自然の中で生きた獲物を捕食して生きることは非常に厳しい。
イヌワシは、ノウサギやテン、ヤマドリといった中型の野生動物を狩る。鋭く長い爪や嘴、広大なエリアを飛び回るための大きな翼、人間の8倍以上ある視力など、狩りのためには欠かせない特徴を備えている。
視力の良さは人間の想像を超えている。1km以上も離れた山の斜面にいるノウサギやヤマドリを見つけ出してしまうのだから尋常ではない。イヌワシが狙いを定めて急降下していく方向を、先回りして10倍の双眼鏡で探してみても、イヌワシが襲いかかるより先に獲物を見つけることはできない。
イヌワシにはどんなふうに獲物が見えているのだろうか。僕たちが双眼鏡を使った時のように狭い視野ではなく、広い視野で鮮明に見えていることは間違いないだろう。テレビのハイビジョンと普通の放送との違いのようなものなのではないだろうか。いずれにしてもイヌワシの視力は想像を絶するものであることだけは確かなのだ。
樹木や植物が茂った広大な山岳地帯では、獲物を探しだすだけでも大変なことである。鳥類では、ヤマドリやキジ、カラス、トビなどいろんな鳥が狩りの対象となる。獲物が鳥類の場合、イヌワシは翼をほとんど閉じて猛スピードで急降下し、鋭い爪で引っかけるようにかすめ取ってしまう。豪快なハンティングだ。
トビを捕えたときのあざやかさは、今も脳裏に焼き付いている。1羽のイヌワシが尾根の上で悠々と旋回し、高度を上げて空高く舞い上がった。高度を稼いだイヌワシは、翼をすぼめ、一直線に滑空を始めた。何か獲物を見つけたらしく、ぐんぐんとスピードを上げていく。突然、反転して真っ逆さまに急降下。弾丸のようなイヌワシが、体当たりするように両足でトビをつかんだ。イヌワシはトビをしっかりつかんだまま滑空し、食事場所へと運び去った。トビは、衝撃で体がバラバラになってしまったのか、捕えられた瞬間からピクリとも動くことはなかった。
空中でのハンティングの成功例はめったに観察できない。鳥類の捕獲成功率は極めて低い。
地上を歩くほ乳類の場合には、鳥類と違って狩りの成功率はかなり高くなる。ほ乳類が獲物となるときは、急降下で接近し、獲物の手前からスピードを落として相手の動きをじっくりと見ながら降下していく。獲物の動きに合わせていつでも前後左右に方向を変えることができるように、翼で調節しながら襲いかかる。
このように獲物によって狩りの仕方が変わるため、イヌワシの行動を見るだけで獲物が鳥なのかほ乳類なのか、およそ見当をつけることができるのだ。
鳥の王者にたとえられるイヌワシだが、思うままに獲物を手に入れられるわけではない。狩りに成功するのは3日に1回くらいのものである。1週間以上も獲物にありつけないこともあるのだ。だから獲物が捕獲できたときには食べられるだけ食べて食いだめする。次に獲物が捕れるまで、空腹に耐えながら生き抜いているのだ。肉食動物の宿命である。