Wahlberg’s Eagleの恋

快晴の暑い日が戻って来た。南部アフリカは、季節が日本とは逆なので今は早春である。夏鳥たちがちょうど渡って来る時期だ。

お互いに羽繕いをしあう

お互いに羽繕いをしあう

イヌワシの仲間のWahlberg’s Eagleも夏鳥としてやって来る。9月の初めまではめったに姿を見なかったが、数日前から急に目に付くようになった。昨日の夕方、枯木に止まるペアを見つけた。2羽が寄り添って止まり、頭や首の羽繕いをお互いにしあっている。求愛ディスプレイの一種と思うが、延々と続いてお互いにうっとりして気持ち良さそうだ。

今日の夕方、またその場所を通りかかると、同じ枯木に昨日とまったく同じようにペアが止まって羽繕いしあっている。午前中にここを通った時にはいなかったので、夕方になるとこの枯木にやって来るようだ。彼らも恋の季節なのだ。

このほほ笑ましい光景に、通りかかった多くの人たちが車を止めて観察していく。これほど多くの人たちに祝福されるWahlberg’s Eagleは他にはいないだろう。

小春日和に奥山散策



太くて大きいワラビが林立する

今日は、地元の人がほとんど行くことのない山奥へ山菜採りに出かけた。清冽な水が流れる沢筋を遡る。ワサビが白い可憐な花を咲かせている。ミズ(ウワバミソウ)もある。岩場にギボウシが伸び始めている。
人の採集圧を受けていない山菜は太くて大きいものが多い。ワラビは茎の太さが1cmもあるのが林立している。
昼食時、対岸の山の斜面にツキノワグマを見つけた。木に登り鮮やかな新緑の葉を食べている。上空高くにイヌワシが舞っている。
夕方帰宅し、ミズとギボウシを塩水でさっとゆがき、タラノメは木灰を入れて茹でる。ゴマドレやマヨネーズなどであえて食べる。ワサビは少量を生のままで肉類と一緒にいただく。ピリッと辛みが効いてさわやかだ。ワラビは木灰で一晩アクを抜くので、明日以降の楽しみだ。

中越森林管理署「イヌワシ保全シンポジウム」

中越森林管理署主催による「イヌワシ保全シンポジウム」に、パネラーとして弊社より須藤明子が参加します。以下、開催の要旨です。

「中越森林管理署では、管内のイヌワシの繁殖状況や行動のモニタリング等を新潟県イヌワシ保全研究会に調査委託し、得られたデータを基に国有林野の森林施業の検討を実施しているところです。 そこで、「森林施業からみたイヌワシの保全」というテーマのもと、これまでの研究成果を広く県民の皆様に発表するとともに、民国連携した取組の紹介をすることを目的として下記のとおりシンポジウムを開催します。 さらに本シンポジウムでは、より多角的な面からイヌワシ保全を検討するため「イヌワシと里山林の整備」「イヌワシと人間活動」等について併せて検討します。 」

□「イヌワシの生態と生息地保全」須藤明子(日本イヌワシ研究会)
□「新潟の農林業とイヌワシ」柳川雅文(新潟県イヌワシ保全研究会)
□「里山林の生態系の維持」大住克博(森林総合研究所関西支所)
□パネルディスカッション コーディネーター 谷本丈夫(宇都宮大学)

□詳細はこちら

■主催:林野庁 関東森林管理局 中越森林管理署
■日時:2014年2月6日(木)13:30~17:00
■会場:南魚沼市民会館 多目的ホール
■定員:200人(参加無料)
■お問い合わせ:中越森林管理署

週刊「日本の天然記念物 動物編」イヌワシ

写真 須藤一成(表紙他15点提供)
発行 2003年 小学館
取扱 Amazon
内容 2002年6月6日から50週連続で発行されたウィークリーブックで、日本の天然記念物を写真とイラストでわかりやすく解説している。全ての号に解説されている動物の立体フィギュアが付属している。

写真集 イヌワシ Golden Eagle

著者 須藤一成
発行 1994年 平凡社
取扱 Amazon
内容 日本の森林生態系の頂点に立つ大型猛禽類イヌワシ。日本国内の生息数は500羽程度とされ,絶滅の危機に瀕している。イヌワシのダイナミックな狩り,悠々たる飛翔,人の手の届かぬ断崖での子育てなど,その生活史のすべてを日本で初めてとらえた写真集。

Vol.40 イヌワシの生息環境を脅かす風力発電

風況ポールに当たる直前で回避するイヌワシ

地球温暖化に拍車をかけるCO2(二酸化炭素)の排出量削減を目指して、各地で風力発電の計画が持ち上がっている。

風力発電は、再生可能なクリーンエネルギーとして注目を集めている。しかし、この環境に優しいエネルギーも、風車の設置場所の選択を誤るとバードストライク(鳥類の風車への衝突死)が多発し、風車本体や道路・送電線などの建設によりCO2の吸収源である森林が伐採され、野生生物の生息地破壊も引き起こす。

風車のプロペラは、先端部で時速300km以上になることもあり、鳥の目にはプロペラが見えなくなってしまうのだ。この現象は「モーションスメア現象」と呼ばれている。

5,000基あまりの風車が立ち並ぶ米国のアルタモントパスのウィンドファームの例では、猛禽類だけで年間1,000羽前後が衝突死している。日本国内では北海道苫前町にある3基の風車近くで、2004年2月と3月に相次いでオジロワシの切断死体が発見されている。また、2004年9月には、根室市の5基の風車近くでオジロワシの切断死体が発見された。

風力発電が、環境に優しいクリーンなエネルギーとして機能するために、以下のような場所への設置は避けるべきだと考えられている。

・渡り鳥のルートになっている地域
・希少種の生息地
・国立公園や鳥獣保護区など
・風車の建設によって自然環境の価値が下がる地域

また、新エネルギー財団では、風力発電を設置するには、その場所までの搬入道路があることや、近くに高圧送電線が通っているなどの条件を満たすことが必要であると明記している。

風力発電は、再生可能なクリーンエネルギーとしての利用価値は十分にあるだろう。しかし、巨大な風車を設置するのだから自然環境や野生生物への影響が大きくなることも忘れてはならない。

ところが、避けるべき場所での風車建設計画が、全国に多数存在している。その中のひとつに、滋賀県米原市の奥伊吹地域に計画されている風力発電施設がある。ここは、天然記念物で国内希少野生動植物種に指定されているイヌワシの生息地である。胸高直径が60〜100cmのブナ林が残る動植物豊かな地域である。伊吹町(現米原市)が実施した動植物調査の結果では、積極的に自然環境を守る地域としてゾーニングされている。

風力発電計画地でのイヌワシの行動をビデオ撮影するために、7月に2日間現地で観察した。1日目、イヌワシは1回出現し、計画地尾根を横切って消えた。2日目、イヌワシは9回出現した。ペアで計画地の尾根に沿って獲物を探しながら何度も往復し、風車の設置予定地点を15回も通過した。

ここには風力や風向などを調べるために高さ約30mの風況ポール1本が立っている。ポールは何本ものワイヤーに支えられて立っている。イヌワシは獲物を探しながら下を見て飛行していたので、このポールとワイヤーに直前で気付いて回避するといった場面があった。これが風車であったなら、見えないプロペラに巻き込まれていただろう。

この地域に風力発電施設が建設されれば、イヌワシが風車に巻き込まれることは必至である。ブナ林を切り開き、道なき尾根部に道路や鉄塔・送電線を新設することにもなる。

奥伊吹地域は風車の設置を避けるべき場所なのだ。

クリーンエネルギーと地域振興を隠れ蓑に、この計画が推し進められようとしている。自然環境の指標種であるイヌワシを守らなければ…。

Vol.21 猛禽類の生存戦略

人工物に止まるクマタカ

猛禽類は、個体数の減少や繁殖成功率の低下など、将来が危ぶまれる種類が多い中で、環境の変化にうまく順応してしたたかに生きる種類も少なからずいる。

猛禽類は警戒心が強く、人間とは距離を置いて生活していると考えられていたが、近年では都市部のビル街や市街地の公園で繁殖するものなど、人間の往来の激しい場所へ進出する個体が見受けられるようになった。オオタカやハヤブサの仲間は人間が作り出した新しい環境に順応して繁殖を始めている。

猛禽類の生存を左右する主な要因は、獲物となる動物の豊富さである。彼らは、都市部や郊外で増えているドバトやスズメなどに目をつけたのだ。中型のオオタカやハヤブサはドバトを主に捕食し、小型のハイタカやツミなどはスズメや他の小鳥を捕食する。

本来岩場で繁殖するハヤブサは都市部の高層ビルで繁殖し、森林性のオオタカの仲間は公園や郊外の林に営巣する。人間への警戒心を少しずつ和らげながら進出してきたのである。

市街地に進出する猛禽類がいる一方で、イヌワシやクマタカは山地に住み続ける。彼らはノウサギやヤマドリ・リス・テンなどを獲物とするために、市街地への進出はありえないだろう。イヌワシやクマタカは、昔ながらの自然環境が残る山地帯で生活し続けるしかないのだ。昔ながらの自然環境とはいっても、近年では奥山にまで開発の波が押し寄せ、彼らの生活も少しずつ変わってきている。

山地に住むクマタカだが、山の中にそびえ立つ巨大な人工物である高圧鉄塔をよく利用する。まわりの樹木よりも何倍も高い鉄塔は見晴らしが利くので、獲物を探すのにも周辺の見張りをするのにも非常に都合がいい。しかし、高圧鉄塔は感電の危険性がある。実際に感電して黒焦げになったクマタカの死体も見つかっている。飛行中に高圧線にぶつかる危険性もあり、海外の国立公園などでは、高圧線によく目立つ目印をつけたり、鉄塔の感電する恐れのある部分に止まれなくして、代わりに安全な位置に止まり木を取り付けているところがある。

高圧鉄塔はイヌワシにも利用価値の高いものだと思えるが、イヌワシが鉄塔に止まったのを一度も見たことがない。

猛禽類も環境の変化を有利に利用できるように少しずつその環境に順応してきている。獲物が豊富で営巣地が確保できるのであれば、少々の環境変化は受け入れてしまうのだ。しかし、市街地やその郊外の環境の変化は非常に早く大きい。1年後には営巣地や獲物が同じところで確保できるかどうかわからない。非常に不安定な生息地であることは間違いない。

人工物をほとんど利用することのないイヌワシは、環境の変化にも弱い猛禽だと考えられる。その分イヌワシの生息する山地帯は、近年の機械化された奥山開発に圧迫されてはいるものの、市街地周辺に比べると環境の変化は比較的ゆっくりしたものである。

環境への適応力が高い猛禽と、適応力は低いが変化の小さい生息地に住む猛禽、どちらの選択が有利だろうか?

個としては後者の方が、種としては前者の方が有利であろう。

さて、選択の余地があるならば、自分はどちらを選ぶだろうか。

Vol.14 イヌワシ:ライバルはクマタカ

イヌワシの強力なライバル

日本の山地に生息するワシタカ類の中で、イヌワシは最も大きくて力強い。

イヌワシの天敵といえる動物はほとんどいない。イヌワシに天敵がいるとしたらそれは人間であるかもしれない。人間がイヌワシを捕まえて殺してしまうというケースは少ないが、人間活動の増大とともにイヌワシは生息場所を追われつつある。

イヌワシには、天敵ではないが強力なライバルがいる。イヌワシと同じ山地に生息するクマタカである。体のサイズはイヌワシよりひとまわり小さい。小さいとはいえ、体長は70〜80cmとイヌワシに次ぐ大型のワシタカ類だ。

両種ともにノウサギやテン・ヤマドリ・ヘビなどを捕食する。獲物が競合するためと思われるが、イヌワシはクマタカを見つけると、すかさず攻撃をかけて追い払う。

ある晴れた日、クマタカはゆったりと帆翔し空高く舞っていた。急に翼をすぼめて急降下を開始し、慌てて林の中へと消えていった。すかさずイヌワシが現れ、クマタカが消えた林の上を低く飛び回ってクマタカを探した。

またあるときには、イヌワシの営巣地の近くを通りかかったクマタカに対して、上空から弾丸のように急降下して攻撃した。イヌワシの攻撃に気づいたクマタカは、一目散に林の中へ逃げ込んだ。

イヌワシの攻撃を避けられずに、2羽がもつれ合うように林の中へ落下していったことがあった。林の中からすぐに出てきたのはイヌワシだった。一方、クマタカは出てくるのを確認できなかった。得意の林内飛行で移動して行ったのかもしれない。けがをしていなければいいのだが…。

両種の出会いはいつも、少し体の大きいイヌワシが優勢である。翼が短く林の中を上手に飛行するクマタカは、林の中に入ることでイヌワシの攻撃をかわしている。

イヌワシが生息する場所では、クマタカは長時間帆翔したり、高く舞い上がったりするような目立つ行動をあまりしない。イヌワシとの干渉をできるだけ少なくしているようだ。イヌワシが頻繁に出現する場所では、クマタカが生息しているにもかかわらず、その姿を見ることは少ない。

数年前までイヌワシが生息していた場所では、以前はクマタカはほとんど姿を見せず、時折ちらりと姿を見せる程度であったが、イヌワシが姿を消してまもなく、クマタカが悠々と舞い、ハンティングする姿が頻繁に見られるようになった。クマタカは、イヌワシとまともに出くわすことがないように行動を調整していたのだ。

両種は同一地域に暮らしながら、クマタカが林内、イヌワシが開けた場所を主なハンティングエリアとして棲み分けている。