子カモシカとニホンジカと大接近

1歳に満たない子カモシカが単独で現れた。体は小さく、角も細く短い。オレンジカモシカの子どもかもしれないが分からない。この子カモシカは、肩から首にかけての毛色が特徴的でオレンジがかった淡い色をしている。別の日に出会っても個体識別ができるだろう。
まだまだ小さな子カモシカが、冬を単独で乗り切る姿にはいつも感心させられる。あまりにも頼りなげに見えるからだ。

子カモシカが採食しているところに、ニホンジカの母子がやって来た。母ジカが子カモシカの立てる音に気づいて警戒している。そのうちに子カモシカを見つけて警戒を解いて歩き去った。続いてニホンジカの群れが来た。子カモシカは居心地悪そうにしながらも逃げることなく採食を続けていた。
1頭の母ジカが、鼻先を子カモシカのほうへ伸ばしてゆっくりと歩み寄って来た。母ジカは子カモシカに挨拶しようとしているのかもしれない。逃げたいけども逃げないで頑張る子カモシカのどぎまぎとした様子が何とも愛おしい。母ジカは鼻先が触れんばかりに近づいた後、そのまま後退した。
子カモシカは少し離れた岩場へと歩き、ホッとしたのか座って休息を始めた。

後日、この単独で暮らす子カモシカが、オレンジの子どもであることが判明した。オレンジと離れてから長いこと姿を見せなかったが、元気に暮らしていたのだ。



オレンジカモシカ母子がツキノワグマの追跡を受ける

朝、山に登って間も無く、遠くでカモシカの警戒声が聞こえた。何に警戒しているのかと気になったが、姿は見つからない。しばらくして斜面を登っているオレンジカモシカを発見した。子カモシカも一緒にいる。オレンジは時々後ろを振り返って様子を見ている。斜面に突き出た岩の上から、下の斜面を注視している。やがて歩き出して尾根の林の中へ入って見えなくなった。
ツキノワグマが追っている。僕は直感だが確信を持ってそう思った。オレンジ母子が消えたあたりを注視してクマが現れるのを待つ。しばらくしてやはりクマが現れた。クマは尾根付近で立ち止まり、座ってくつろいでいるように見えるがブッシュに隠れて詳しくは分からない。歩き出して林の中へ消えた。

30分ほど経った頃、200mほど尾根を登ったところにオレンジ母子が現れた。近くにニホンジカも1頭現れた。ニホンジカは尻の白い毛を逆立ててものすごく興奮して警戒している。クマが近くまで来ているのだろう。ニホンジカは去り、オレンジ母子は斜面を少し進んだ岩場で立ち止まって後ろを見ている。
オレンジ母子がばね仕掛けのように飛び跳ねて走り出した。一気に斜面を駆け下りていく。200mほど下ったところで少し落ち着いて歩き始めた。尾根のほうに目をやるとクマが呆然として立っていた。オレンジ母子がいち早く全速力で逃げ出したので、クマは襲いかかるタイミングを失ってしまったようだった。クマはやがて気を取り直して、あまりに距離が離れてしまったオレンジ母子の追跡を諦め、違う方向へと歩いて行った。



ツキノワグマが近づき、全速力で逃げるカモシカの母子。クマは追跡を諦めた

カモシカとニホンジカの大接近

ニホンジカの個体数が近年かなり増えた。時を同じくしてカモシカの個体数が減った。植物食でどちらも同じような食性、生息地もほぼ同じ。そんな2種が競合してカモシカが減っているのではないかとよく聞かれるのだが、カモシカがニホンジカに生息地を奪われて追い出されているというようなことは全くない。追い出されるとしたらニホンジカの方ではないかと思う。これまでにカモシカがキツネやツキノワグマを追いかけて追い払ったのを見たことがある。カモシカは普段見るおっとりとした性格ばかりでなく、結構気性が荒い。追い払われるとしたらニホンジカの方だろう。

今回の映像で見るように、カモシカとニホンジカはお互いの生息を認識し、間近で出会っても争いになるようなことは起きていない。このビデオのニホンジカは、オレンジカモシカ母子に興味津々で、近づいて見たくて仕方がないようだった。しばらくは少し遠巻きに採食しながら様子を見ていたが、いよいよ意を決して近づいていった。恐る恐る近づくが、カモシカの方は大して気にも止めていないようだった。オレンジに近づいた後、子カモシカにも接近。



カモシカとニホンジカは競合という点では、問題はないようである。しかし、ニホンジカが増えるとほぼ同時にカモシカは減少している。これはただの偶然かもしれない。しかし、僕はニホンジカがカモシカの病原菌を運んだのではないかと考えている。その頃病気で死んだカモシカがたくさん見られている。
オレンジの周辺でも、たくさんのカモシカが見られたのだが、それらのカモシカが急にいなくなった。寿命の長い大型の哺乳類が急に姿を消したのは、病気が蔓延してバタバタと死んだのではないだろうか?病死の死体はいくつも目撃されている。
全てはまだ推測であるが…。

子カモシカはやんちゃ盛り

オレンジカモシカの子カモシカは生後2ヶ月を過ぎた。オレンジの行くところはもうどこでもついて行けると言わんばかりに意気揚々と歩いている。確かに少々の段差や岩場なども、小さいながらもうまく乗り越えて行く。

絶壁状の岩場をオレンジが足場を確保しながら降りてゆく。断崖に張り付くように生えている低木の葉を食べながらゆっくりと進んでいる。高さが50m以上はある絶壁なので、下まではたどり着けずに引き返してくるものと思っていたが、どんどん降りて行く。おそらく何度も通って降りられるルートを知っているのだろう。何の躊躇も行き詰まることもない。
子カモシカはオレンジが通っていない方向へ行こうとしたり身を乗り出して下を見たりと、こちらがハラハラとさせられる。足を滑らせでもしたら絶壁から墜落してしまうことを、子カモシカは分かっているのだろうか?と言いたくなるような大胆な行動だ。

そのうちに子カモシカはオレンジと少し離れた。オレンジは岩場を回り込んで子カモシカの下方に出て来たのだが、子カモシカは一直線に岩場を下ってオレンジのところへ行こうとしている。そんなことをしたら今度は本当に転落してしまいそうだ。
子カモシカが岩場をそろりそろりと降り始めた。すぐに4本の脚が岩場を滑り出した。これはやばいと思ったその時、子カモシカは滑りながら岩場を走り降りて、オレンジのいる狭い棚状のところでピタリと止まった。
ウーーム、子カモシカもやるな。これで岩場の難関は越えた。



絶壁を降りるオレンジカモシカの母子。子カモシカが岩場を滑り降りた

オレンジカモシカ,4年連続で今年も出産

オレンジ色のカモシカは、今年も出産した。5月16日に小さな子カモシカを連れているのを確認した。5月9日にはまだ生まれていなかったから、5月10日から15日の間に子カモシカは生まれている。昨年は5月17日、一昨年は5月15日前後だった。3年前の初産の時は5月20日前後と思われた。
子カモシカはオレンジの足元にまとわりつくようにして歩いている。



子カモシカは母親のそばを離れない

イヌワシがオレンジカモシカ母子の近くを飛行した際に、子カモシカを見つけて一瞬翻ったが、母カモシカに寄り添っているのでイヌワシは襲いかかることはなかった。母子はほとんど離れることなく行動しているので、イヌワシが襲いかかるチャンスはめったにないだろう。

雪の中、単独で暮らす子カモシカ

このところ雪の日が多い。里もすっかり冬の装いになった。山ではニホンジカが標高の高いところから積雪の少ない低標高地へと移り始めている。
カモシカは積雪が増えても一年中同じあたりで暮らしている。子カモシカが積雪の中を歩きながら雪の上に出た植物を食べている。母親であるオレンジカモシカとは別行動だ。

今年生まれの子カモシカは、母カモシカより一回りは小さいので頼りなげに見える。積雪と寒さの冬を乗り切れるのかといつも心配になってしまう。子カモシカとニホンジカが至近距離でばったりと出会った。お互いに警戒して見合っている。そのうちにニホンジカがピーッと鋭く大きな声で啼いた、と同時に子カモシカは一目散に逃げていった。大人のカモシカであればこのように脅かされて逃げることはないのだが、子カモシカは当分の間このように逃げ隠れしながら暮らさねばならないのだろう。

今日は子カモシカとオレンジを同時に見ることができたが、お互いは300mほど離れているのでどちらも相手には気づいていない。それぞれに採食したり座って休息したりしていた。母子が久しぶりに出会った時にどのような行動をとるのか非常に興味があるのだが、タイミングよくその場面に出くわすことは難しい。今日は子カモシカとオレンジが接近することはなかった。



雪の中で松葉を食べ、その後立ったまま反芻をする子カモシカ

雄カモシカ、オレンジに接近

久しぶりに雄カモシカが現れた。オレンジに接近して匂いを嗅いだり擦り寄ったりしてくるので、オレンジは迷惑そうだ。
今年もカモシカの発情期が近づいて来たのだ。雄は子育てにはまったく関与せずにオレンジ母子とは離れて行動していたのだが、今日はずっと近くにいる。
これから親子3頭水入らずの生活がしばらく続く。いやオレンジ母子にとって雄カモシカは水入りなのかもしれないが…



乳を飲もうとする子カモシカ。雄カモシカが現れオレンジにまとわりつく

オレンジカモシカの子育て順調

9月に入ってかなり涼しく過ごしやすくなった。撮影中はまわりの木でセミの大合唱が続いている。夏の初めにヒグラシで始まり、暑さ厳しい盛夏の頃にはミンミンゼミ、そして今はツクツクボウシが賑やかだ。
8月初めの台風による大雨で姉川が氾濫し、山のあちこちで林道が崩壊した。沢からは土砂が流れ出している。斜面にも大水が流れたらしく、あちこちに深い溝ができている。ブッシュの陰で見えにくいので足を突っ込んでしまうと危険だ。
そのような凄まじい豪雨を野生動物たちはいとも容易く(僕にはそう見える)やり過ごして、いつもと変わらぬ元気な姿を現してくれた。オレンジカモシカ母子もどこで風雨をしのいでいたかは分からないが、大雨の3日後には元気な姿を見ることができた。
子カモシカは独り立ちする日が近づいているのかオレンジから少し離れて行動することが多くなった。小さいながらも角が伸びてきている。



オレンジカモシカ母子。子カモシカにも角が伸びてきた

オレンジカモシカ3年目の連続出産

オレンジカモシカの出産を今か今かと待っていた。ついに今日、生まれて間もない子カモシカを確認した。灌木の藪の中にオレンジと一緒にいたので、小さな子カモシカの姿は木々の間からチラチラとしか見えない。オレンジはガシガシと木の新芽を食べている。その足元でヨロヨロとうごめいている。
昨日の昼には、オレンジは子カモシカを連れていなかった。昨夕から今朝にかけて出産したのだ。子カモシカを気遣って、オレンジはほとんど移動せずに近くの木の葉を食べていた。



オレンジカモシカの足元で、ヨロヨロとうごめく生まれて間もない子カモシカ

ニホンジカも出産の季節だ。1週間ほど前から時々子連れの母ジカの姿を見かけるようになった。ニホンジカの場合は、子ジカを藪の中に置いて採食に出て行くので出産しているのかどうかは分かりにくい。

雪解けに合わせて高標高地へシカが戻り始めた

雪とともに低標高地へと移動していたニホンジカが、雪解けとともに高標高地へと移動している。雪解けの早い南斜面や急傾斜地では、山肌があちらこちらで露出している。シカたちは素早くそういうところへ進出して、雪に埋もれていた植物を食べている。

一方、積雪期も山を下ることなく生活していたカモシカは、同じような植物食のシカが戻って来たことで迷惑しているのかもしれない。
オレンジカモシカは、そんなシカをどのように思っているのか分からないがじっと見つめていた。そしてふと我に返り、雪を舐めて喉を潤し松葉を食べていつもの生活に戻った。



同じエリアで生活するカモシカとニホンジカ。
シカの生息密度は高く、カモシカの何倍もの数がいる