ニホンジカが背伸びして、高い枝葉を食べる

秋はニホンジカの繁殖シーズンだ。雄ジカは袋角から立派な硬い角へと変わった。雄の縄張り宣言であるフィーーと長いラッティングコールが、山のあちこちから聞こえてくる。

近年、ニホンジカが増えて、伊吹山の草地や樹林の中も植物が食べられて裸地化し始めている。以前は食べなかったトリカブトの葉やコクサギなども積極的に食べるようになっている。
高い所の木の葉には後脚で立ち上がって、枝葉をくわえて枝ごと折取って食べる。背を伸ばし首を伸ばしてもわずかに届かない時には、思わず後脚でジャンプして頑張ることもある。また、角で枝を引っ掛けようとすることもあるが、これはあまりうまくいかないようだ。
植物を食べ尽くしたように見えても、これまで食べなかった植物への順応や採集方法の工夫など、ニホンジカの強さはこの順応性にあるのだと思う。


オレンジカモシカ、雪山に単独で暮らす

オレンジ色のカモシカは昨年出産したが、子カモシカは4日後にはいなくなった。2021年5月15日と19日に書いた通りである。オレンジは子カモシカがいなくなってからは、また単独での生活だ。雄は、繁殖期である9月から10月頃にはオレンジのそばに現れて、お互いにつかず離れずしばらくの間生活した。今はまたそれぞれが単独で暮らしている。

冬の間、カモシカは雪に覆われた山岳地に残っている唯一の大型獣だ。雪の上に寝転んで気持ちよさそうに休息しているオレンジを見つけた。全く寒くはなさそうだ。上質の毛皮が雪の冷たさを遮断しているからだ。
僕もシカ皮をなめした尻当て(尻皮)を敷いて雪の上に座るが、雪の冷たさは感じない。獣たちは素晴らしい防寒着を持っているのだと、尻皮で座るたびに感心させられる。
そのうちにオレンジは立ち上がり、木の細い枝先を折り取ってむしゃむしゃと食べながら、雪の斜面をゆっくりと登って尾根を越えて見えなくなった。
雪山に単独で暮らすカモシカを見て、孤独感や寂しさを感じてしまうのは人間だけなのだろう。オレンジは坦々と生きている。