アナグマ君のニアミス

オオルリやクロツグミ・キビタキなど、夏鳥たちの囀りが賑やかだ。雄のヤマドリ2羽が羽毛を逆立てて、ガサゴソと草むらで戦っているのが見え隠れしている。

背後で枯れ草を掻き分ける音がかすかに聞こえた。そっと振り向くと十数メートル先にアナグマがいた。
鼻先を地面に突っ込んで食べ物を探しながらこちらに近づいて来る。
こちらが大きな動きをすると気づかれてしまうので、そのままの姿勢でポケットからiPhoneを取り出して撮影する。
6mほどのところまで来た時に、ようやく僕の臭いに気づいて鼻を上げて臭いを嗅いだ。
それでも大丈夫と判断したらしく、さらに近づいて来る。2mまで来た時、これ以上はヤバイと感じている様子だ。しかし、臭い以外に人間の気配がしないためだろう、アナグマは好奇心に駆られて2、3歩前に出ては戻ることを繰り返している。
それ以上近づく勇気は出ずに、やがて90度方向を変えて走り去った。



人間がいることに気付かずに大接近

キツネはバッタ捕りに夢中

正午頃、河川敷の木陰で休むキツネを見つけた。まもなくキツネは立ち上がってなにかを追いかけて食べ始めた。双眼鏡で見ると、それがバッタだと分かった。飛び立ったバッタを全力疾走で30mほども追いかけて空中で捕まえるアクロバティックな技も見せてくれた。

望遠レンズ付きのビデオカメラで撮影しているので、何がいるのだろうと通りかかった人が興味を持ってキツネのいるほうをのぞき込んだ途端に、キツネは人間に気付いて走り去った。



バッタを追う

オレンジカモシカは木登り上手

カモシカは時々木に登って葉を食べる。木に登ると言っても、垂直の木に登れる訳ではなく、斜めに張り出した細い灌木に少し登るだけだ。多くの場合前脚を掛けているだけのことが多いのだが、オレンジカモシカは4つの脚すべてを木の上に乗せて枝先の葉を食べている姿をよく見かける。

今日はこげ茶雄もオレンジの隣で前脚だけを木の上に乗せて採食していたが、脚を踏み外して地上に降りた。オレンジは少しずつ枝先へと進む。蹄をV字に広げて木の枝を挟んでいる。蹄では木の上で思うようには動けない。どうやって木から降りるのかと見ていると、木から飛び降りた。2mほどの高さであるからどうってこともない。
木から降りるには後ずさりするしかないと思ったのだが、無用の心配だった。



灌木の上で採食する

オレンジカモシカ母子と父カモシカ



オレンジカモシカ親子3頭が勢揃い

2ヶ月ほどオレンジカモシカの母子の様子を見ていなかったが、今日は母も子も元気な姿を見せてくれた。
今はカモシカの発情期なので、1頭の雄カモシカがこの母子につきまとっている。こげ茶色をした雄で、体や角の大きさからオレンジカモシカより1歳年下のようだ。

昨年もこのこげ茶雄がオレンジカモシカにつきまとっていた。昨年は小さくて子どもっぽく見えたが今はだいぶ立派になっている。子カモシカの父親はこのこげ茶雄と思われる。この時期だけ親子3頭が揃って生活している。

ニホンジカも今が発情期だ。雄は雌を追ってガサゴソとブッシュをかき分けて歩き回り、時々ピィーフューと甲高い声で鳴くので山は賑やかだ。

畑に現れ作物を食べるサル

土砂降りの雨の中、家の前の畑にニホンザルが現れた。当然のことながら畑の作物を目当てにやって来ている。さっそく畑の中で何かを食べ始めた。1頭が一抱えもある大きなカボチャを見つけて食べ始めた。まわりのサルたちも羨ましそうに少し距離を置いて見ている。右側から大きな雄ザルが近づいてくるのを見つけると、そのサルはカボチャを置いて立ち去った。大きな雄ザルはうまそうにカボチャにかぶりついた。
その雄ザルが去るとすぐに、別のサルが来てカボチャを食べ始めた。まわりを盛んに気にしている。人間への警戒と、仲間のサルの動きを見張っている。少し大きめのサルが近づいて来るのを見ると、おどおどとして落ち着きがなくなる。いよいよ逃げ出す時、さっとカボチャを抱え上げて、あたふたと薮の中へ消えた。
サルたちの行動を見ているのは楽しいものだが、農家の人たちの苦労を考えるとこのまま見過ごす訳にはいかない。何より問題なのは、このまま放っておくとサルたちの行動はますますエスカレートし、家の中にまで入って食物を取っていくようになる。このようなサルは有害獣のレッテルを貼られ、いずれ捕殺されてしまうことになる。
そうならないことを願いながら、僕はロケット花火を打ち上げてサルを畑から追い払った。



カボチャを食べる。逃げる時にはカボチャを抱えてあたふたと

イノシシの巣とウリ坊

先日の11日、クマが何度も出現したことはすでに書いたが、その日はイノシシについても新しい発見があった。
僕の背後十数メートルの所でガサガサッとススキをかき分けて何かが逃げる音がした。姿は見えなかったが、大型の獣であることに間違いはない。ニホンジカやカモシカなら警戒声を上げるのだが、声はまったくしない。おそらくクマかイノシシだろう。逃げた方向が見えるところまで行って探すが、もはや何もいない。さっき獣が逃げ出したあたりのブッシュの中に、ススキを刈り取って低く積み上げたようなものがあるのに気付いた。山歩きしている時に、このような植物を敷き詰めたものを何度か見たことがある。イノシシの休息所か寝床なのだろうと思って大して気にも留めなかったが、考えてみると毎日同じ場所で休息する訳でもないのに、こんなに大仰にススキを刈り集めて休憩場所を造るだろうかという疑問が湧いてきた。今回のものはススキが新鮮でかなり新しい。これは休息所ではなく巣ではないかと思い始めた。それも今使用しているものである可能性が高い。
この巣?を何度も横目でちらちらとチェックしながら他の動物を探して撮影を続けていた。16時過ぎに数頭の幼いウリ坊がこの巣?の上をうろついているのを発見。間違いなくこれは巣であった。1〜2分でウリ坊たちは巣の中へと入っていった。
巣はブッシュの中にあるので、ウリ坊たちは草の隙間からちらちらとしか見えず、うまく映像に捉えられなくて残念だった。しかし、イノシシの巣かどうかがはっきりしたのは良かった。
帰り際に巣の近くを通ると、ウー、ウーという威嚇のような声が聞こえた。もし親が戻って来ているとしたら非常に危険だ。いざとなったら飛び出して襲いかかってくるかもしれない。僕は足早にその場を立ち去った。



ススキ原の中にある巣とウリ坊

ツキノワグマとニホンジカのニアミス

今日は朝から獣の姿が見当たらない。いつもならあちらこちらでニホンジカが採食しているのだが…
8時過ぎになって僕から80mほどのところにツキノワグマが現れた。僕がいることには気付いていない。そのうちに僕の臭いを感じて一瞬顔を少しだけこっちへ向けた。それでもクマは動揺することなく悠々と歩いて僕の視界から消えた。
朝からシカの姿が見えなかったのは、近くにクマがいたから姿を隠していたのかもしれない。子連れの場合はなおさらだ。クマが視界から消えてしばらくしてから、ニホンジカがぽつぽつと現れ始めた。採食したり座って休息したりとくつろいでいる。
15時頃に、今度は少し小振りな3〜4歳のクマが現れた。アリの巣を見つけては石をひっくり返してアリを食べている。移動しながら次々とアリの巣を襲っている。近辺にいるシカは早くからクマに気付いてクマの動きをチェックしている。クマが雄ジカの近くにきた時、雄ジカは立ち上がり少しバックしてクマと距離をおく。雄ジカはクマから目を離さないが、遠くへ一目散に逃げることもしない。クマとの距離が縮まるとまた少し後ろへ下がる。クマのほうはシカにはまったく興味を示していない。アリの巣を探して歩きまわっているだけだ。この状況でシカの成獣に襲いかかったところで軽くいなされてしまうだけだ。
今度は1歳の雄ジカとその母親のいる近くを通った。やはり30mほどの距離になるとシカの母子は少し移動してクマとの距離を保つ。クマのほうはせっせとアリの巣を探しながら斜面を登って行く。下方の沢に小さな2歳のクマが現れ、同じようにアリの巣を探しながら斜面を登って行った。
これら2頭のクマが見えなくなった頃、尾根近くで雄ジカが首を伸ばして警戒体制をとっている。その視線の先には大きなクマがいた。クマが近づくと雄ジカは後ろへ下がる。やがて雄ジカは尾根裏へと消えた。
今日はクマとシカのニアミスが何度もあった。しかし、シカの成獣を襲うことはかなり難しいだろう。特に今日のようにクマが斜面の下にいたのでは襲いかかることはまったく出来ない。もしシカの成獣を捕えるとしたら、クマは斜面の上側にいてシカがクマに気付かずにかなり近くまで来ることが必要だ。シカのほうもそのことは十分に心得ていて、30m程度の距離があれば逃げ切れると確信しているようだ。



クマの接近に少しずつ後退するシカ

巣穴から姿を現した子ダヌキたち

数日前に訪れた時には、タヌキの巣穴付近での動きが少なかった。今日もあまり期待せずにやって来たのだが、昼前に巣穴から子ダヌキが現れた。親ダヌキが巣穴の前に行くと、すぐに全身が黒っぽいこげ茶の子ダヌキたちが巣穴から出てきた。3頭以上いるのは確認できたが、岩陰に見え隠れして正確な数は分からない。
子犬のような丸っこい顔をして非常にかわいらしい。すぐに巣穴へ逃げ込めるように、巣穴の入り口からほとんど離れない。親ダヌキは1〜2分で去って行った。子ダヌキたちはすぐに巣穴へと戻った。
子ダヌキたちの顔見せは1回だけだった。



親ダヌキに甘える子ダヌキたち

ススキをかき分け突き進む、母子のツキノワグマ

今日は朝からニホンジカばかりがたくさん出て来て、他の獣はまったく見つからない。今年生まれの子ジカを連れた母子はあちこちにいる。子ジカはやんちゃ盛りといった風で、母ジカから離れて先へ先へと歩いていく。母ジカは採食しながらも、子ジカの動きを足音や目で常にチェックしている。
標高の高い山頂近くには母子は見当たらない。そこには立派な角を持った雄ジカが多い。
夕方になってようやくツキノワグマが現れた。母子グマだ。昨年生まれの子グマを1頭連れている。母子は何かにいらだっているようにガンガンとススキをかき分けて歩いている。クマの姿は時々見える程度だが、ススキがバッサバッサと揺れているのでクマの動きが分かる。子グマも母グマに遅れまいとついて行く。尾根にたどり着き、そこから尾根伝いに登っていった。
以前、このように落ちつきなく足早に歩くクマを見た時には、そのあと子カモシカを襲った。今日のクマも何かを追跡しているのだろうか?
日没が迫り、今日はこれ以上観察は出来なくなった。



ススキをかき分け突き進む

廃屋に集まるニホンジカ

このところ鬱陶しい梅雨空が続き、山へ入れなくてうずうずとしている。あのカモシカはどうしているだろうか?とか、あのキツネは、などと考えているといらいらとしてしまう。
雨の合間に自動撮影カメラのカードを交換する。このカメラは集落のはずれにある廃屋に設置してある。4月末頃からニホンジカが頻繁にやって来るようになった。それまでも1〜2頭が時々訪れていたが、シカは近年かなり増加しているからもっと出て来てもいいのではと思える程度だった。それが5月に入って多い時には一度に8頭もビデオに映っている。それらが何度もここにやって来るものだから記録用のカードが毎回一晩で満杯になってしまう。それも映っているのはシカばかりである。以前出現していたキツネやタヌキ・アナグマ・テンなどはまったく姿を現さなくなった。
シカがこの廃屋を訪れるのは何のためだろうか?シカの目的は、この廃屋に残された漬物桶だった。この家が放置されてから10年以上経っているから桶の中には何も残っていない。シカたちは桶にしみ込んだ塩分を求めてやって来ているのだ。ミネラル分も残っているのかもしれない。桶は艶が出るほどきれいになっている。シカは桶の下の土まで食べている。
ここに来るシカの数は、6月になって減少してきているが、一晩で記録カードが満杯になるのはいまだ変わってはいない。



廃屋に集まり漬物桶を舐める