真上から覗かれていることに気づかないアナグマ

山からの帰り、薄暗くなり始めた林道を車で走っていると前方の林道脇からアナグマがこっちに向かって走り出した。アナグマは車の少し手前で危険を察知して、林道のコンクリートの法面から下を覗き込んで思い切って飛び降りた。僕は車から降りて、足音を忍ばせてアナグマを探しに近づいて行った。アナグマが飛び降りたところからそっと下を覗き込んで見ると、約1.5m下でコンクリートの壁に寄り添うように座っている。僕が近くにいることにはまったく気づかず、車が通り過ぎるのを待っているようだ。

上から覗いている人間に気づかずに、隠れているつもりのアナグマ

コンクリートの壁からは水抜きの土管が出ている。アナグマはちょうどその横にいる。いざとなればその土管に逃げ込もうと考えているのだろう。余裕綽々といった風で、お気楽そうに見える。アナグマの目は良くないので、僕はわざと身を乗り出してアナグマを見た。上半身は明らかにアナグマから見えているはずだ。たまに頭をあげてこちらを見ている風だが気づかない。鼻を上げて臭いも嗅いでいる。臭いには敏感であるが、人間は車のところにいるので慌てて逃げ出す必要はないと判断しているのだろう。

真上からそっとアナグマのほうへ手を伸ばしてみる。アナグマまでは1mほどだ。アナグマは下を向いている。いつになったら気づくだろう。真上から覗き込んだまま様子を見る。臭いがあまりにも近くからするので、そのうちに逃げ出すはずだ。

5分くらい経った頃、なんの前触れもなくばね仕掛けのように素早い動きで向きを変えて土管に逃げ込んだ。なんとなく危険な気配を強く感じるようになって、逃げ出すタイミングを計っていたというような動きだった。

それにしてもアナグマの目はどのように物が見えているのだろうか?走っても木や岩にぶつかったりしないのに、動かなければ人間なのか木なのかは見分けられないのだ。