Vol.15 ハヤブサ:猛スピードのハンター

クリッとした瞳がかわいい猛スピードのハンター

細く、長く、先端がとがった翼を持つハヤブサは、スピードの王者だ。翼をすぼめて垂直に急降下するときには、時速300kmにも達すると言われている。

ハヤブサの獲物は、ハトやヒヨドリなどの小鳥が主体である。ハヤブサのハンティングは飛ぶ鳥を猛スピードで襲う空中戦だ。狙った獲物が林の中に逃げ込む前に、狩りを成功させなければならない。そのためには広く開けた場所が必要だ。

また、切り立った断崖でヒナを育てる。このようなハヤブサの生息地の条件を満たす場所は海岸である。荒波に削られた断崖と開けた海原、春と秋には多数の渡り鳥が通過する。十分な獲物と営巣場所がそこにはそろっている。

ハヤブサの繁殖は、春の渡り鳥の通過時期にぴったり合っている。ヒナの食欲がおう盛になる生後2週間くらいの頃、ちょうどヒヨドリの大群が次々と北上して渡っていく。ひと塊になって海上を渡るヒヨドリの群れに向かって、このときとばかりにハヤブサペアが発進していく。数百羽のヒヨドリの群れにペアで急降下攻撃をくり返し、それぞれ1羽づつヒヨドリを捕えて戻ってくる。

渡りの最盛期には、ヒナの待つ巣へ獲物を持ち帰って一息つくまもなく、次のヒヨドリの群れに向かっている。巣では、3〜4羽のヒナがおなかを空かせて待っているのだから親鳥も大忙しである。ハヤブサの繁殖には、渡り鳥が重要な役割を果たしているのだ。

狩りに忙しいときには、捕えた獲物を巣へは持ち帰らずに一旦岩場に隠し置いて、狩りに出かける。貯蔵した獲物は、狩りが一段落して巣に獲物が無くなったときに、巣へ運び込む。渡り鳥を次々と襲って、一時にたくさんの獲物を捕えるが、貯蔵することによって無駄なく獲物を利用しているようだ。

海岸はハヤブサにとって絶好の生息地だ。しかし、ハヤブサを調べていくうちに彼らの生息地は海岸だけではないことがわかった。生息地の条件を満たす場所は海岸から離れた内陸部にもあったのだ。

農耕地が広がる平野や大きな川・湖などが海原に変わって狩り場となる。山麓部の採石場や高層ビルまでもが営巣地となっている。獲物となる小鳥がたくさん生息していれば条件は満たされる。さらに渡り鳥の通過コースになっていれば申し分ない。

野生動物たちは、生息地の条件が整えばそこへ進出してくる。逆に、条件が失われたところからは姿を消す。

野生動物が生息するとは考えられないような採石場でさえもハヤブサはヒナを育てている。人間への警戒心を少し解き、騒がしいのを我慢して、なんとか暮らしている。ハヤブサにとっては、騒がしくても楽しい我が家であるのかもしれない。採石場を利用する例は数多く見られる。

ハヤブサは都市部にも姿を現した。本来、都市部には野生動物は少ないが、ハヤブサは都市部で数を増やしていたドバトに目をつけた。営巣地は、人間が近づきにくい高層ビルを利用した。

ドバトという一種類の獲物に依存する生活は非常に危ういものである。しかしながら当分は、都市に進出するハヤブサが各地で現れるだろう。

買い物や通勤途中で見上げた空に、猛スピードで急降下するハヤブサの姿が見られるかもしれない。