ツキノワグマの腐肉食

先月4月22日夕方、岐阜県の揖斐川源流部河岸にツキノワグマがいるのを見つけた。水際で何かを食べている。冬の間に死んで流されて来たニホンジカの残骸だ。もうすでに腐って、毛は抜け落ちている。
腹部のあたりに顔を突っ込んで、残っている内臓や肉片を食べている。人間はこんな腐肉を食べることは到底できないが、クマは平気で食べている。野生動物はたくましい。

1時間余り経ってクマは、すぐ脇のササ藪に入って座った。姿は見えなくなったが、ササが揺れなくなったことから休息しているようだ。15分ほどでササ藪から出て、シカの死体のところに戻って来た。死体をしばらくあさった後、満腹になったためかその横で寝そべった。トビやカラスがやって来て、肉片を横取りしていくので見張っているのだろう。暗くなるまで寝そべったままだった。

翌朝早く、クマの様子を見るためにそこを訪れたが、すでにクマの姿はなかった。一晩かけてシカの残骸を食べ尽くして、去って行ったのだ。そこにはシカの骨と皮だけが残されていた。



ニホンジカの腐肉を食べるツキノワグマ

子カモシカの死

子カモシカが生まれた翌日から、3日間雨が降り続いた。今年は異常に早い梅雨入りとなった。生まれてすぐに雨続きなので、子カモシカが心配だ。ようやく雨が上がった日の早朝にオレンジ母子の様子を見に行った。
4日前と同じ所で座っているオレンジを見つけた。子カモシカは見えないが、オレンジの陰にいるのかもしれない。しかし、嫌な予感がする。4日間も場所を変えずにいるのは変だ。
やがてオレンジは立ち上がり歩き出した。しかし、子カモシカはいない。オレンジは足早に移動して行くが、子カモシカの姿はない。生まれたばかりの体に降り続いた冷たい雨で、体温を奪われて死んでしまったのだろう。残念だ。

オレンジは昨年も子どもを生んだが、1週間以内にいなくなっている。その子カモシカは、イヌワシに見つかって狙われていたので、オレンジから少し離れた隙に襲われたものと思われた。
自然界で生きることは厳しい。生き延びるためには運も必要だ。



足早に歩くオレンジの足元に子カモシカの姿はない

オレンジ色のカモシカ6回目の出産

オレンジ色のカモシカは5月14日の早朝に子どもを生んだ。僕がオレンジを見つけた時には、足元にいる子カモシカを盛んに嘗めていた。
30分ほど経って子カモシカはヨロヨロしながら立ち上がったが、急斜面で木や草など障害物が多いので思うようにはまだ歩けない。それでもオレンジはしばらく経ってから移動を開始した。採食しながらゆっくりと斜面を登って行く。子カモシカもよろけながらなんとか離れずについて歩いたが、すぐに灌木に阻まれて進めなくなった。数メートル離れた子カモシカに気付いたオレンジは、慌てて元の場所へと戻った。子カモシカもオレンジの足元に戻った。

その後、オレンジは出産時の胎盤を拾い上げて食べ始めた。もぐもぐと噛みしだきながら少しづつ飲み込んでいった。なかなかの量があるので、食べ切るのに30分以上もかかった。全てを飲み込んだ後、ゲボッとなって苦しそうだった。
今日はこの場所から動かずに夕方を迎えた。



出産直後のオレンジカモシカ母子。胎盤を食べる

鉄塔営巣のクマタカ。ようやく巣立った

雛は巣立っていた。巣やその周りの鋼材にも止まっていない。鉄塔から飛び出して近くの林の中にいるのだろう。雛は巣立ってしまえば雛とは呼ばずに幼鳥となる。
幼鳥は巣立ち後しばらくの間、巣に戻って親鳥から獲物を受け取ることが多い。戻って来るのを待つことにするが、2時間経っても何の動きもない。3時間ほど経過してようやく、巣から100mほど離れたあたりから幼鳥の鳴き声が聞こえてきた。3〜4声で鳴き止んでしまったが、幼鳥が無事に巣立って近くにいることが確認できたのでほっとした。巣に戻って来ることを信じてさらに待つ。

13時ごろ、鳴き声が聞こえたので巣を見ると、巣の上に幼鳥が戻っていた。尾羽が前回見た時よりさらに伸びて、見た目に立派なクマタカとなっている。巣の上を歩いて、水平に伸びた鋼材の上に移った。そこで親鳥が獲物を運んで来るのを待つことにしたらしい。夕方までその場を動かずに止まっている。
遠くを飛行する親鳥を見つけては数声鳴く。しかし、今日は獲物が捕れないらしく、親鳥は戻って来なかった。

巣と近くの林を行き来しながら過ごしている。今は巣のそばで親鳥が獲物を運んで来るのを待っている

羽繕い

鉄塔営巣のクマタカ。まだ巣立たない

お盆に西日本を通過した台風の影響で、吹きさらしの巣ごと飛ばされるのではないかと心配したのだが、巣も雛も無事だった。雛は巣の上で落ち着いていて、まだ巣立つような仕草は見られない。尾羽や風切羽はまだ短く、これではもうしばらく巣立つことはないだろう。普通はこのくらいの日齢になると盛んに羽ばたきの練習をして、空中に浮き上がったりするのだが、この雛はほとんど羽ばたき練習をやらない。

その原因はこの巣の形状にあるのかもしれない。普通は直径1m近い丸い巣が樹木の枝に造られる。クマタカの雛はそこで思い切り翼を広げて羽ばたき練習をする。しかし、この鉄塔の巣は待避所のL字になった細長い網目状のところに細長く巣をかけている。その上、手すりのようになった鋼材が周りを囲んでいるので、翼を広げて羽ばたくと翼がその鋼材に当たりそうだ。

巣立ちが近くなると、巣から離れた枝先に止まったり上の枝に飛び移って止まったり、首を伸ばして巣の外を見て飛び出したそうな行動をしたりするものだが、この雛は全くそういう行動も見られない。
これらの行動をするかどうかは雛によって個体差がある。樹上営巣の雛でもあまり羽ばたき練習をしない個体もいるので、巣立ち前の行動が見られないのが鉄塔営巣の影響なのかどうかはわからない。

この雛の巣立ちは、8月末か9月に入るかもしれない。巣立ちは本州では7月中旬頃、北海道でも7月下旬から8月上旬とされているから、この鉄塔営巣のクマタカは遅い巣立ちの日本記録になるかもしれない。
鉄塔営巣と遅い巣立ちの両方で日本記録樹立となりそうだ。しかし、巣立ちが遅いのは、クマタカの生息状況が良くない場合が多いので喜んではいられない。



鉄塔に営巣するクマタカの育雛。親鳥が今回もモモンガを運んで来た

オレンジカモシカ、今年は出産せず

オレンジカモシカは、2015年に初めて子どもを産んでから4年連続で出産し、子カモシカを育てて来た。しかし、5年目の今年は出産しなかった。
そのせいか独り立ちして暮らしている昨年の子カモシカが、時々オレンジのところに戻って来て一緒に行動している。

7月のある日、昨年の子カモシカがオレンジを見つけていつものように近づいて行った。子カモシカは早足でオレンジのところまでルンルン気分で駆けて行った。ように見えた。オレンジの直前で立ち止まり、そこから先は恐る恐るオレンジの様子を見ながら近づこうとしている。その時、オレンジが下から頭を振り上げるようにして「近寄るな!」というような行動をとった。子カモシカは呆然として立ち尽くしている。オレンジは子カモシカと反対方向へ採食しながらゆっくりと歩き始めた。子カモシカは悔しそうにススキに八つ当たりした後、オレンジとは反対方向へゆっくりと歩を進めた。

もう別々に暮らす時期だということなのだろうか?人間的には、時々戻って来てしばらく一緒に暮らしていてもいいのにと思えるのだが、カモシカの世界ではそうではないらしい。厳しいが、そこには野生で生き抜くための知恵が隠されているのだと思う。



鉄塔営巣のクマタカ。巣立ちまでもう少し

早ければもう巣立っているかもしれないと思いながら、鉄塔の巣を望遠鏡の視野に入れる。巣の端っこに座っている雛が見えた。8月6日の時点で羽毛が生え揃い、一見立派なクマタカとなっている。しかし、立ち上がった姿を見ると尾羽がまだかなり短い。巣立ちまでにはあと10日くらいかかるだろう。

いい風が吹くと、翼を広げて羽ばたきの練習をし、親鳥が持ち帰った獲物に飛びつき、翼で覆い隠して押さえ込むなど元気に動き回っている。今日の獲物は鳥類(種不明)と大きなヘビだった。どちらもすぐには食べなかったが、しばらくして鳥のほうを食べ始めた。鳥をすべて食べ尽くしてもヘビのほうは食べずにいる。ヘビより鳥のほうが好みなのかもしれない。夕方までにはヘビも少しだけ食べた。

35度以上の猛暑が続いているが、日陰のほとんどない鉄塔の巣で雛は元気に育っている。明後日ごろに超大型の台風が西日本に上陸するとの予報だ。巣ごと吹き飛ばされないことを祈っている。



鉄塔営巣のクマタカ。雛の羽毛が生え始めた

鉄塔営巣のクマタカは順調に雛を育てている。雛の翼には羽毛が少しずつ伸びてきた。雛は羽毛の伸び具合から生後42日程度(7月6日時点)と推測される。雛が孵化したのは5月25日頃であろう。結構遅い孵化日である。僕がこれまでに観察した中で早いものでは4月下旬に孵化しているから、それと比べるとちょうど1ヶ月遅い。しかし繁殖の始まりは気温や雪の量など地域によって違いがあるので、このペアの地域ではこれがスタンダードなのかもしれない。

雛が生後1ヶ月ほどになると、日中は保温の必要がないので親鳥は巣から離れ、雛だけで過ごす時間が多くなる。しかし、雌親は巣が見える場所から雛の様子を見守っている。
繁殖の妨げにならないよう、これまでは遠くからの観察にとどめていたが、今日は親鳥がいない間にブラインドに入り、少し近くから観察する。案の定、巣にいるのは雛だけだ。それでも雌親はそう遠くないところにいる可能性が高いので、林の中に隠れてそっとブラインドに入る。
10時半頃、近くで親鳥2羽が鳴き交わしているのが聞こえてきた。雄親が獲物を持って近くまで来たのだろう。雛も鳴き始めた。間も無く雄親が獲物を持って巣に入った。雛は激しく鳴きながら雄親の足元に飛びついて獲物を押さえ込む。雄親はすぐに巣から出て行った。

雛は両翼を広げて獲物を覆い隠して押さえ込んでいる。しばらくして雌親がその獲物を雛へ給餌するために巣に戻って来た。その時にマツの青葉も持ち込んで巣に敷き込んだ。針葉樹の青葉には殺菌作用があるので、巣を清潔に保つためには欠かせない。生肉を食べる猛禽類の多くが、巣に度々青葉を運び込む。

雌親が獲物を持ち上げると、それはモモンガであった。引きちぎっては雛に与え、時々雌親も食べる。ものの15分ほどでモモンガ1頭を食べ終えた。
夜行性のモモンガが、早朝にまだうろついているところを襲われたのだろう。クマタカは小さなものではネズミ類や小鳥、大きなものではノウサギやタヌキ・キツネの子どもなども捕らえる。小さなものから大きなものまで、いろんな獲物を捕獲する俊敏さがクマタカの強みである。



子ジカを探して授乳する、ニホンジカ

ニホンジカは、子ジカを藪の中において、授乳の時だけ子ジカのところにやって来る。これは逃げ足の遅い子ジカが外敵に見つからないようにするためだが、母ジカが来るまでに子ジカは多少移動しているので、母ジカは子ジカがいた場所まで来てまわりを探すことになる。

母ジカは夕方に子ジカのところへやって来ることが多い。両耳をアンテナのように広げて、子ジカが立てる物音をキャッチしようとあたりを見回す。そして母ジカは、登山者など人が近くにいる場合でも警戒しながら子ジカを探して歩いて行く。普段ならそんなに人間に近づくことはしない。
まもなく子ジカが母ジカに気づいて駆け寄って来るのだが、時にはなかなか見つからないこともある。それでも母ジカは根気よく探して子ジカを見つけ出す。子ジカはお腹を空かしているので、すぐに母ジカの腹の下に入って乳を飲み始める。十分に乳を飲んだ子ジカは、しばらくは母ジカのそばにいるが、そのうちに茂みに隠れ、母ジカは他のシカたちと採食しながら去って行く。

このような生活が1ヶ月ほど続き、子ジカが少し大きくなって素早く走り回れるようになると母ジカと行動を共にするようになる。5〜6月に生まれた子ジカたちは、今では徐々に母ジカと行動を共にするようになっている。



子ジカを探す母ジカ。子ジカが母ジカを見つけて駆け寄り、乳を飲む

鉄塔営巣のクマタカ、雛が孵化。繁殖順調

鉄塔に営巣しているクマタカの繁殖は順調に継続している。5月中旬には、まだ抱卵であったが、月末には雛が孵化していた。遠方からの観察なので雛の姿は確認できなかったが、雌親が獲物を引きちぎって給餌している姿が確認できた。

鉄塔は周りの林から飛び出て高いので、森の中の営巣と違って直射日光や雨や風を遮るものがない。以前樹木で営巣していたクマタカの雛が、台風の強風で吹き飛ばされて地上に落ちて死んでいたことがあった。鉄塔の上ではさらに強い風が吹き付けるだろう。強い陽射しもまた小さな雛にとっては致命的だ。親鳥が翼で覆って日陰を作って凌ぐしかない。新しい環境での心配事は次から次へと思い浮かぶのだが、新世代クマタカはそれらの問題をいとも簡単に克服するに違いない。



鉄塔に営巣するクマタカ。
雌親は獲物を引きちぎって雛に与え、時々自分も食べる