今日は朝から獣の姿が見当たらない。いつもならあちらこちらでニホンジカが採食しているのだが…
8時過ぎになって僕から80mほどのところにツキノワグマが現れた。僕がいることには気付いていない。そのうちに僕の臭いを感じて一瞬顔を少しだけこっちへ向けた。それでもクマは動揺することなく悠々と歩いて僕の視界から消えた。
朝からシカの姿が見えなかったのは、近くにクマがいたから姿を隠していたのかもしれない。子連れの場合はなおさらだ。クマが視界から消えてしばらくしてから、ニホンジカがぽつぽつと現れ始めた。採食したり座って休息したりとくつろいでいる。
15時頃に、今度は少し小振りな3〜4歳のクマが現れた。アリの巣を見つけては石をひっくり返してアリを食べている。移動しながら次々とアリの巣を襲っている。近辺にいるシカは早くからクマに気付いてクマの動きをチェックしている。クマが雄ジカの近くにきた時、雄ジカは立ち上がり少しバックしてクマと距離をおく。雄ジカはクマから目を離さないが、遠くへ一目散に逃げることもしない。クマとの距離が縮まるとまた少し後ろへ下がる。クマのほうはシカにはまったく興味を示していない。アリの巣を探して歩きまわっているだけだ。この状況でシカの成獣に襲いかかったところで軽くいなされてしまうだけだ。
今度は1歳の雄ジカとその母親のいる近くを通った。やはり30mほどの距離になるとシカの母子は少し移動してクマとの距離を保つ。クマのほうはせっせとアリの巣を探しながら斜面を登って行く。下方の沢に小さな2歳のクマが現れ、同じようにアリの巣を探しながら斜面を登って行った。
これら2頭のクマが見えなくなった頃、尾根近くで雄ジカが首を伸ばして警戒体制をとっている。その視線の先には大きなクマがいた。クマが近づくと雄ジカは後ろへ下がる。やがて雄ジカは尾根裏へと消えた。
今日はクマとシカのニアミスが何度もあった。しかし、シカの成獣を襲うことはかなり難しいだろう。特に今日のようにクマが斜面の下にいたのでは襲いかかることはまったく出来ない。もしシカの成獣を捕えるとしたら、クマは斜面の上側にいてシカがクマに気付かずにかなり近くまで来ることが必要だ。シカのほうもそのことは十分に心得ていて、30m程度の距離があれば逃げ切れると確信しているようだ。
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廃屋に集まるニホンジカ
このところ鬱陶しい梅雨空が続き、山へ入れなくてうずうずとしている。あのカモシカはどうしているだろうか?とか、あのキツネは、などと考えているといらいらとしてしまう。
雨の合間に自動撮影カメラのカードを交換する。このカメラは集落のはずれにある廃屋に設置してある。4月末頃からニホンジカが頻繁にやって来るようになった。それまでも1〜2頭が時々訪れていたが、シカは近年かなり増加しているからもっと出て来てもいいのではと思える程度だった。それが5月に入って多い時には一度に8頭もビデオに映っている。それらが何度もここにやって来るものだから記録用のカードが毎回一晩で満杯になってしまう。それも映っているのはシカばかりである。以前出現していたキツネやタヌキ・アナグマ・テンなどはまったく姿を現さなくなった。
シカがこの廃屋を訪れるのは何のためだろうか?シカの目的は、この廃屋に残された漬物桶だった。この家が放置されてから10年以上経っているから桶の中には何も残っていない。シカたちは桶にしみ込んだ塩分を求めてやって来ているのだ。ミネラル分も残っているのかもしれない。桶は艶が出るほどきれいになっている。シカは桶の下の土まで食べている。
ここに来るシカの数は、6月になって減少してきているが、一晩で記録カードが満杯になるのはいまだ変わってはいない。