Vol.7 イヌワシ: 厳冬期の産卵

嘴と脚に巣材を持って巣へ向かう

木枯らしが吹き、雪が降り積もるころ、イヌワシの巣造りは始まる。

雨や雪が当たらないように断崖絶壁のオーバーハングの下に、直径1.5mもある大きな巣を造る。昔話に伝わるイヌワシの巣が、現在も使用されている場所がある。イヌワシは、環境が大きく変わらなければ何十年何百年と同じ巣を使い続けるのだ。

古い巣材の上に毎年新しい巣材を積み重ねていくために、巣の厚みは1mを越える。大人2人が座ってもびくともしない。巣材は、木の枝を嘴や脚で折り取って集めてくる。直径が3〜4cmもある太い枝でさえ折ってしまうのだから大した力である。

嘴で枝をくわえて満身の力を込めて引きちぎる。太い枝は両足でつかみ、ひねるように飛び降りて折ってしまうのだ。そのまま飛び立ち、脚につかんで巣へ運ぶ。1.5m以上もある長い枝を運ぶ姿は、まるでほうきに乗った魔女のようである。

雄と雌は協力して巣材を運び、巣を整える。枝で形を整えた後、産座の部分にはマツやスギの青葉を敷き詰める。42〜45日間も卵を温め、2ヶ月半の間ヒナを育てる場所であるから、居心地が良いだけでなく殺菌作用があると言われている青葉は、産座の材料にうってつけだ。

巣材運びが頻繁に見られるようになってから1ヶ月足らずで巣は完成する。この間、オーバーハングの下とは言え、巣の上に雪が積もることもある。そんなとき、イヌワシは雪の上に胸を押し付けて除雪車のように巣から雪を押し出したり、積もった雪の上に巣材を運んだりと困惑しながらも巣造りを続けている。

産卵は1月下旬〜2月中旬である。1年のうちで最も寒い時期に産卵するのはなぜだろうか。1つの要因だけではないだろうが、獲物となる野生動物の繁殖時期が大いに関係していることは確かだろう。

ヒナの食欲が最もおう盛になるのは巣立ちの半月から1ヶ月前くらいである。2月の初めに産卵したとすると、5月の初・中旬がいちばん獲物を必要とする期間である。ちょうど多くの野生動物が子育てをしている時期である。警戒心が弱い上に逃げ足の遅い子供たちが多く、野生動物の生息密度が高くなっているときに、イヌワシのヒナの食欲おう盛な時期がぴったりと合っているのだ。

産卵した後、卵を温めるのは主に雌の役割だ。雄は1日に2回くらい雌に代わって抱卵する。雄の抱卵時間は2回合わせても1時間ほどである。この間、雌は近くの木の上で伸びや羽繕いをしてくつろいでいる。雄が持ち帰った獲物があればそれを食べる。

抱卵期間中、雌は狩りに出かけられないので雄が持ち帰る獲物だけが頼りだ。雄は、自分と雌の2羽分の獲物を確保しなければならない。雌が落ち着いて抱卵を続けられるかどうかは、雄が十分な量の獲物を確保できるかどうかにかかっている。

雄の狩りの能力と野生動物の豊富さが繁殖成功の鍵を握っているのだ。