カラスの群れが出産直後の子ジカを襲う

5〜6月ニホンジカの出産シーズンだ。山を歩いている時、目の前の草むらにニホンジカの子供がうずくまっているのを見つけた。生まれて1〜2日くらいだろう。
草の中に丸くなって、大人しく隠れている。眠っているように見えるが、耳が周囲の物音を聞くために動いている。僕との距離は2m、いつ逃げ出そうかとタイミングを見計らっているのかもしれない。まだ早く走れるわけではないので、見つからないように動かないことが1番の安全策なのだろう。
少し離れたところから様子を見る。しばらくすると子ジカは立ち上がったが、頭は下げて草の中に入れたままだ。数十センチ移動して座った。
あまり長居をすると、母ジカが戻って来れないので、僕はその場を離れた。

別のところにも子ジカを連れて歩く母ジカの姿をが見られた。これから出産するお腹の大きな雌ジカもあちこちにいる。
十数羽のハシブトガラスが騒いでいる場所を双眼鏡で見ると、そこに雌ジカが立っているのが見えた。雌ジカは周囲に舞い降りるカラスを追い払おうと躍起になっている。
雌ジカのすぐそばに降りたカラスが草陰で何かをつついて食べている。出産直後の子ジカが犠牲になったのか、それとも胎盤を食べているのだろうか。
1時間以上が経った頃、雌ジカは諦めたのか少し離れたところに座り込んだ。カラスは入れ替わり立ち替わりしながら何かを食べ続けている。カラスが引っ張り出したその残骸は子ジカであることが確認できた。

このところカラスの群れが山の斜面に降りて騒いでいるのを時々見かけるので、出産直後の子ジカを狙っているのではないかと予想はしていたが、これでカラスが出産直後の子ジカを襲うことがはっきりとした。
イヌワシやツキノワグマだけでなく、カラスもまた子ジカにとっては脅威となっている。


丘の上のアナグマハウス 4月21〜30日

巣穴のまわりにはいろんな動物がやって来る。今回新たにハクビシンとニホンリスが出現した。巣穴を利用するタヌキやアナグマは、巣穴に興味津々で、覗き込んだり少しずつ奥へと入ってみたりしながら、におい付けをして去って行った。
巣穴は、カマドウマが集団でねぐらにしている。夕方暗くなると穴から出て、四方八方へと分散して行く。明け方には巣穴へと戻って来る。これが毎日繰り返されている。
普通にビデオを再生している時には、カマドウマに気づかなかったのだが、50倍速くらいで早回しすると、続々と巣穴から出て来たり帰って行くのが見えてくる。
カマドウマを狙って、コウモリが毎日のようにやって来る。カマドウマを捕食しているのはコウモリだけでなく、タヌキも食べていた。
タヌキは4月18日にも現れた、1頭が左後脚を怪我している夫婦だ。恐る恐るではあるが、体全体が隠れるまで巣穴に入って様子を見ていた。


丘の上のアナグマハウス 4月11〜15日

伊吹山山麓にあるアナグマの巣穴を無人カメラで観察。
巣穴は10mほど離れたところにもう1つあって、近くにはさらに2〜3ヶ所、崩れて塞がりかけている穴もある。これらの穴は地中で繋がっている。
アナグマは、地中深く掘り進んだ穴の中で冬眠をして子どもを産み育てる。
今年は利用しなかったが、アナグマはもちろん、巣穴を利用するキツネやタヌキも時々様子を見にやって来る。

4月11〜15日の間にヤマドリ・キツネ・カケス・ニホンジカ・ネズミ類・アナグマが巣穴近くに現れた。
キツネは巣穴が気になる様子で、中を覗き込んで去って行った。右前脚を怪我している。先端部分が切断されている。ニホンジカの有害捕獲のために仕掛けられたくくり罠にかかり、暴れまわって脚先がちぎれて、どうにか抜け出して来たのだ。近年、こうした脚先のない野生動物をたびたび見かけるようになった。
アナグマは朝明るくなって現れた。巣穴を気にして覗き込んでいた。


ニホンジカの角落ちシーズン

先日、ニホンジカの角を3本拾った。ニホンジカは毎年角を落として新しく生え替わる。3月中旬から5月中旬に角を落とす。
今回拾った3本は、いづれも標高1,000m程の尾根を歩いている時だった。2本は、地面を平らにならしたシカの休息場所に1mほど離れて落ちていた。同じ個体の左右の角だ。もう1本は、残雪の脇に落ちていた。2本は休息中に、1本は採食中に落ちたものだ。
角が落ちて間もない時には、角が生えていた部分が痛々しく見えるが、シカのほうは至って平然としている。間も無く、そこから袋角と呼ばれる柔らかい角がむくむくと伸びてくる。
立派に大きくなった角が、翌年には落ちて生え変わる。角の再生にはかなりのエネルギーが必要と思われるのに、毎年生え変わる必要があるのだろうか?
角は8月までは外皮をかぶっているが、9月には骨化した硬い角となっている。


ニホンジカの子どもが元気に跳ね回る

ニホンジカの出産は5月が多い。しかし、生まれて間もない子ジカは、1日の大半をブッシュの中に隠れて過ごしているので、見つけるのは難しい。母ジカは授乳の時だけ子ジカのところにやってくる。
今年出産したであろう雌ジカを見極めて追跡することで、子ジカを見つけることができる。出産した雌の見極めは、体格が良く昨年生まれの若いシカを連れていない個体を選ぶとほとんど間違いはない。出産は隔年なので、昨年の子ジカがいる雌は今年は出産していない。

6月の半ばを過ぎると、子ジカは母ジカについて歩き回るようになる。こんなに子ジカがいたのかと、びっくりするくらいあちこちに現れる。走ったり飛び跳ねたりすることが楽しそうだ。突然母親から離れて一直線に100mも走り出したと思ったらUターンして全力疾走で戻って行く。
やんちゃ盛りの子ジカは、僕がいることに気づかずに、目の前まで走って来てびっくりして逃げ帰ったり、母ジカより先をどんどん歩いて僕に出くわしたりと無邪気なものだ。近づいた先がクマだったら子ジカの命はない。

子ジカが十分な警戒心と注意力を身につけるまでには、まだまだ時間がかかる。それまで生き残れる子ジカは半数もいないだろう。



冒険心が旺盛な子ジカが遠出。母ジカは子ジカを探す

ツキノワグマの腐肉食

先月4月22日夕方、岐阜県の揖斐川源流部河岸にツキノワグマがいるのを見つけた。水際で何かを食べている。冬の間に死んで流されて来たニホンジカの残骸だ。もうすでに腐って、毛は抜け落ちている。
腹部のあたりに顔を突っ込んで、残っている内臓や肉片を食べている。人間はこんな腐肉を食べることは到底できないが、クマは平気で食べている。野生動物はたくましい。

1時間余り経ってクマは、すぐ脇のササ藪に入って座った。姿は見えなくなったが、ササが揺れなくなったことから休息しているようだ。15分ほどでササ藪から出て、シカの死体のところに戻って来た。死体をしばらくあさった後、満腹になったためかその横で寝そべった。トビやカラスがやって来て、肉片を横取りしていくので見張っているのだろう。暗くなるまで寝そべったままだった。

翌朝早く、クマの様子を見るためにそこを訪れたが、すでにクマの姿はなかった。一晩かけてシカの残骸を食べ尽くして、去って行ったのだ。そこにはシカの骨と皮だけが残されていた。



ニホンジカの腐肉を食べるツキノワグマ

子ジカを探して授乳する、ニホンジカ

ニホンジカは、子ジカを藪の中において、授乳の時だけ子ジカのところにやって来る。これは逃げ足の遅い子ジカが外敵に見つからないようにするためだが、母ジカが来るまでに子ジカは多少移動しているので、母ジカは子ジカがいた場所まで来てまわりを探すことになる。

母ジカは夕方に子ジカのところへやって来ることが多い。両耳をアンテナのように広げて、子ジカが立てる物音をキャッチしようとあたりを見回す。そして母ジカは、登山者など人が近くにいる場合でも警戒しながら子ジカを探して歩いて行く。普段ならそんなに人間に近づくことはしない。
まもなく子ジカが母ジカに気づいて駆け寄って来るのだが、時にはなかなか見つからないこともある。それでも母ジカは根気よく探して子ジカを見つけ出す。子ジカはお腹を空かしているので、すぐに母ジカの腹の下に入って乳を飲み始める。十分に乳を飲んだ子ジカは、しばらくは母ジカのそばにいるが、そのうちに茂みに隠れ、母ジカは他のシカたちと採食しながら去って行く。

このような生活が1ヶ月ほど続き、子ジカが少し大きくなって素早く走り回れるようになると母ジカと行動を共にするようになる。5〜6月に生まれた子ジカたちは、今では徐々に母ジカと行動を共にするようになっている。



子ジカを探す母ジカ。子ジカが母ジカを見つけて駆け寄り、乳を飲む

脚を失った野生動物。くくり罠との関係

近年、脚の先端部が無い野生動物を時々見かける。キツネやタヌキ・アナグマなどの中型哺乳類のほか、大型のニホンジカも片脚のないものがいた。こうした野生動物をちょくちょく見かけるようになって、その原因として気になったのがくくり罠だ。

ニホンジカが増えて農作物や林業の被害、山の植物が食べられて裸地化するなど深刻な被害が発生している。それに伴ってニホンジカの有害捕獲が盛んに実施されるようになった。銃器や檻、くくり罠などで捕獲する。くくり罠はワイヤーなどで動物の脚を締め上げて捕獲するのであるが、目的のシカだけではなくいろんな動物を捕獲してしまう。実際にタヌキがかかっているのを見たことがある。また罠の近くで死んでいるキツネやタヌキも見た。

くくり罠で誤捕獲した場合、生きたまま逃してやることは難しく、逃がせたとしても締め上げられた脚は骨折や脱臼などで使えなくなっている。
脚を切断して逃げてどうにか生き延びてきたのが、今回の映像に映っている動物たちではないだろうか?自然状態では、脚を切断するような怪我というのは、めったに起こるものではないだろう。

くくり罠は簡単に設置できるので相当な数が仕掛けられている。罠は改良が加えられて誤捕獲しにくいような工夫がされてきているが、目的の動物以外のものが捕獲される可能性はまだまだ高い。特定の動物を捕獲するはずが、無差別的な捕獲となっている。



アナグマ・キツネ・タヌキ・ニホンジカの脚先がなくなっている。キツネは右前脚と左後脚がない

子カモシカとニホンジカと大接近

1歳に満たない子カモシカが単独で現れた。体は小さく、角も細く短い。オレンジカモシカの子どもかもしれないが分からない。この子カモシカは、肩から首にかけての毛色が特徴的でオレンジがかった淡い色をしている。別の日に出会っても個体識別ができるだろう。
まだまだ小さな子カモシカが、冬を単独で乗り切る姿にはいつも感心させられる。あまりにも頼りなげに見えるからだ。

子カモシカが採食しているところに、ニホンジカの母子がやって来た。母ジカが子カモシカの立てる音に気づいて警戒している。そのうちに子カモシカを見つけて警戒を解いて歩き去った。続いてニホンジカの群れが来た。子カモシカは居心地悪そうにしながらも逃げることなく採食を続けていた。
1頭の母ジカが、鼻先を子カモシカのほうへ伸ばしてゆっくりと歩み寄って来た。母ジカは子カモシカに挨拶しようとしているのかもしれない。逃げたいけども逃げないで頑張る子カモシカのどぎまぎとした様子が何とも愛おしい。母ジカは鼻先が触れんばかりに近づいた後、そのまま後退した。
子カモシカは少し離れた岩場へと歩き、ホッとしたのか座って休息を始めた。

後日、この単独で暮らす子カモシカが、オレンジの子どもであることが判明した。オレンジと離れてから長いこと姿を見せなかったが、元気に暮らしていたのだ。



雪のない斜面伝いに山を登るニホンジカ

暖冬でニホンジカは例年より標高の高いところにとどまっている。伊吹山の標高1,000mあたりでも、急傾斜地の雪は風で吹き飛ばされて積もりにくいので、すでに地肌が露出しているところが多い。シカたちはそうした場所に集まって採食している。雪解けが進むのに合わせて標高を上げて行く。雪に覆われていた場所には、冬の短期間ではあるが手つかずの植物が残っている。シカたちはその未開の地へ一番乗りするためにどんどん標高を上げているのだ。
雪が降るとシカは少し後退し、積もった雪が溶けると前進する。一進一退を繰り返しながらも着実に標高を上げて進んでいる。

1週間前には、どういう訳か雌ジカと子ジカばかりだったが、今日は雄ジカもたくさん姿を見せた。これまで最前線にいた雌ジカの群れに変わって、今日は雄ジカの群れが標高1,100mの最前線にいた。

雌ジカと子ジカの群れ

雄ジカの群れ