Vol.49 ツキノワグマ:人里への出没2006年



時々クーマと啼きながらギンナンを食べる母子グマ

昨年の秋は、全国各地でツキノワグマが人家付近に大出没した。有害獣として捕獲された数は4,500頭を超え、その9割が殺された。

大型獣であるツキノワグマは生息数が少ない上に、2〜3年に1回、2頭くらいの子供を産む程度のゆっくりとした繁殖である。1年という短期間に4,500頭近い大量捕殺は、クマの個体群に大打撃を与えてしまったのではないだろうか。

クマの生息地が分断され、生息数が減少しているために多くの地域で狩猟禁止や自粛が実施されているというのに、有害獣駆除による大量捕殺はほんとうにクマを絶滅させてしまう危険性がある。昨年の有害の捕殺数は、狩猟の捕獲数とは比べものにならないほど多い。

有害獣駆除はほとんどの場合檻を使う。クマの大好物で誘引して捕獲するこの方法は、被害を起こしているクマ起こしていないクマにかかわらず、まわりにいるすべてのクマを無差別に捕獲してしまう可能性が高い。このように好物によって誘い出すような無差別的な捕獲が大量捕殺へと繋がっている可能性も否定できない。有害獣駆除の際の檻の使用には、このような危険性があることを十分に認識して、長期間の檻設置を避け、被害を起こしているクマとそうでないクマの識別をして対処しなければいけない。そうでなければ有害獣駆除とは言えない。

また、一律に狩猟禁止にするのではなく、地域によっては個体数コントロールの役割を担う適正な狩猟を取り入れ、一時期に大量捕殺されるようなことがないように早急に対策が必要である。

クマが棲んでいるはずもない街の中にまでクマが現れて大騒ぎになっていた。しかし、山間部の集落では毎晩普通に目撃されている。

我家のまわりでも母子グマと単独のクマが出没していた。10月の中旬頃、人家の庭にある柿の木に登って柿を食べる。11月に入って柿を食べ終えると、今度は神社などにあるイチョウの木のまわりに現れ、ギンナンを食べ始めた。ここには毎夜母子グマと単独グマが現れた。母グマと単独グマは、お互いにけん制し合っているようだった。少し距離をあけてお互いに緊張している。時折林の向こうで追いかけ合っているガサガサという音が聞こえてくることもあった。

イチョウの木の下には、ギンナンを集めやすいようにブルーシートが敷き詰められている。クマたちは、木に登ってギンナンを食べたりこのブルーシートの上に落ちているのを拾ったりしている。母子グマはどちらからともなく啼き合っている。クマの語源がその啼き声からだとする説があるが、まさしくクーマ、クーマと啼いている。

イチョウの木の下に残された糞には、ギンナンがほぼそのまま出てきているのが多くあった。この糞を見ていると何のためにギンナンを食べているのかと首をかしげたくなってしまう。

人とクマが共存していくためには、ある程度の距離が必要である。人とクマは同じ場所で手と手を取り合って暮らすことは出来ない。農作物被害や人身被害が日常的に起こり、有害獣として駆除されてしまうだろう。

そのためにもクマとは少し距離を置き、我々人間は強くて恐ろしいものだということをクマに示しておかなければならないだろう。そして、集落の外や奥山には、クマがある程度自由に暮らせる食物豊かな落葉広葉樹の林を残していく必要がある。