伊吹山文化資料館 第148回企画展「伊吹山にイヌワシが舞う」講演会

同企画展の期間中、弊社代表でもある動物写真家の須藤一成が講師として講演会に登壇します。

伊吹山のイヌワシの40年間の記録とこれまで取り組んできた保護活動を、映像と写真を使いながら様々なエピソードを交えて話します。

■日時:2020年7月26日(日)13:30〜 
■講師:動物写真家 須藤一成(株式会社イーグレット・オフィス代表)
■参加費:500円
■募集:30名(要申込・先着順)
■場所:伊吹山文化資料館講座室
■問合せ:TEL0749-58-0252
■HP:http://www.zb.ztv.ne.jp/mt.ibuki-m/

□伊吹山にイヌワシが舞う

伊吹山文化資料館 第148回企画展「伊吹山にイヌワシが舞う」

伊吹山をはじめ1,000m級の山が連なる伊吹地域に1つがいのイヌワシが生息しています。2001年からの5年間に4回繁殖に成功して以来、14年ぶりに1羽の若ワシが巣立ちました。

白斑を輝かせて大空を舞う姿を見られたのも束の間、巣立ち後半月ほどで弱ってうずくまっているところを保護されましたが、数日後に死んでしまいました。

映像・写真展では、この若ワシが元気だった頃の姿や、イヌワシの1年の生活を紹介します。あわせて、貴重なイヌワシの骨格標本も展示します。

■写真・映像:動物写真家 須藤一成(株式会社イーグレット・オフィス代表)
■期間:2020年7月9日〜8月6日
■場所:伊吹山文化資料館
■開館時間:9:00〜17:00(入館は16:30まで) 
■休館日:月曜日・祝日の翌日
■入館料:一般200円・小中学生100円
■問合せ:TEL0749-58-0252
■HP:http://www.zb.ztv.ne.jp/mt.ibuki-m/

□伊吹山にイヌワシが舞う

オレンジカモシカ、今年は出産せず

オレンジカモシカは、2015年に初めて子どもを産んでから4年連続で出産し、子カモシカを育てて来た。しかし、5年目の今年は出産しなかった。
そのせいか独り立ちして暮らしている昨年の子カモシカが、時々オレンジのところに戻って来て一緒に行動している。

7月のある日、昨年の子カモシカがオレンジを見つけていつものように近づいて行った。子カモシカは早足でオレンジのところまでルンルン気分で駆けて行った。ように見えた。オレンジの直前で立ち止まり、そこから先は恐る恐るオレンジの様子を見ながら近づこうとしている。その時、オレンジが下から頭を振り上げるようにして「近寄るな!」というような行動をとった。子カモシカは呆然として立ち尽くしている。オレンジは子カモシカと反対方向へ採食しながらゆっくりと歩き始めた。子カモシカは悔しそうにススキに八つ当たりした後、オレンジとは反対方向へゆっくりと歩を進めた。

もう別々に暮らす時期だということなのだろうか?人間的には、時々戻って来てしばらく一緒に暮らしていてもいいのにと思えるのだが、カモシカの世界ではそうではないらしい。厳しいが、そこには野生で生き抜くための知恵が隠されているのだと思う。



子ジカを探して授乳する、ニホンジカ

ニホンジカは、子ジカを藪の中において、授乳の時だけ子ジカのところにやって来る。これは逃げ足の遅い子ジカが外敵に見つからないようにするためだが、母ジカが来るまでに子ジカは多少移動しているので、母ジカは子ジカがいた場所まで来てまわりを探すことになる。

母ジカは夕方に子ジカのところへやって来ることが多い。両耳をアンテナのように広げて、子ジカが立てる物音をキャッチしようとあたりを見回す。そして母ジカは、登山者など人が近くにいる場合でも警戒しながら子ジカを探して歩いて行く。普段ならそんなに人間に近づくことはしない。
まもなく子ジカが母ジカに気づいて駆け寄って来るのだが、時にはなかなか見つからないこともある。それでも母ジカは根気よく探して子ジカを見つけ出す。子ジカはお腹を空かしているので、すぐに母ジカの腹の下に入って乳を飲み始める。十分に乳を飲んだ子ジカは、しばらくは母ジカのそばにいるが、そのうちに茂みに隠れ、母ジカは他のシカたちと採食しながら去って行く。

このような生活が1ヶ月ほど続き、子ジカが少し大きくなって素早く走り回れるようになると母ジカと行動を共にするようになる。5〜6月に生まれた子ジカたちは、今では徐々に母ジカと行動を共にするようになっている。



子ジカを探す母ジカ。子ジカが母ジカを見つけて駆け寄り、乳を飲む

脚を失った野生動物。くくり罠との関係

近年、脚の先端部が無い野生動物を時々見かける。キツネやタヌキ・アナグマなどの中型哺乳類のほか、大型のニホンジカも片脚のないものがいた。こうした野生動物をちょくちょく見かけるようになって、その原因として気になったのがくくり罠だ。

ニホンジカが増えて農作物や林業の被害、山の植物が食べられて裸地化するなど深刻な被害が発生している。それに伴ってニホンジカの有害捕獲が盛んに実施されるようになった。銃器や檻、くくり罠などで捕獲する。くくり罠はワイヤーなどで動物の脚を締め上げて捕獲するのであるが、目的のシカだけではなくいろんな動物を捕獲してしまう。実際にタヌキがかかっているのを見たことがある。また罠の近くで死んでいるキツネやタヌキも見た。

くくり罠で誤捕獲した場合、生きたまま逃してやることは難しく、逃がせたとしても締め上げられた脚は骨折や脱臼などで使えなくなっている。
脚を切断して逃げてどうにか生き延びてきたのが、今回の映像に映っている動物たちではないだろうか?自然状態では、脚を切断するような怪我というのは、めったに起こるものではないだろう。

くくり罠は簡単に設置できるので相当な数が仕掛けられている。罠は改良が加えられて誤捕獲しにくいような工夫がされてきているが、目的の動物以外のものが捕獲される可能性はまだまだ高い。特定の動物を捕獲するはずが、無差別的な捕獲となっている。



アナグマ・キツネ・タヌキ・ニホンジカの脚先がなくなっている。キツネは右前脚と左後脚がない

アナグマ、雨上がりの田んぼで餌探し

朝からいい天気なので山に登って林の中を散策した。春先の新緑の林は気持ちがいい。夏鳥たちの声が賑やかだ。キビタキが近くの木にやって来た。鮮やかな黄色い背中がよく目立つ。時折小さな虫を捕まえて食べている。

沢を挟んだ対岸から岩が転げ落ちる音が聞こえてきた。何か動物が歩いているのだろう。音のする方向を探す。いたいた、ツキノワグマだ。急峻な斜面を登っている。クマはすぐに林の中に入って見えなくなった。

午後からは雲行きが怪しくなってきた。下山途中から雷雨となった。スギの木の下で雨宿りするが、ここも間も無く雨漏りし始めるだろう。車まではもう少しなので、雨が小止みになった時に駆け下りる。

家に戻って前の田んぼに目をやると、何かがもぞもぞと動いている。アナグマだ。鼻先を地面に突っ込んで地中にいるミミズや昆虫などの幼虫を探して食べている。ちょこまかと忙しく動き回ってほとんど動きが止まらない。行動を見ていると、鼻先で地面を触っただけで地中に何かがいるかどうかを見分けているようだ。いない場合はすぐに別の場所へと鼻先を持って行く。いるとみれば鼻先を深く地面に突っ込んで探す。

土の塊を鼻先で砕いた時に、トンボのヤゴのようなものが出て来たのが見えた。アナグマはすぐにそれをくわえてパクパクと食べた。何を食べているのかこちらからは見えないことが多いが、時々慌てて何かを捕まえて食べている。
アナグマが見えない所へ去ってすぐに、別の田んぼに別のアナグマが現れた。同じように食物を探して歩き回っている。

雨上がりはアナグマの食物探しに都合がいいことがあるのか、それとも2頭が出て来たのは偶然なのか、何れにしても2頭のアナグマをじっくりと観察できた。



子カモシカに体色の変化

オレンジ色のカモシカは、これまでに4回出産している。父カモシカと同じグレーの子カモシカばかりが生まれている。オレンジ色をした子カモシカは生まれていない。

昨年の子カモシカもグレーであった。昨年11月ごろまでは。その後、オレンジとは別に過ごすようになってしばらく姿を見せなかった。2月になって久しぶりに子カモシカが現れ、オレンジと合流して一緒に行動しているのを見た。11月までの全身グレーの体色から少し毛色が変わっている。肩から頭までが淡い色で白っぽくオレンジがかった毛色になっている。肩のあたりを境にして、頭側と尻側で明確に毛色が違っている。他のカモシカにはない特徴的な体色なので、この子カモシカは個体識別して今後追跡できそうだ。

この子カモシカは、その後も時々オレンジの行動圏で過ごしているのを見かけるが、オレンジと合流することなく別々に生活している。体色は徐々にオレンジ味が強くなっているように思う。母カモシカのオレンジ色を受け継いでいるようだ。



ブロッケン現象に出会う

ブロッケン現象は、自分の影が霧などに映り、その影の周りを囲むように虹の光の輪が現れる現象だ。山岳地で見られていることが多いように思うが、実際には条件さえ合えばいろんなところで現れている。
度々見られるものではないが、僕はこれまでに3回以上は出会っているので、運がいい方なのかもしれない。山でブロッケンが出やすい条件は、朝や夕方など太陽高度が低い時に切り立った尾根に自分がいて、太陽と反対方向にだけ霧や雲が出ている時だ。

先日、と言っても1ヶ月以上前になるが、僕は切り立った尾根に立ち背後から朝の光が差していた。僕の前の谷間から霧が湧き上がってきた。霧が谷間を覆い始めた時、これはブロッケンがまもなく起きると直感した。カメラを手に取ろうとするが、カメラは望遠レンズを付けてプレートで固定しているので標準レンズに交換するには少し時間がかかる。今日はサブカメラを持って来ていない。iPhoneで撮るしかないと気付いた時、ブロッケンが現れていた。

何枚かシャッターを切ってすぐにブロッケンは終わった。霧は薄く途切れ途切れだったので、すぐに風で吹き飛ばされてしまったのだ。しばらくの時間ではあったが、ブロッケン現象はいつも神がかり的なものを感じる。
タイミングさえ合えばいつでも見られそうでなかなか出会うことがない。次回はいつ現れてくれるだろうか?

後光差すブロッケン現象

オレンジと子カモシカの再会

単独でいる子カモシカに出会ったことは前回書いたが、10日後その子カモシカがオレンジと一緒にいるのを観察できた。子カモシカの肩から首にかけて、淡いオレンジ色の特徴的な毛色がはっきりと確認できる。先日からオレンジの行動圏内をうろついていた小さなカモシカは、オレンジの子どもであることが判明した。

子カモシカが単独で生活を始めた昨年11月頃から、その姿を見ることがなかった。どうしているのかと気になっていたのだが、元気に暮らしていたことが分かってホッとした。母子が出会って一緒に過ごすのは久しぶりなのだろう。子カモシカは母親にぴったりと寄り添って採食したり座ったりと、結構甘えているように見える。

夕方、母子は採食しながら次第に別々の方向へと移動して行った。夕闇が迫り、あたりは薄暗い。このままそれぞれの生活へと戻っていくのだろうか?こうした母子の出会いは、一時的な故郷への帰省のようなものなのかもしれない。



子カモシカとニホンジカと大接近

1歳に満たない子カモシカが単独で現れた。体は小さく、角も細く短い。オレンジカモシカの子どもかもしれないが分からない。この子カモシカは、肩から首にかけての毛色が特徴的でオレンジがかった淡い色をしている。別の日に出会っても個体識別ができるだろう。
まだまだ小さな子カモシカが、冬を単独で乗り切る姿にはいつも感心させられる。あまりにも頼りなげに見えるからだ。

子カモシカが採食しているところに、ニホンジカの母子がやって来た。母ジカが子カモシカの立てる音に気づいて警戒している。そのうちに子カモシカを見つけて警戒を解いて歩き去った。続いてニホンジカの群れが来た。子カモシカは居心地悪そうにしながらも逃げることなく採食を続けていた。
1頭の母ジカが、鼻先を子カモシカのほうへ伸ばしてゆっくりと歩み寄って来た。母ジカは子カモシカに挨拶しようとしているのかもしれない。逃げたいけども逃げないで頑張る子カモシカのどぎまぎとした様子が何とも愛おしい。母ジカは鼻先が触れんばかりに近づいた後、そのまま後退した。
子カモシカは少し離れた岩場へと歩き、ホッとしたのか座って休息を始めた。

後日、この単独で暮らす子カモシカが、オレンジの子どもであることが判明した。オレンジと離れてから長いこと姿を見せなかったが、元気に暮らしていたのだ。