タヌキのお宿は集合住宅

昨年タヌキが出入りしていた巣穴は今年もタヌキが利用している。伊吹山山麓からは車で少し遠征した場所にあるこの巣穴は、山の尾根にポコポコと飛び出している直径10mほどの大岩や1mほどの小岩の下に掘られている。巣穴は全部で10ヶ所ほどもある。
僕が撮影しているところから2つの巣穴が見える。この2つの巣穴は同じ小岩の下にある。手前の巣穴から入って向こうの巣穴へ出たり、その逆であったりと、タヌキの行動から内部で繋がっていることが分かる。
10日ほど前に僕がここを訪れた時、1頭のタヌキが食物を持ち帰ってきた。その時、まわりから3頭のタヌキが現れた。父母のタヌキと昨年生まれたタヌキとがこの巣穴群で集合住宅のように暮らしているようだ。時には大岩の上で日向ぼっこしながら寝そべったり、巣穴の前で眠ったりとのんびりと暮らしている。
今日も11時頃に大岩に1頭が現れた。一旦寝そべったものの間もなく立ち上がり岩を降りていった。その後も何度か1〜2頭が大岩に現れたが、長居はせずに立ち去った。巣穴への出入りは3〜4回あった。
14時過ぎに大岩に現れた2頭は仲良くお互いを舐めあった後、1頭は岩を降り、もう1頭は岩の上で1時間ほどよく眠っていた。
このタヌキたちがほんとうに親子の家族群なのか?
もう少し観察が必要だ。



大岩の上でくつろぐ2頭のタヌキ

オレンジカモシカ、5歳で初産

山はすっかり新緑に覆われ、哺乳類を探すには少し条件が悪くなった。それでもすぐに対岸斜面にオレンジ色をしたカモシカを見つけた。多くのカモシカが黒っぽい灰色の体色なのでこのカモシカは容易に個体識別ができる。このオレンジカモシカは5年前にこのあたりで産まれて、その後もずっとここで暮らしている。そろそろ子供を産む年齢なので初産を確認したくて追跡しているのだ。昨年はお腹が少し膨れて妊娠しているように見えたのだが、子供を産まなかった。
オレンジカモシカは座って休息した後、立ち上がった。足元に何かがうごめいている。子カモシカだ。まだ足元がおぼつかないながらも母カモシカについて歩く。へその緒もまだ残っている。前回オレンジカモシカを見た時には子供はいなかった。今日までの17日間のうちに生まれているのだが、子カモシカの様子から見て生後一週間ほどだろう。白っぽいオレンジの母親からどんな色の子供が産まれるか興味津々だったが、意外に普通の色だった。顔が白っぽくて目のまわりが焦げ茶色で、少しパンダに似た顔をしているのが特徴になるかもしれない。



母親に寄り添う子カモシカ

カモシカ母子から150mほど下の斜面にニホンジカの母子が現れた。こちらも幼い子ジカを連れている。子ジカは母親のまわりを走り回って活発だ。子ジカは疲れると木陰で休息し、母ジカはこの間に採食に出かける。子ジカもよく心得たもので、母ジカが戻ってくるまで数時間もおとなしく待っている。
カモシカの場合は、こんなに幼い子供を置き去りにして出かけることはめったにない。普段は母子が数十メートルも離れることさえない。今日オレンジカモシカは幼い子供を連れてけっこう歩きまわっている。父親と思われる雄のカモシカがつきまとって追いかけてくるので、オレンジカモシカは嫌がって逃げているのだ。雄は子育てにはノータッチである。母親だけで子供を育てるのだから雄が近づいてくるのは迷惑なのだ。夕方には雄カモシカは遠くへ去って行ったので、オレンジ母子に平和が戻った。

空き家となったアナグマの巣穴

アナグマの様子を見るために、いつもの巣穴のところにやって来た。5月10日に来た時には、アナグマはまったく姿を現さなかった。違う巣穴へ移ったのだろうか?それともアナグマに何かあったのだろうか?有害獣の捕獲罠にかかったのでは…。こんな時にはいつもネガティヴな思考になりがちだ。単にその時は長時間出歩いていたか、巣穴の中で寝ていただけかもしれない。
今日はそれをはっきりさせたいと思ってやって来た。アナグマの巣穴には新しい痕跡は確認できない。7〜8m手前にある巣穴に、新しく土を掻き出した跡がある。
とにかく少し離れて観察する。
9時頃、リスがやって来た。カサコソと小さな音を立てながら右に左に忙しそうに走り回っている。木に登り、枝を伝って木から木へと忍者のように移動していく。
9:30、僕の真上の杉の枝にフクロウが止まっている。今まで気づかなかったが、朝からフクロウに監視されていたようだ。姿は枝葉に隠されてほとんど見えないが、時折隙間から目をのぞかせて僕を見下ろしている。
夕方薄暗くなり始めるまで観察したが、アナグマは出てこなかった。どうやらこの巣穴を今は使っていないらしい。
フクロウはまだ活動を始めずにじっと止まっている。



枝葉の隙間からこちらの様子を窺うフクロウ

木を揺らして遊ぶ?ツキノワグマ

このところ気温が上がり、夏のような暑さだった。今日は標高900mほどの山に登っているので少し肌寒いくらいで気持ちがいい。
早ければカモシカの子どもが生まれている頃なので、母子カモシカを探しに来た。
目的の場所に到着すると、ガサゴソと何かが逃げて行った。付近を探すと昨年の子どもを連れた母子ジカが逃げていくのが見えた。
シカは音にものすごく敏感だから、物音をさせず慎重に撮影機材を準備する。他のシカには気づかれずに準備は整った。
8:30頃、対岸斜面にいる雌ジカが時々斜面上方を注視している。何かがいるのだろう。8:40、その方向にツキノワグマを発見。低木に登って若葉を食べている。シカが気にしていたのはこのクマなのだろう。200m近く離れているが、シカの耳なら足音を察知できるだろう。そのうえ音源の主までおよそ判断しているようだ。シカやカモシカが大きな音を立ててもほとんど逃げることはないが、僕が物音をさせると姿を確認しなくても逃げてしまう。
クマは移動して別の木に登った。どういう訳か、ゆっくりと木を揺さぶっている。ふわーんふわーんとした感触を楽しんでいるように見える。遊んでいるとしか思えない行動だ。10:00、クマは移動し、尾根を越えて見えなくなった。
間もなくカモシカの警戒声がして、クマの消失地点の80mほど下にカモシカが現れた。以前に同じシチュエーションでカモシカの子どもが襲われたことがあった。そのシーンはDVD作品「ツキノワグマ」に収録したが、また同じことが起こるのかと一瞬緊張した。今回はカモシカに子どもはいなくて単独なのでそれほど危険はない。カモシカはクマが行った方向を見ていたが、やがて落ちついて採食を始めた。
11:20、別の場所にクマを発見。林の中で枝葉に隠されて見えなくなった。
先ほどのカモシカは平らな岩の上で昼寝を始めている。



身体を揺らして、故意に木を揺さぶっている

小春日和に奥山散策



太くて大きいワラビが林立する

今日は、地元の人がほとんど行くことのない山奥へ山菜採りに出かけた。清冽な水が流れる沢筋を遡る。ワサビが白い可憐な花を咲かせている。ミズ(ウワバミソウ)もある。岩場にギボウシが伸び始めている。
人の採集圧を受けていない山菜は太くて大きいものが多い。ワラビは茎の太さが1cmもあるのが林立している。
昼食時、対岸の山の斜面にツキノワグマを見つけた。木に登り鮮やかな新緑の葉を食べている。上空高くにイヌワシが舞っている。
夕方帰宅し、ミズとギボウシを塩水でさっとゆがき、タラノメは木灰を入れて茹でる。ゴマドレやマヨネーズなどであえて食べる。ワサビは少量を生のままで肉類と一緒にいただく。ピリッと辛みが効いてさわやかだ。ワラビは木灰で一晩アクを抜くので、明日以降の楽しみだ。

小春日和に里山散策

春の野山は気持ちがいい。
今が一年のうちで最も過ごしやすい気候だ。花が咲き、夏鳥たちのさえずりが賑やかだ。オオルリやクロツグミ、キビタキが競うようにさえずっている。遠くからツツドリの筒を叩くようなポポポポという声も聞こえてくる。太く大きなシマヘビが日向ぼっこをして体を温めている。
小高い丘の地上に巣穴を発見。10m四方の中に出入り口が9箇所もある。80mほど離れたところにも巣穴を発見。出入り口は6箇所だ。出入り口にハエがたくさん飛び回っているので使っているかもしれない。巣穴はいずれも出入り口の直径が20〜30cmで、キツネかタヌキまたはアナグマが使用している可能性がある。
さらに80mほど行ったところにも5箇所の出入り口がある。またさらに80mほど先に2箇所の出入り口がある。
2番目に発見した巣穴の近くに戻った時、ガサゴソとかすかな足音が聞こえた。見ると1頭のアナグマが歩いて近づいてきた。6箇所の出入り口のうち一番端の穴へ入っていった。
午後はこの巣穴を少し離れたところから観察と撮影。
待つこと40分。アナグマが巣穴から顔を出した。近くの枯れた枝葉を集めて巣穴へ引き込んだ。出入り口を隠したのだろうか?
2分後、キツネが僕のいる方向へ歩いて来る。70mほど手前で立ち止まった。僕の気配を感じ取っている。方向を変えて去っていった。キツネもこのいずれかの巣穴を利用しているのだろうか?
視線をアナグマの巣穴へ戻すと、アナグマが巣穴から出て歩いている。尾根を越えて見えなくなった。
2時間後の17:15、アナグマが戻って来た。巣穴の10m手前で座り込んで、しばらく毛繕いをしてから巣穴へ戻った。



巣穴へ戻るアナグマ

アナグマは食事に夢中



鼻先と前脚で地面を掘り、ミミズを探して食べる

このところ毎日のように雨が降り、肌寒い日が続いている。サクラはこの雨の間に満開を迎え、今はほとんど散ってしまった。
家の外は出るのも億劫な雨だが、こんな日にも集落脇の田んぼの畔で餌を探すアナグマがいた。昼間に堂々と、まわりの様子を気にするふうもなく餌探しに夢中になっている。草むらを鼻先と前脚で忙しそうに耕して、時々何かをくわえて食べている。
食べているのは、太くて大きなミミズだった。

昨日のクマ



ササのタケノコを食べるツキノワグマ

8時に昨日の観察地点着。どんよりと曇り、今にも雨が降り出しそうだ。まもなく、昨夕最後まで見ていたほぼ同じあたりにクマ発見。昨夕からほとんど移動していない。このあたりで眠っていたのだろう。昨日同様、新芽を食べている。ササのあるところではタケノコを食べている。

11時前には姿を見失った。雨が降り出した。付近にいると思うのだが、ちょっとしたブッシュや林の陰で姿が見えなくなることが多い。13:35になってようやく姿を現した。やはり遠くには行かずにブッシュの陰で眠っていたのだ。採食と移動を繰り返す。
雨本降りが続く。クマは平気な様子で相変わらず採食を続けているが、こちらは雨にめげて退散する。

冬眠明けのクマ

4月に入りタムシバが咲く季節になった。ツキノワグマたちは冬眠から目覚め、活動を始めている頃だ。今年はまだクマ探しに行けていない。しかし、今年になって初グマはすでに見ている。3月9日に集落近くの川沿いを歩いている痩せて毛づやの悪い1歳のクマを偶然に発見した。前日に小さな子グマがサル捕獲檻にかかっていたらしいのだが、僕が見に行った時にはいなくなっていた。クマの大きさや発見場所がサル檻からそれほど離れていないことから、同一のクマにほぼ間違いはない。10cm四方の網目を抜け出たか、出入り口をうまく持ち上げて逃げたかのどちらかのようだ。昨秋このあたりでは、集落にある柿を食べにクマが大出没した。子グマの痩せこけた様子や行動から、母グマはいない。おそらく昨秋大出没した時に母グマは捕獲されてしまったのだろう。子グマは空腹のあまり冬眠もそこそこに活動を始め、サル檻のサツマイモに引き寄せられて捕まったのだ。一旦はうまく逃げ出したものの、4月2日になって目撃場所近くで子グマの死体を発見した。ほとんど骨と皮だけになっていた。僕が目撃してから数日のうちに死んでしまったようだ。母親なしでは冬を乗り切ることは出来なかったのだ。



タムシバの花を食べるツキノワグマ

今日4月9日、遅まきながらクマ探しに出かけた。昼前に観察ポイント着。すぐに1頭目のツキノワグマを発見。予想したとおり、タムシバの木に登って花を食べている。12:20頃に2頭目を発見。地上の灌木の根元で眠っている。冬眠明け間もないので食い気より眠気のようだ。14:30頃に3頭目を発見。地上で灌木の新芽を食べている。3頭は離れた別々の場所にいるが、同時に見えている。眠っていたクマも起きて採食したり、また眠ったりを繰り返している。1頭目のクマは別のタムシバの木に登り変えている。たくさんの白い花が咲いてきれいだったタムシバの木は、クマが登ったあとには花がかなり食べられて遠目には目立たなくなっている。2本目の木も見る見る色あせていく。16時頃には1頭目と2頭目の姿が林の中で見えなくなってしまった。3頭目は見え隠れしながらもまだ採食を続けている。発見した時の場所から100m以内をうろついている。18:30少し薄暗くなり始めた。今日の観察は終了。

Vol.56 アフリカ撮影記 Ver.16 保護色は誰のため?



猛獣たちは保護色をしている。チーター、ライオン、ヒョウ。

大地に溶け込み森林にまぎれ、ブッシュに隠れて見えにくくなるのが動物たちの保護色だ。保護色は、草食動物が肉食獣に見つからないためにあるものだと思い込んでいた。ところが、アフリカでライオンやチーター・ヒョウなどの肉食獣を見ていると、以外にもそうではないことに気がついた。肉食獣に追われる草食獣よりも、肉食獣のほうが見つけにくい保護色をしているではないか。

ライオンやチーターが草原に横たわって獲物の動きを追っている姿は見つけにくく、彼らが保護色をしていることを実感する。むしろ、狙われている草食獣のほうがよく目立ち、肉食獣より先に僕の目に止まることが多い。肉食獣は獲物となる動物たちに逸早く見つかってしまうと狩りを成功させることはできない。いくら俊足でも、ある程度距離を詰めてからでないと狩りは成功しない。

チーターが姿勢を低くしてブッシュに隠れながらじわりじわりと距離を詰めていく姿を見ていると、その緊張感が僕にもびんびんと伝わってくる。草食獣も常にまわりを警戒しているから、チーターがデッドラインに到達する前に気づいて逃げてしまうことも多い。

ある時、ヌーとシマウマの群れが同じ方向に向かって警戒声をあげていた。前脚で地面を軽く蹴って威嚇しているようにも見える。その視線をたどると、100メートルほど前方のブッシュの陰に数頭のライオンがいる。ヌーとシマウマは威嚇のような仕草をして、仲間にライオンの存在を知らせている。この距離ならば逃げ切れることを彼らは知っているから、このような挑発的な行動を取っているのだ。

ライオンのほうもそれが分かっているから、この距離から一気に襲いかかることはしない。手分けしていろんな方向から隙をついて近づこうとしている。両者の間にピリピリと張りつめた時間が流れる。しかし、一旦警戒されてしまうと、あの手この手の試みも成功しない。30分ほど経って、ライオンは今回の狩りを断念し、座って休息し始めた。ヌーとシマウマたちも警戒を解き、ゆっくりと遠ざかって行った。

強いものが追いかけ、弱いものはいつも逃げ回っているのかというとそうではない。食うもの食われるものが互いに意識しながらも、意外なほど冷静に共に暮らしている姿に、ある種の不思議さを感じる。

木の上で寝転がっているヒョウもまた保護色をしていて見つけにくい。木漏れ日を浴びた樹木の幹にヒョウの模様が溶け込んで見分けが困難だ。ヒョウは木化けして近くを通りかかる獲物を待ち伏せている。

肉食獣の狩りは派手な攻防だけではなく、休息している時にすでに始まっている。座ってくつろいでいるように見える時でさえ、周辺の動物の動きを常に監視している。この時にこそ周囲の環境に溶け込んだ保護色は有効だ。獲物となる動物が気づかずに近づいてくるのを待っている。

肉食獣は保護色に助けられて狩りを成功させることができる。もしも派手な目立つ色彩をしていたなら、獲物にありつけずに死んでしまうだろう。アフリカの大地で肉食獣と草食獣を見ていると、隠れているのはむしろ肉食獣のほうだ。肉食獣は、草食獣以上に保護色を利用して生きているのだ。