Vol.18 クマタカ:子育て

生後約40日経って黒い羽毛が生え始めたヒナと雌クマタカ

小鳥たちがにぎやかにさえずり始め、春の訪れを告げている。

渓流ではミソサザイが、小さな体からは想像もつかないくらい大きな透き通った声で盛んにさえずっている。岩に張り付いた巣材となるコケをくちばしで集めては運んでいる。渓流沿いのえぐられた土手に巣が作られていた。小鳥たちもいよいよ繁殖シーズンを迎えている。

クマタカは、小鳥たちよりひと足早く、3月の上旬から中旬に産卵する。しかし、今年は僕が観察しているペアの中には、今のところ産卵しているペアがいない。今年の滋賀県湖北地方は異常に雪の少ない冬だった。人は過ごしやすい冬だったというが、繁殖が思わしくない今年の状況からすると、クマタカにとっていつもと違う気候というのは過ごしにくいものなのかもしれない。

例年だと4月の中・下旬には純白の綿毛に包まれたかわいいヒナが誕生する。猛禽類のヒナは、白い綿毛に覆われているものが多いが、クマタカのヒナはその中でも一二を争うくらいかわいい姿をしている。全身が純白で、黒く引き締まったくちばしとまんまるい黒い瞳がなんともかわいいのだ。

クマタカはアカマツなどの大木に直径1mほどもある大きな巣を作る。何年にもわたって同じ巣を利用するために、毎年少しずつ巣材が積み重ねられて巣の厚みが増していく。これまでに僕が見た一番大きな巣では、高さが1.7mに達するものがあった。何十年も使い続けられてきたことは確かである。

巣が架けられているアカマツも立派な大木だったが、それ以上にこの巣は見ごたえのあるものだった。30年も前の話である。当時中学生だった僕は、そんな貴重な巣だとは夢にも思わず、写真の一枚も残っていない。残念ながら現在ではもう跡形も無くなっている。その後、50巣以上のクマタカの巣を発見したが、こんなに大きな巣を見たことはない。

何十年も同じ巣を使い続けられるということは、そこの自然環境がとても安定したものであったということだ。最近では、うすっぺらな巣で繁殖したり、たびたび巣場所を変えるペアが少なくない。これから先、1.7mを越える厚さの巣にお目にかかることはできるだろうか。かなり難しそうだ。いつかそんな巨大な巣に出会えたなら、天然記念物に指定してでも残したいものだ。

クマタカは卵を1個産んで1羽のヒナを大切に育てる。雌クマタカはヒナが生後1ヶ月くらいになるまでは巣から遠く離れず、ヒナを保温したり外敵から守っている。その間は雄クマタカが運んでくる獲物だけが頼りだ。

ヒナが生後1ヶ月になる頃には、日ごとに食欲おう盛になるヒナの食欲を満たすために、雌クマタカも少しずつ狩りに出かけるようになる。1羽で残されたヒナは、まわりに潜む危険におびえることもなく、元気に羽ばたきの練習をしたり昼寝をしたりして親の帰りを待っている。

すくすくと育つヒナの姿を今年は観察することが出来るだろうか。少し遅れてでも産卵してくれることを期待している。