Vol.16 ノスリ:停空飛翔でハンティング

停空飛翔で獲物を探す

ノスリは、北日本では留鳥として一年を通して生息するが、西日本ではほとんどの個体が冬鳥として秋から翌年の春までだけ滞在する。

夏鳥たちが去った後、入れ替わるように北からノスリが渡ってくる。山地から平地までの広い範囲で見ることができる。注意深く探せば、思わぬ身近なところで出会えるタカである。

農耕地で杭や電柱に止まっている姿はトビと似ているが、体全体がトビより白っぽく淡い色彩をしている。胸から腹にかけてはクリーム色で、両わき腹には焦げ茶色のパッチがある。
ノスリや他の猛禽類全般に言えることだが、彼らは一日の大半を狩りのために費やしている。ノスリは、見晴しの利く樹木に止まって地上を注視しながらノネズミや小鳥などの獲物が現れるのを待つ。獲物を見つけると一気に急降下して襲いかかる。風が吹かない日はこのような「待ち伏せ型」のハンティング方法を、転々と場所を変えながら行っている。

風が強い日には、「停空飛翔型(停飛)」のハンティングを頻繁に行う。停飛ハンティングは、山の斜面を吹き上げる風や向かい風を利用して、空中の一点に凧のように浮かんで地上に現れる獲物を探す方法である。翼と尾羽を広げたり閉じたりと微妙に調節しながらバランスをとっている。体が上下左右にわずかに動いても頭部の位置はまったく動かない。頭部を軸にして体が動いているように見える。頭部を動かさないことは、バランスをとるのに非常に重要であろうし、目の位置が変わらないので獲物を探すことに集中できる。

停飛ハンティングは、高空から広い視野で獲物を探したり、地上近くでポイントを絞って獲物を探すなど、停飛と移動をくり返して場所を変えながら続けていく。冬季に山の稜線を探すと、4〜5羽が尾根上に並んで停飛ハンティングをしている光景を観察できることも珍しいことではない。

ノスリは生きた獲物を狩るが、自分自身もさらに大型のイヌワシやクマタカに狙われる可能性がある。実際にイヌワシに襲われたノスリを何度か観察したことがある。いずれの場合もノスリは、イヌワシペアの交互の急降下攻撃をぎりぎりのところでかわしながら、羽ばたいて急上昇した。ノスリがイヌワシと同じくらいに高度を上げるとイヌワシの攻撃は収まった。ノスリは、イヌワシに襲われたときにやみくもに遠くへ逃げようとするのではなく、高度を上げるほうがイヌワシの攻撃を早く中止させることができるということを心得ているのだ。

イヌワシやクマタカは、ノスリよりも高い位置から急降下で襲ってくるから、ノスリは下を見て獲物を探しながらも、時々頭を持ち上げてまわりの様子を確かめている。自分より高い位置にイヌワシやクマタカが現れたなら、羽ばたきを交えてスピードを上げ、いち早く遠くへと去っていく。発見が遅れてしまうと命取りになる。