Vol.43 カワウ:琵琶湖で激増

巣は樹木の枝の至る所に作られている

近年、イヌワシやクマタカなどの猛禽類が自然環境の悪化とともに減少しているとは逆に、個体数が増加している鳥類がいる。

全身真っ黒な水鳥、カワウがその一つである。カワウの生息地である河川や湖沼の状態が、以前と比べて良くなっているわけではないけれども、滋賀県のようにカワウが急激に増えている地域が多くなった。

昨年、滋賀県の琵琶湖では、3万5千羽の生息が確認されている。2万羽以上のカワウが集団で繁殖する竹生島は、日本全国でダントツに個体数が多い最大の繁殖地である。早朝、群れが一斉に採食場所へ飛び立つ様子は、空一面が真っ黒になると言っても過言ではない。カワウは、魚が集まる場所を目指して次々と飛び去っていく。早朝には琵琶湖へ流れ込む河川の河口に向かうことが多い。日中には、大集団が魚を捕りながら湖上を移動しているのもよく目にする。

野生動物が増加するためには十分な餌量が確保できることが前提である。カワウが異常なほどに個体数を増やしたのは、餌となる魚の生息状況に変化が起きている可能性が高い。釣りのために河川に大量に放流される養殖魚は警戒心が弱くカワウに捕獲されやすい。琵琶湖ではブラックバスやブルーギルなどの外来魚が増殖している。漁業形態の変化や河川環境の変化もまた、カワウが魚を捕りやすい状況を作り出している。梁漁や堰堤などでせき止められた場所では、魚の行き来が遮られてたまり場となりやすく、カワウにとって絶好の餌場となっている。人間の活動がカワウの異常な増加の一役を担っていることは間違いないであろう。

営巣の状態もまたすさまじいものがある。一本の木に20〜30個もの巣が架けられていることも珍しくない。超過密状態である。隣り合った巣では、首を伸ばせば隣の巣まで届いてしまうほどの密集ぶりだ。上の巣から落ちてきた糞を、下の巣にいるカワウが頭からかぶりながらも平気な顔をして卵を抱いている。

巣の下を歩くときは要注意だ。タイミングが悪いと液状の糞が頭上から降ってくる。さらにゲロ爆弾なるものも投下される。これは、カワウのヒナの仕業である。親からもらって食べた魚を口から吐き戻して落とすのだ。半分消化しかかった何匹ものどろどろの魚の塊であるから、これが付着すると臭くてたまらないし、高いところから落ちてくるから当たり所が悪いとかなり痛い。

ヒナの様子を見ていると、明らかに巣に接近する人間を狙ってゲロ爆弾を投下していることが分かる。人間を巣の近くから退散させるのが狙いだ。カワウの狙いどおり、大した目的がなければすぐさま逃げ帰るところであるが、我々にはカワウの現状を調査し、撮影するという任務がある。このまま逃げ帰るわけにもいかない。常に自分が歩くルート上にある巣の中のヒナの様子を見ながら突き進むしかない。ヒナが大きな口を開けて爆弾を投下しそうになると、こちらは直前で立ち止まって爆弾をかわす。ヒナがお尻を巣の外に向けて糞をしそうになると、こちらは慌ててその場を走り去る。

すべてを避けて通ることは難しい。帰る頃には体中にすっかり臭いが染み付いている。人間の感覚はよくしたもので、自分では臭いが気にならなくなる。しかし、すれ違った人は鼻がひん曲がるほど臭かったに違いない。