Vol.34 アフリカ撮影記 Ver.11

シャープな色彩に大きな角、気品のある姿がセーブルの魅力だ。

草食獣の中で、僕が特に気に入っているのがセーブルアンテロープである。

セーブルの雄は、光沢のある黒い体をしていて腹と顔にはっきりとした白い部分がある。この白と黒のコントラストが、引き締まった精悍さを醸し出している。一方雌は、雄より淡い黒?赤茶色をしていて白い部分とのコントラストが顕著ではなく、全体におとなしい雰囲気である。

雌雄ともに長く後方にカーブした角を持つが、形が少し違う。雄の角は雌より大きく、後方へのカーブがきつい。雌と子供は10〜30頭くらいの群れを作って生活するが、成熟してテリトリーを持った雄は、この群れの近くで単独生活する。

草食獣だが非常に気が強い。草食獣と言えば肉食獣に食べられる弱い動物だと考えがちであるが、そんなに単純なものでもない。武器を持たない人間には、十分対抗できると分かっているのだ。

セーブルは、撮影している僕との距離が縮まると明らかな拒絶反応を示す。背筋を伸ばしてこちらをにらみつけているが、時には前脚で地面を軽く蹴るようなしぐさをして威嚇する。「それ以上近づくと容赦はしないぞ」とでも言っているようだ。鋭くとがった頑丈な角にでも引っかけられたら大変な事になる。

しかし、これ以上セーブルが人間に近づき襲いかかることはないだろう。セーブルはその姿や毛皮の美しさから、人間に追われ続けてきた長い歴史があるのだ。

岩山の上でブラックイーグルを撮影をしている時に、遠くの平原にセーブルを見かけることが時々ある。気品のある姿に吸い寄せられるように見ていると、1頭だけかと思った草原からまた1頭、もう1頭と立ち上がり、母子7、8頭が姿を現した。草地に座って休息していたようだ。

頭胴長が2mもある大型のセーブルといえども、約1kmも離れた草原の中に座っているのを発見するのは困難である。セーブルが立ち上がってやっとその存在に気づいたのだ。朝の食事を終えて、ゆったりとくつろいでいたのだろう。ゆっくりと歩いて林の中へと消えて行った。

このあたりにはライオンはいない。レパード(ヒョウ)かチーターがセーブルにとって唯一の天敵なのだ。大人のセーブルであれば襲われることはめったにないが、子供は手ごろな獲物として狙われる。

レパードは、夜間に活動することが多く、昼間は樹上や岩陰などの涼しいところで休息しているのでなかなか見ることができないが、多くの目撃情報があるのでこの一帯にも少なからず生息していることは間違いない。チーターに関しては、ほとんど目撃情報がなく、個体数が極端に減少してしまったようだが、時折農場に現れて家畜を襲っていることが新聞などで報道されている。

大型肉食獣が少ないこの山地帯は、草食獣が少しゆったりと生活しているのかもしれない。しかし、この地にも密猟者が入ってくることがある。時々やって来る密猟者のほうが肉食獣よりもセーブルにとっての脅威であるのかもしれない。

様々な危険にさらされながら生き抜く野生の姿は美しい。セーブルの堂々とした姿はいつ見ても格好いい。

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