Vol.41 ハクビシン:外来種の分布拡大

午前3時22分、自動撮影カメラの前を通過するハクビシン。

「ハクビシン」。聞き慣れない名前の哺乳類である。漢字で書くと「白鼻心」。

名前のとおり額から鼻筋にかけて、よく目立つ白い線があるのが特徴である。赤外線センサーを利用した自動撮影カメラには、夜間にだけその姿が撮影される。ハクビシンは、ほぼ完全な夜行性であると思われる。

夜間に強力ライトで照らしながら野生動物を探して歩いていると、樹上にハクビシンの姿を見つけることがある。長い尾と、しなやかな体で上手くバランスをとりながらすいすいと登っていく。低木に登っているところに出くわして、ハクビシンが逃げ場を失ってじっと樹上で固まってしまったことがあった。僕の頭上2mほどのところで、どうする術も無く丸くなってこちらを見下ろしている。しばらく観察するが動く様子もない。結局、僕のほうが退散することにした。

夜間、野生動物の姿を見るのは難しいが、ライトで照らすと2つの眼が光を反射して遠くからでも動物がいることがわかる。姿や形は見えないが、とにかく光を反射した眼だけが動き回っている。ライトに照らされたハクビシンの眼は、青白く輝いている。一方、遠目には姿形がハクビシンと似ているタヌキの眼は、オレンジ色を帯びて輝いて見える。

眼の動きを追いながら夜の動物観察を続けるうちに、ライトに反射する眼の色、行動の仕方(眼の動き)、地上からの眼の高さなどによって、キツネやタヌキやアナグマなどとハクビシンを見分けることができるようになった。そう言えば、アフリカのパークレンジャーもライトに反射する眼の光だけで遠くにいる動物の種類を素早く見分ける。彼らも長年の経験で、眼からいろんな情報を読み取っているに違いない。彼らの観察眼と動物的な直感のすごさにはいつも感心させられる。

ハクビシンは、東南アジア・中国・台湾に分布していて、もともと日本に生息していた動物ではない。毛皮用などの目的で人為的に持ち込まれた外来種である。その後、逃げ出したり捨てられたりしたものが急速に分布を拡大させて個体数を増やしている。滋賀県内に設置した自動撮影カメラには、ハクビシンがたびたび記録される。ネズミ類を除けば、タヌキ、アナグマに続いて3番目に多く、親子連れも撮影されていることから、日本の環境に適応して定着しつつあることがうかがえる。車にはねられたハクビシンの死体を道路上で見かけることも多くなった。

外来種が定着すると、様々な問題が起こる。中でも在来種に与えるインパクトは深刻だ。日本に生息している在来種と持ち込まれた外来種の間で競合が起こり、在来種の生息状況を大きく変えてしまう怖れがある。場合によっては、在来種を絶滅へと追いやってしまう可能性もある。ハクビシンは木登りが上手く、鳥の卵や雛なども食べるので、小鳥にとって脅威となる。また、果実を好んで食べることから農業被害も起こっている。外来種の進出によって、今後新たな問題が次々と浮かび上がってくるだろう。