鉄塔営巣のクマタカ、雛が孵化。繁殖順調

鉄塔に営巣しているクマタカの繁殖は順調に継続している。5月中旬には、まだ抱卵であったが、月末には雛が孵化していた。遠方からの観察なので雛の姿は確認できなかったが、雌親が獲物を引きちぎって給餌している姿が確認できた。

鉄塔は周りの林から飛び出て高いので、森の中の営巣と違って直射日光や雨や風を遮るものがない。以前樹木で営巣していたクマタカの雛が、台風の強風で吹き飛ばされて地上に落ちて死んでいたことがあった。鉄塔の上ではさらに強い風が吹き付けるだろう。強い陽射しもまた小さな雛にとっては致命的だ。親鳥が翼で覆って日陰を作って凌ぐしかない。新しい環境での心配事は次から次へと思い浮かぶのだが、新世代クマタカはそれらの問題をいとも簡単に克服するに違いない。



鉄塔に営巣するクマタカ。
雌親は獲物を引きちぎって雛に与え、時々自分も食べる

クマタカが鉄塔で営巣

クマタカの営巣の多くはマツやスギなどの針葉樹が多く、場所によってはブナやトチなどの落葉広葉樹にも見られる。外からは見えにくいところに巣をかけるのが普通である。ところが、まわりがひらけた見晴らしのいい鉄塔の中腹に営巣しているクマタカペアを先日発見した。このような例はこれまで聞いたことはなく、調べてみても見当たらない。おそらくこれが初めての事例だと思う。

鉄塔を利用した営巣は、同じタカの仲間ではミサゴで時々確認されている。ミサゴはもともと木の頂上などのひらけた見晴らしのいいところに営巣することが多いので、鉄塔もまた似たような環境といえる。しかしクマタカにとってはかなり違った環境となってしまうのだが、これも新世代クマタカのなせる技なのかもしれない。

雄クマタカがヘビを捕まえて巣の近くに戻って来た。巣の脇の鉄塔の横棒に止まり、抱卵中のメスに獲物を持ち帰ったことを知らせている。抱卵期には、持ち帰った獲物を巣には持ち込まない。雄はヘビを持って飛び立ち、近くの林の中へ入って行った。すぐに雌が巣から立ち上がり、雄の後を追って林へと消えた。そこで獲物を雌に受け渡した後、雄は巣に戻って抱卵を開始した。雌が獲物を食べている間、雄が交替して抱卵を受け持つのだ。

今のところ順調に繁殖が続いているが、まわりの見晴らしがいいだけに多くのリスクがある。人間の接近によって営巣を放棄したり、カラスや他の猛禽に卵や雛を取られたりする可能性が高くなる。また、鉄塔は定期的にヘリで飛行して点検しているので、ヘリの接近でクマタカが驚いて巣から飛び出してしまうかもしれない。その際慌てているので卵を蹴り落としてしまう危険性もある。

そんなことを考えている時、偶然にも巡回のヘリが爆音を立てて近づいて来た。クマタカがどのような行動に出るだろうか? ヘリは鉄塔の電線に沿って低空を飛行して近づいて来る。クマタカが営巣している鉄塔の間際を飛行して通り過ぎて行った。クマタカはじっと伏せてヘリが通過するのを見送った。

今回は何事もなく終わったが、ヘリが鉄塔の所でスピードを落としてホバリングすることがあれば、クマタカの行動は違ったものになっていただろう。いろんな心配は尽きないが、繁殖が成功することを祈って今後も静かに観察を続けて行きたいと思う。



鉄塔に営巣するクマタカ。
雄がヘビを持ち帰った。
近くの林に入り、雌に獲物を受け渡した後、雄が抱卵に入る