雄ジカは雌ジカより大胆or鈍感?

ニホンジカの聴力は人間とは比べ物にならないほど優れている。人間の僅かな足音を鋭くキャッチして、いち早く逃げていく。最初に物音に気づいて逃げるのは雌ジカと子ジカである。雄ジカは同じ距離のところにいても、なぜか警戒しないことが多い。雄と雌で聴力に差があるのだろうか?

外見上はほとんど同じ耳に見えるから、聴力の差とは考えにくい。雌ジカは子ジカを連れていることが多いので、出来るだけ遠くから危険を回避しようと敏感になっているのだろう。その点雄ジカは子育てには関与しないので、雌ジカと比べて大胆に振舞っているのかもしれない。



雄ジカは近距離で採食中

個体識別できるニホンジカ

オレンジ色をした個体識別できるカモシカについては度々書いているが、ニホンジカにもはっきりと個体識別できる個体がいる。そのシカには、体に大きな白斑がある。普通夏毛のシカには鹿の子模様と呼ばれる小さな白斑がたくさんあるのだが、このシカには肩から背中にかけて明らかに他とは違う数個の大きな白斑が付いている。おまけに左目だけまつげが白い。

この白斑ジカに出会ったのは2年半ほど前だ。個体識別が出来ると、その個体の動向がいつも気になってしまう。3ヶ月ほど姿を見なかった時には、もう死んでしまったのかなと思ったりもしたのだが、再び姿を現してからは割と頻繁に出現している。

白斑ジカは、この間に1回だけ(昨年)子どもを産んで育てた。子ジカには母ジカのように大きな白斑はなく、普通の体色である。その子ジカは今年も母ジカと一緒に行動している。
白斑ジカをいつまで追い続けられるのか、オレンジカモシカとともに気になる存在だ。



背中周辺の大きな白斑と左目のまつげが白いニホンジカ

ドローンで空から訪問。ニホンジカの群れ

上空から見るとシカに食い荒らされて草地がパッチ状になっているのがよく分かる。以前は膝から腰あたりの高さまで植物に覆われていた草地が、今では背の低い植物がパッチ状に生育しているだけになっている。シカが日中に隠れている林の中は草地以上に林床の植物がなくなっている。数十頭のシカが毎日食べているのだから、植物の成長がとても追いつかない。
ドローンで手軽に上空から観察や撮影ができるようになったのだが、野生動物にとってはかなり迷惑なものになりかねない。シカはこれまで遭遇したことのないドローンにかなり警戒している。100mほどに近づくとドローンのプロペラ音に反応して警戒し始める。さらに接近すると、ある程度の距離を保とうと少しずつ逃げ始める。
スピードを上げて一気に接近しようものならパニックになって逃げ惑う可能性がある。撮影するつもりが動物たちを追い回すことにならないように、自分自身も十分注意しなければいけない。ドローンの接近によって営巣中の鳥が営巣放棄したり、幼い子連れの獣などは親子がはぐれてしまったりすることも起こりうるからだ。



P.S. 今日からアフリカへ撮影に出発します。今回は1ヶ月あまりを南アフリカのクルーガー国立公園で過ごす予定です。多くの場所でWiFi環境があるので、アフリカの様子を随時発信する予定です。

80頭ものニホンジカが現れた

ニホンジカは全国的に個体数が増えている。伊吹山でも同様で、かつてはその姿を見ることは滅多になかったけれど、現在は山の斜面に何頭ものシカをすぐに見つけることができる。
シカは、登山者など人間の山への出入りが少なくなる頃に、林の中から一斉に草地へ出て来て植物を食べる。数十頭ものシカが毎日のように夕方になると出て来るのだから、植物がほぼ食い尽くされて裸地化している場所があちこちに点在している。



80頭ものニホンジカが、林の中から草地に出て来た

このビデオの画角の中だけで80頭近いシカがいる。僕の視界の中にはこれ以外にも何十頭ものシカが見えているのだからすごい数だ。昨年の11月に撮影したものだが、その頃には毎日これだけのシカが夕方になると草地に現れた。今年はこれほどの大群ではないが、40〜50頭が毎夕現れる。
草地が裸地化したところは遠目にもよく分かる。外からでは分からない林の中でも、林床の草や低木が食べられて、大木を残して裸地化が進んでいる。人間が山仕事に入らなくなってから山が藪化していたのが、シカによって再び林内の見通しが良くなった。
シカの増加により、裸地化が進行し雨で土砂崩れが起こりやすくなったり、樹皮を食べられて植林木が枯れてしまったり、お花畑の花が減少したりと心配な面もたくさん出てきている。

ニホンジカ、侵入防止策の向こうで…

集落に張り巡らせてある野生動物の侵入防止柵の向こうで、一頭の若い雌ジカが恨めしそうに田畑を眺めている。今の季節、田畑はまだ雪に覆われていて食べるものはほとんどない。食物を求めているのではなく、行く先にフェンスがあって阻まれたのでボーとしているだけなのかもしれない。
時々下にある草を食べながらゆっくりとフェンスに沿って移動していった。



農地を囲むフェンスの前でたたずむニホンジカ

侵入防止策が張り巡らされると、そこを行き来できなくなった大型獣はフェンスに沿って歩いていることが多い。フェンス沿いにはシカの足跡が道のようになって続いている。ところどころフェンスと地面の隙間を広げてイノシシが侵入した痕跡がある。
しかしながらフェンスができてシカやイノシシの農地への侵入は格段に少なくなった。

雪解けに合わせて高標高地へシカが戻り始めた

雪とともに低標高地へと移動していたニホンジカが、雪解けとともに高標高地へと移動している。雪解けの早い南斜面や急傾斜地では、山肌があちらこちらで露出している。シカたちは素早くそういうところへ進出して、雪に埋もれていた植物を食べている。

一方、積雪期も山を下ることなく生活していたカモシカは、同じような植物食のシカが戻って来たことで迷惑しているのかもしれない。
オレンジカモシカは、そんなシカをどのように思っているのか分からないがじっと見つめていた。そしてふと我に返り、雪を舐めて喉を潤し松葉を食べていつもの生活に戻った。



同じエリアで生活するカモシカとニホンジカ。
シカの生息密度は高く、カモシカの何倍もの数がいる

シカは山を下った

先日の雪で山は1m以上の積雪になった。標高の高いところにいたニホンジカは、ほぼすべて雪の少ない山麓へ下っている。今は雪に覆われて真っ白な斜面にシカの姿はない。
午後になって、山麓への移動が遅れた1頭の雌ジカが現れた。山麓へ向かっているのだろうか?結構慌てている様子だが、脚が雪に埋もれて思うように身動きが取れずに難航しながら林の中へ入って行った。

一方、カモシカは、冬になっても移動することなく雪山で暮らしている。雪の上に出た枝や樹皮を食べて冬を乗り越える。
オレンジカモシカも少しだけ姿を見せてくれた。今日は子カモシカを連れていない。別々に行動しているようだ。



カモシカは、立ち上がって高い位置の枝や樹皮を食べる

雪解けとともにシカが山頂まで戻って来た

この冬は雪が少なかったので、伊吹山は山頂部まで雪がない。積雪がある冬の間、ニホンジカは雪の少ない低標高地へ下りている。春になって、雪解けを追いかけるように山頂へと戻って来る。今年は例年より1ヶ月近くも早く山頂部へ戻って来た。

ニホンジカによる食害が取り沙汰されるようになって久しいが、伊吹山でも十数年前からニホンジカの姿が頻繁に目につくようになった。それまではシカを見ることはかなり難しかった。今では山に登って最初に発見するのがシカである。
シカがあまりに増えて畑の作物の食害や植林木の樹皮はぎ・お花畑の衰退など、人間との軋轢も大きくなっている。伊吹山のお花畑も花が少なくなり、裸地化しているところが点在するようになった。

これら軋轢は、人間と野生動物の共有地を独占的に使おうとする人間側の勝手な言い分ではあるが、人間が農業を始めた昔から続いているのだ。防護して棲み分けたり動物の数を少し減らしたりしながら、共に暮らしていかなければならない。野生動物がいなくなってはつまらない。



ニホンジカの耳は集音マイクよりすごい

撮影地に到着してまもなく、足元の崖の下からニホンジカ数頭が警戒声を出して逃げて行った。僕がザックを降ろして機材を準備する音で気づかれてしまった。いつもできるだけ音を立てないようにしているのだが、わずかな物音でも近くにいるシカには気づかれてしまう。シカは無茶苦茶耳がいい。かすかな足音や物音には非常に敏感だ。しかし、同じ場所から聞こえる人間の声やくしゃみをそれほど気にしないのは不思議である。足音は危険だが、声はそれほど危険ではないとなぜか判断しているようだ。

ツキノワグマとニホンジカのニアミス

今日は朝から獣の姿が見当たらない。いつもならあちらこちらでニホンジカが採食しているのだが…
8時過ぎになって僕から80mほどのところにツキノワグマが現れた。僕がいることには気付いていない。そのうちに僕の臭いを感じて一瞬顔を少しだけこっちへ向けた。それでもクマは動揺することなく悠々と歩いて僕の視界から消えた。
朝からシカの姿が見えなかったのは、近くにクマがいたから姿を隠していたのかもしれない。子連れの場合はなおさらだ。クマが視界から消えてしばらくしてから、ニホンジカがぽつぽつと現れ始めた。採食したり座って休息したりとくつろいでいる。
15時頃に、今度は少し小振りな3〜4歳のクマが現れた。アリの巣を見つけては石をひっくり返してアリを食べている。移動しながら次々とアリの巣を襲っている。近辺にいるシカは早くからクマに気付いてクマの動きをチェックしている。クマが雄ジカの近くにきた時、雄ジカは立ち上がり少しバックしてクマと距離をおく。雄ジカはクマから目を離さないが、遠くへ一目散に逃げることもしない。クマとの距離が縮まるとまた少し後ろへ下がる。クマのほうはシカにはまったく興味を示していない。アリの巣を探して歩きまわっているだけだ。この状況でシカの成獣に襲いかかったところで軽くいなされてしまうだけだ。
今度は1歳の雄ジカとその母親のいる近くを通った。やはり30mほどの距離になるとシカの母子は少し移動してクマとの距離を保つ。クマのほうはせっせとアリの巣を探しながら斜面を登って行く。下方の沢に小さな2歳のクマが現れ、同じようにアリの巣を探しながら斜面を登って行った。
これら2頭のクマが見えなくなった頃、尾根近くで雄ジカが首を伸ばして警戒体制をとっている。その視線の先には大きなクマがいた。クマが近づくと雄ジカは後ろへ下がる。やがて雄ジカは尾根裏へと消えた。
今日はクマとシカのニアミスが何度もあった。しかし、シカの成獣を襲うことはかなり難しいだろう。特に今日のようにクマが斜面の下にいたのでは襲いかかることはまったく出来ない。もしシカの成獣を捕えるとしたら、クマは斜面の上側にいてシカがクマに気付かずにかなり近くまで来ることが必要だ。シカのほうもそのことは十分に心得ていて、30m程度の距離があれば逃げ切れると確信しているようだ。



クマの接近に少しずつ後退するシカ