ニホンジカは発情期。山はシカの鳴き声で賑やか

9月に入る頃、例年通り山のあちらこちらからニホンジカの鳴き声が聞こえてくる。秋はシカの発情期だ。オスは大きな高い声でピィーーと鳴いて自己主張している。遠くで鳴いていると、秋の物悲しさが伝わってくるような情緒ある声なのだが、近くで鳴かれるとうるさい雑音のように聞こえる。遠くではピィーーという透き通った声しか聞こえないのに、近くで聞くとピィーーの後にガーとかゲボッゴボッという濁音の耳障りな声が付録でついてくることが多い。時にはこの耳障りな濁音が主体となる声を出すこともある。

10月に入って鳴き声が一段と激しくなってきた。おまけに僕が不用意に微かな物音を立てたために、近くにいた雌ジカが警戒声を上げ始めたから賑やかさを通り越してうるさくなってしまった。僕はしばらく身動きせずに雌ジカが鎮まるのを待つ。雌ジカは一瞬で音源を正確に読み取り、僕の方向へ顔を向け大きな耳を広げている。今この状態でもう一度物音を立てたなら、雌ジカは人間の接近を確信して一目散に逃げ出すだろう。15分ほど立った頃、雌ジカは警戒を解いた。僕もこわばっていた全身の力を抜いてホッとする。

子ジカを生んだ年には母ジカはたいてい発情しない。雄ジカが近づくと母子は慌てて逃げていく。それでも雄ジカは再びゆっくりと接近し、また逃げられることを繰り返している。雄の想いはいつになったら遂げられるのか?交尾行動を撮影したいところだが、その瞬間はなかなかやってこない。



雄ジカの発情期特有の鳴き声と雌ジカの警戒声