頭をあげてこちらを見ている風だが気づかない。鼻を上げて臭いも嗅いでいる。臭いには敏感であるが、人間は車のところにいるので慌てて逃げ出す必要はないと判断しているのだろう。

真上からそっとアナグマのほうへ手を伸ばしてみる。アナグマまでは1mほどだ。アナグマは下を向いている。いつになったら気づくだろう。真上から覗き込んだまま様子を見る。臭いがあまりにも近くからするので、そのうちに逃げ出すはずだ。

5分くらい経った頃、なんの前触れもなくばね仕掛けのように素早い動きで向きを変えて土管に逃げ込んだ。なんとなく危険な気配を強く感じるようになって、逃げ出すタイミングを計っていたというような動きだった。

それにしてもアナグマの目はどのように物が見えているのだろうか?走っても木や岩にぶつかったりしないのに、動かなければ人間なのか木なのかは見分けられないのだ。

山も里もすっかり春めいてきた。クマが目覚める季節

気温が上がり雪解けも進んで、伊吹山も所々に雪が残るだけになった。もう少し雪の季節を楽しみたいところだが、季節は春へと着実に歩を進めている。マンサクやダンコウバイが、雪の解けた灰色の山に鮮やかな黄色い花を咲かせている。
雪がなくなるとすぐにフキノトウが出てくる。ちょうどいい具合のフキノトウが顔を出しているので、持ち帰って春一番の味と香りを楽しませてもらおう。


そろそろツキノワグマが冬眠から目覚めて活動を始める頃なので、少し山を散策して探してみる。冬の間に、ニホンジカが樹皮を剥がして食べた木が、白く痛々しい姿で立っている。その木の横にシカの角が落ちていた。昨年の春に落としてブッシュに隠れていたものが、草が枯れ雪に埋もれ、雪解けとともによく見える表面に出てきたのだ。長さ55cmとそれほど大きな角ではないが、太くてがっしりとした角だ。僕が拾った角で最も大きいのは40年近く前に拾ったものだ。もっと大きな角もあるのだろうが、これまでにこれ以上の大きさの角を見たことはない。


クマの食べ物となる植物の芽吹きはまだこれからだ。多くのクマはまだ眠っている。クマの姿を見ることはなかったが、昨年の秋に木に登ってドングリを食べた跡(クマ棚)がある木の下で、新しいクマのフンを見つけた。やはりクマは活動を始めている。

10日ほど前、クマの目撃情報があったと防災無線から流れていた。近年、市内全域のクマ目撃情報が度々放送されるようになったので、クマが増えたと勘違いしたりクマへの恐怖心を煽ったりしがちである。クマが残した痕跡、クマ棚やフンなどを注意深く観察していると、昔から山里では人間のすぐそばでクマが暮らしていたことが分かるのだが…。