日本の山地に生息するワシタカ類の中で、イヌワシは最も大きくて力強い。
イヌワシの天敵といえる動物はほとんどいない。イヌワシに天敵がいるとしたらそれは人間であるかもしれない。人間がイヌワシを捕まえて殺してしまうというケースは少ないが、人間活動の増大とともにイヌワシは生息場所を追われつつある。
イヌワシには、天敵ではないが強力なライバルがいる。イヌワシと同じ山地に生息するクマタカである。体のサイズはイヌワシよりひとまわり小さい。小さいとはいえ、体長は70〜80cmとイヌワシに次ぐ大型のワシタカ類だ。
両種ともにノウサギやテン・ヤマドリ・ヘビなどを捕食する。獲物が競合するためと思われるが、イヌワシはクマタカを見つけると、すかさず攻撃をかけて追い払う。
ある晴れた日、クマタカはゆったりと帆翔し空高く舞っていた。急に翼をすぼめて急降下を開始し、慌てて林の中へと消えていった。すかさずイヌワシが現れ、クマタカが消えた林の上を低く飛び回ってクマタカを探した。
またあるときには、イヌワシの営巣地の近くを通りかかったクマタカに対して、上空から弾丸のように急降下して攻撃した。イヌワシの攻撃に気づいたクマタカは、一目散に林の中へ逃げ込んだ。
イヌワシの攻撃を避けられずに、2羽がもつれ合うように林の中へ落下していったことがあった。林の中からすぐに出てきたのはイヌワシだった。一方、クマタカは出てくるのを確認できなかった。得意の林内飛行で移動して行ったのかもしれない。けがをしていなければいいのだが…。
両種の出会いはいつも、少し体の大きいイヌワシが優勢である。翼が短く林の中を上手に飛行するクマタカは、林の中に入ることでイヌワシの攻撃をかわしている。
イヌワシが生息する場所では、クマタカは長時間帆翔したり、高く舞い上がったりするような目立つ行動をあまりしない。イヌワシとの干渉をできるだけ少なくしているようだ。イヌワシが頻繁に出現する場所では、クマタカが生息しているにもかかわらず、その姿を見ることは少ない。
数年前までイヌワシが生息していた場所では、以前はクマタカはほとんど姿を見せず、時折ちらりと姿を見せる程度であったが、イヌワシが姿を消してまもなく、クマタカが悠々と舞い、ハンティングする姿が頻繁に見られるようになった。クマタカは、イヌワシとまともに出くわすことがないように行動を調整していたのだ。
両種は同一地域に暮らしながら、クマタカが林内、イヌワシが開けた場所を主なハンティングエリアとして棲み分けている。