オレンジと子カモシカの再会

単独でいる子カモシカに出会ったことは前回書いたが、10日後その子カモシカがオレンジと一緒にいるのを観察できた。子カモシカの肩から首にかけて、淡いオレンジ色の特徴的な毛色がはっきりと確認できる。先日からオレンジの行動圏内をうろついていた小さなカモシカは、オレンジの子どもであることが判明した。

子カモシカが単独で生活を始めた昨年11月頃から、その姿を見ることがなかった。どうしているのかと気になっていたのだが、元気に暮らしていたことが分かってホッとした。母子が出会って一緒に過ごすのは久しぶりなのだろう。子カモシカは母親にぴったりと寄り添って採食したり座ったりと、結構甘えているように見える。

夕方、母子は採食しながら次第に別々の方向へと移動して行った。夕闇が迫り、あたりは薄暗い。このままそれぞれの生活へと戻っていくのだろうか?こうした母子の出会いは、一時的な故郷への帰省のようなものなのかもしれない。



子カモシカとニホンジカと大接近

1歳に満たない子カモシカが単独で現れた。体は小さく、角も細く短い。オレンジカモシカの子どもかもしれないが分からない。この子カモシカは、肩から首にかけての毛色が特徴的でオレンジがかった淡い色をしている。別の日に出会っても個体識別ができるだろう。
まだまだ小さな子カモシカが、冬を単独で乗り切る姿にはいつも感心させられる。あまりにも頼りなげに見えるからだ。

子カモシカが採食しているところに、ニホンジカの母子がやって来た。母ジカが子カモシカの立てる音に気づいて警戒している。そのうちに子カモシカを見つけて警戒を解いて歩き去った。続いてニホンジカの群れが来た。子カモシカは居心地悪そうにしながらも逃げることなく採食を続けていた。
1頭の母ジカが、鼻先を子カモシカのほうへ伸ばしてゆっくりと歩み寄って来た。母ジカは子カモシカに挨拶しようとしているのかもしれない。逃げたいけども逃げないで頑張る子カモシカのどぎまぎとした様子が何とも愛おしい。母ジカは鼻先が触れんばかりに近づいた後、そのまま後退した。
子カモシカは少し離れた岩場へと歩き、ホッとしたのか座って休息を始めた。

後日、この単独で暮らす子カモシカが、オレンジの子どもであることが判明した。オレンジと離れてから長いこと姿を見せなかったが、元気に暮らしていたのだ。



雪のない斜面伝いに山を登るニホンジカ

暖冬でニホンジカは例年より標高の高いところにとどまっている。伊吹山の標高1,000mあたりでも、急傾斜地の雪は風で吹き飛ばされて積もりにくいので、すでに地肌が露出しているところが多い。シカたちはそうした場所に集まって採食している。雪解けが進むのに合わせて標高を上げて行く。雪に覆われていた場所には、冬の短期間ではあるが手つかずの植物が残っている。シカたちはその未開の地へ一番乗りするためにどんどん標高を上げているのだ。
雪が降るとシカは少し後退し、積もった雪が溶けると前進する。一進一退を繰り返しながらも着実に標高を上げて進んでいる。

1週間前には、どういう訳か雌ジカと子ジカばかりだったが、今日は雄ジカもたくさん姿を見せた。これまで最前線にいた雌ジカの群れに変わって、今日は雄ジカの群れが標高1,100mの最前線にいた。

雌ジカと子ジカの群れ

雄ジカの群れ

ニホンジカは発情期。山はシカの鳴き声で賑やか

9月に入る頃、例年通り山のあちらこちらからニホンジカの鳴き声が聞こえてくる。秋はシカの発情期だ。オスは大きな高い声でピィーーと鳴いて自己主張している。遠くで鳴いていると、秋の物悲しさが伝わってくるような情緒ある声なのだが、近くで鳴かれるとうるさい雑音のように聞こえる。遠くではピィーーという透き通った声しか聞こえないのに、近くで聞くとピィーーの後にガーとかゲボッゴボッという濁音の耳障りな声が付録でついてくることが多い。時にはこの耳障りな濁音が主体となる声を出すこともある。

10月に入って鳴き声が一段と激しくなってきた。おまけに僕が不用意に微かな物音を立てたために、近くにいた雌ジカが警戒声を上げ始めたから賑やかさを通り越してうるさくなってしまった。僕はしばらく身動きせずに雌ジカが鎮まるのを待つ。雌ジカは一瞬で音源を正確に読み取り、僕の方向へ顔を向け大きな耳を広げている。今この状態でもう一度物音を立てたなら、雌ジカは人間の接近を確信して一目散に逃げ出すだろう。15分ほど立った頃、雌ジカは警戒を解いた。僕もこわばっていた全身の力を抜いてホッとする。

子ジカを生んだ年には母ジカはたいてい発情しない。雄ジカが近づくと母子は慌てて逃げていく。それでも雄ジカは再びゆっくりと接近し、また逃げられることを繰り返している。雄の想いはいつになったら遂げられるのか?交尾行動を撮影したいところだが、その瞬間はなかなかやってこない。



雄ジカの発情期特有の鳴き声と雌ジカの警戒声

オレンジカモシカ母子がツキノワグマの追跡を受ける

朝、山に登って間も無く、遠くでカモシカの警戒声が聞こえた。何に警戒しているのかと気になったが、姿は見つからない。しばらくして斜面を登っているオレンジカモシカを発見した。子カモシカも一緒にいる。オレンジは時々後ろを振り返って様子を見ている。斜面に突き出た岩の上から、下の斜面を注視している。やがて歩き出して尾根の林の中へ入って見えなくなった。
ツキノワグマが追っている。僕は直感だが確信を持ってそう思った。オレンジ母子が消えたあたりを注視してクマが現れるのを待つ。しばらくしてやはりクマが現れた。クマは尾根付近で立ち止まり、座ってくつろいでいるように見えるがブッシュに隠れて詳しくは分からない。歩き出して林の中へ消えた。

30分ほど経った頃、200mほど尾根を登ったところにオレンジ母子が現れた。近くにニホンジカも1頭現れた。ニホンジカは尻の白い毛を逆立ててものすごく興奮して警戒している。クマが近くまで来ているのだろう。ニホンジカは去り、オレンジ母子は斜面を少し進んだ岩場で立ち止まって後ろを見ている。
オレンジ母子がばね仕掛けのように飛び跳ねて走り出した。一気に斜面を駆け下りていく。200mほど下ったところで少し落ち着いて歩き始めた。尾根のほうに目をやるとクマが呆然として立っていた。オレンジ母子がいち早く全速力で逃げ出したので、クマは襲いかかるタイミングを失ってしまったようだった。クマはやがて気を取り直して、あまりに距離が離れてしまったオレンジ母子の追跡を諦め、違う方向へと歩いて行った。



ツキノワグマが近づき、全速力で逃げるカモシカの母子。クマは追跡を諦めた

カモシカとニホンジカの大接近

ニホンジカの個体数が近年かなり増えた。時を同じくしてカモシカの個体数が減った。植物食でどちらも同じような食性、生息地もほぼ同じ。そんな2種が競合してカモシカが減っているのではないかとよく聞かれるのだが、カモシカがニホンジカに生息地を奪われて追い出されているというようなことは全くない。追い出されるとしたらニホンジカの方ではないかと思う。これまでにカモシカがキツネやツキノワグマを追いかけて追い払ったのを見たことがある。カモシカは普段見るおっとりとした性格ばかりでなく、結構気性が荒い。追い払われるとしたらニホンジカの方だろう。

今回の映像で見るように、カモシカとニホンジカはお互いの生息を認識し、間近で出会っても争いになるようなことは起きていない。このビデオのニホンジカは、オレンジカモシカ母子に興味津々で、近づいて見たくて仕方がないようだった。しばらくは少し遠巻きに採食しながら様子を見ていたが、いよいよ意を決して近づいていった。恐る恐る近づくが、カモシカの方は大して気にも止めていないようだった。オレンジに近づいた後、子カモシカにも接近。



カモシカとニホンジカは競合という点では、問題はないようである。しかし、ニホンジカが増えるとほぼ同時にカモシカは減少している。これはただの偶然かもしれない。しかし、僕はニホンジカがカモシカの病原菌を運んだのではないかと考えている。その頃病気で死んだカモシカがたくさん見られている。
オレンジの周辺でも、たくさんのカモシカが見られたのだが、それらのカモシカが急にいなくなった。寿命の長い大型の哺乳類が急に姿を消したのは、病気が蔓延してバタバタと死んだのではないだろうか?病死の死体はいくつも目撃されている。
全てはまだ推測であるが…。

子カモシカはやんちゃ盛り

オレンジカモシカの子カモシカは生後2ヶ月を過ぎた。オレンジの行くところはもうどこでもついて行けると言わんばかりに意気揚々と歩いている。確かに少々の段差や岩場なども、小さいながらもうまく乗り越えて行く。

絶壁状の岩場をオレンジが足場を確保しながら降りてゆく。断崖に張り付くように生えている低木の葉を食べながらゆっくりと進んでいる。高さが50m以上はある絶壁なので、下まではたどり着けずに引き返してくるものと思っていたが、どんどん降りて行く。おそらく何度も通って降りられるルートを知っているのだろう。何の躊躇も行き詰まることもない。
子カモシカはオレンジが通っていない方向へ行こうとしたり身を乗り出して下を見たりと、こちらがハラハラとさせられる。足を滑らせでもしたら絶壁から墜落してしまうことを、子カモシカは分かっているのだろうか?と言いたくなるような大胆な行動だ。

そのうちに子カモシカはオレンジと少し離れた。オレンジは岩場を回り込んで子カモシカの下方に出て来たのだが、子カモシカは一直線に岩場を下ってオレンジのところへ行こうとしている。そんなことをしたら今度は本当に転落してしまいそうだ。
子カモシカが岩場をそろりそろりと降り始めた。すぐに4本の脚が岩場を滑り出した。これはやばいと思ったその時、子カモシカは滑りながら岩場を走り降りて、オレンジのいる狭い棚状のところでピタリと止まった。
ウーーム、子カモシカもやるな。これで岩場の難関は越えた。



絶壁を降りるオレンジカモシカの母子。子カモシカが岩場を滑り降りた

ツキノワグマ、アリの巣を探して歩く

この時期、ツキノワグマはよくアリの巣を探して歩き回っている。先日、久しぶりにクマが出てきた時もアリの巣を探しているようだった。
鼻先を地上近くに近づけて臭いを嗅ぎながら歩いている。時々岩をひっくり返しながら移動して行く。

アリの巣を見つけてひとしきりアリやアリの卵を食べ終えると次の新しい巣を探して歩き出す。アリの蟻酸の刺激を求めているのか、卵の栄養に惹かれているのか?どちらにしてもクマにとってはあまりに小さい。お腹を満たすというよりも嗜好品なのだろう。



ニホンジカの白斑個体も出産

ニホンジカ白斑個体も今年出産した。一昨年に出産し、1年おいての出産だ。オレンジカモシカの子どもを確認したのと同じ5月16日に子ジカを連れているのを見た。

カモシカが子どもと離れずに四六時中寄り添って行動するのに対し、ニホンジカは子ジカを木陰などのブッシュの中において、母ジカは少し離れたところで採食や休息をしている。イヌワシやツキノワグマなどから子どもを守るためにはどちらがいいのだろうか?
カモシカ式だと母親と一緒に動き回るので目につきやすい。ニホンジカ式だとブッシュの陰でおとなしくしている限り見つかりにくいが、立ち上がって動き回るとイヌワシなどに見つかりやすい。母ジカと離れていて無防備なのですぐに襲われてしまうだろう。
一長一短、どちらが安全だとは言えない。しかし、今春少なくとも2頭の子ジカが伊吹山周辺でイヌワシに捕獲されている。子カモシカが捕獲されたのは確認できていないが、それだけでカモシカ式が安全とは言えない。カモシカよりニホンジカの生息数が圧倒的に多いために、捕獲される子ジカも多いのだ。

白斑の母ジカは、授乳の時になると子ジカの所へ近づいていく。そして授乳が終わるとまた少し離れて別行動だ。母ジカは離れていても常に子ジカの動きを把握している。子ジカが立てる物音には敏感に反応して子ジカを見守っている。今いる場所に危険を感じると、子ジカを連れて安全な場所へと移動していく。
今では子ジカはだいぶ大きくなって動きも素早くなり、イヌワシの捕獲対象ではなくなりつつある。



授乳中の親子ジカ。授乳が終わると子ジカは母ジカと離れて単独で過ごす

オレンジカモシカ,4年連続で今年も出産

オレンジ色のカモシカは、今年も出産した。5月16日に小さな子カモシカを連れているのを確認した。5月9日にはまだ生まれていなかったから、5月10日から15日の間に子カモシカは生まれている。昨年は5月17日、一昨年は5月15日前後だった。3年前の初産の時は5月20日前後と思われた。
子カモシカはオレンジの足元にまとわりつくようにして歩いている。



子カモシカは母親のそばを離れない

イヌワシがオレンジカモシカ母子の近くを飛行した際に、子カモシカを見つけて一瞬翻ったが、母カモシカに寄り添っているのでイヌワシは襲いかかることはなかった。母子はほとんど離れることなく行動しているので、イヌワシが襲いかかるチャンスはめったにないだろう。