伊吹山のイヌワシと野生動物2025年8月下旬 空中でトビをキャッチ



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タカ類は今年の繁殖を終えて早い個体は移動を始めている。長距離を渡る種や国内の近距離を移動する個体など様々だ。
山麓部で繁殖して育った幼鳥が、伊吹山の頂上近くまで上がってきて狩りをしている種もある。チョウゲンボウやハヤブサ、サシバなどがそうだ。
伊吹山は今猛禽類で賑やかだ。

8月19日に頂上近くの草地に降りて昆虫を食べているシギがいた。オバシギの幼鳥か若鳥ではないかと思うが、オバシギは普段干潟や河口などにいるので渡りとはいえこんな山の中にいるのはちょっと変だと思う。シギ類の識別に詳しい方に問い合わせてみないと僕には分からない。
このシギは、少し後でハヤブサ幼鳥2羽に追われていた。空中でハヤブサが交互に何度も攻撃を仕掛ける。シギは攻撃をかわしながら徐々に高度を上げて逃げている。3羽は雲の中へと入って見えなくなった。
少し後にハヤブサ幼鳥が雲から出てきたが、何も持っていなかったので、シギはなんとか逃げ切ったのだと思う。
その後このシギを見ることはなかった。ここは危険とばかりに飛び去ったのだろう。

イヌワシは獲物を食べたかどうかが分かった4日のうち2日は、少なくとも雌雄のどちらかが獲物を食べた。2日に1回の獲物の捕獲なので、よく捕獲できているほうだ。
8月29日にはついにトビを捕獲する瞬間を映像に収めることができた。長い急降下の後、垂直急降下でトビに襲いかかった。しかし、1回目は失敗。
2回目の攻撃もかわされた。もう無理だろうと思った3回目の攻撃で見事にトビをキャッチした。
まだ生きているトビに衝撃を与えるためなのか、錐揉みで回転しながら降下して消えた。
どこで見ていたのか雌ワシがすぐに現れて、雄ワシが降りたほうへと飛んでいった。
獲物は捕獲した雄が食べる。その間雌は近くで飛んだり止まったりしながら待っている。小さな獲物なら雌の分は残らない。今回の獲物はトビなので少しくらいは雌の分が残っただろうと思う。
満腹になるまで食べるのに1時間から1時間半くらいかかる。予想通り雄ワシはそのうを膨らませて1時間後に出てきた。続いて雌ワシが食べているはずだ。
雌ワシが食べて出てくるのに30分はかからないだろう。トビは食べられる肉は少ないのでほんのわずかしか残っていないかもしれない。10分ほどで食べ終えて出てくる可能性が高い。
残念ながら雌ワシが出てくるのを確認できなかった。

これまでに空中でタカ類を捕獲するのを3回目撃した。1回目は40年近く前だったと思うがトビを捕獲したのを見た。撮影はできなかった。2回目は20数年前くらいにノスリを捕獲したのを撮影できた。
そして今回のトビ捕獲が3回目だ。
猛禽類やカラスを襲うのは度々観察できるが、捕獲に成功するのを目撃できる機会はわずかしかない。

Vol.21 猛禽類の生存戦略

人工物に止まるクマタカ

猛禽類は、個体数の減少や繁殖成功率の低下など、将来が危ぶまれる種類が多い中で、環境の変化にうまく順応してしたたかに生きる種類も少なからずいる。

猛禽類は警戒心が強く、人間とは距離を置いて生活していると考えられていたが、近年では都市部のビル街や市街地の公園で繁殖するものなど、人間の往来の激しい場所へ進出する個体が見受けられるようになった。オオタカやハヤブサの仲間は人間が作り出した新しい環境に順応して繁殖を始めている。

猛禽類の生存を左右する主な要因は、獲物となる動物の豊富さである。彼らは、都市部や郊外で増えているドバトやスズメなどに目をつけたのだ。中型のオオタカやハヤブサはドバトを主に捕食し、小型のハイタカやツミなどはスズメや他の小鳥を捕食する。

本来岩場で繁殖するハヤブサは都市部の高層ビルで繁殖し、森林性のオオタカの仲間は公園や郊外の林に営巣する。人間への警戒心を少しずつ和らげながら進出してきたのである。

市街地に進出する猛禽類がいる一方で、イヌワシやクマタカは山地に住み続ける。彼らはノウサギやヤマドリ・リス・テンなどを獲物とするために、市街地への進出はありえないだろう。イヌワシやクマタカは、昔ながらの自然環境が残る山地帯で生活し続けるしかないのだ。昔ながらの自然環境とはいっても、近年では奥山にまで開発の波が押し寄せ、彼らの生活も少しずつ変わってきている。

山地に住むクマタカだが、山の中にそびえ立つ巨大な人工物である高圧鉄塔をよく利用する。まわりの樹木よりも何倍も高い鉄塔は見晴らしが利くので、獲物を探すのにも周辺の見張りをするのにも非常に都合がいい。しかし、高圧鉄塔は感電の危険性がある。実際に感電して黒焦げになったクマタカの死体も見つかっている。飛行中に高圧線にぶつかる危険性もあり、海外の国立公園などでは、高圧線によく目立つ目印をつけたり、鉄塔の感電する恐れのある部分に止まれなくして、代わりに安全な位置に止まり木を取り付けているところがある。

高圧鉄塔はイヌワシにも利用価値の高いものだと思えるが、イヌワシが鉄塔に止まったのを一度も見たことがない。

猛禽類も環境の変化を有利に利用できるように少しずつその環境に順応してきている。獲物が豊富で営巣地が確保できるのであれば、少々の環境変化は受け入れてしまうのだ。しかし、市街地やその郊外の環境の変化は非常に早く大きい。1年後には営巣地や獲物が同じところで確保できるかどうかわからない。非常に不安定な生息地であることは間違いない。

人工物をほとんど利用することのないイヌワシは、環境の変化にも弱い猛禽だと考えられる。その分イヌワシの生息する山地帯は、近年の機械化された奥山開発に圧迫されてはいるものの、市街地周辺に比べると環境の変化は比較的ゆっくりしたものである。

環境への適応力が高い猛禽と、適応力は低いが変化の小さい生息地に住む猛禽、どちらの選択が有利だろうか?

個としては後者の方が、種としては前者の方が有利であろう。

さて、選択の余地があるならば、自分はどちらを選ぶだろうか。

Vol.15 ハヤブサ:猛スピードのハンター

クリッとした瞳がかわいい猛スピードのハンター

細く、長く、先端がとがった翼を持つハヤブサは、スピードの王者だ。翼をすぼめて垂直に急降下するときには、時速300kmにも達すると言われている。

ハヤブサの獲物は、ハトやヒヨドリなどの小鳥が主体である。ハヤブサのハンティングは飛ぶ鳥を猛スピードで襲う空中戦だ。狙った獲物が林の中に逃げ込む前に、狩りを成功させなければならない。そのためには広く開けた場所が必要だ。

また、切り立った断崖でヒナを育てる。このようなハヤブサの生息地の条件を満たす場所は海岸である。荒波に削られた断崖と開けた海原、春と秋には多数の渡り鳥が通過する。十分な獲物と営巣場所がそこにはそろっている。

ハヤブサの繁殖は、春の渡り鳥の通過時期にぴったり合っている。ヒナの食欲がおう盛になる生後2週間くらいの頃、ちょうどヒヨドリの大群が次々と北上して渡っていく。ひと塊になって海上を渡るヒヨドリの群れに向かって、このときとばかりにハヤブサペアが発進していく。数百羽のヒヨドリの群れにペアで急降下攻撃をくり返し、それぞれ1羽づつヒヨドリを捕えて戻ってくる。

渡りの最盛期には、ヒナの待つ巣へ獲物を持ち帰って一息つくまもなく、次のヒヨドリの群れに向かっている。巣では、3〜4羽のヒナがおなかを空かせて待っているのだから親鳥も大忙しである。ハヤブサの繁殖には、渡り鳥が重要な役割を果たしているのだ。

狩りに忙しいときには、捕えた獲物を巣へは持ち帰らずに一旦岩場に隠し置いて、狩りに出かける。貯蔵した獲物は、狩りが一段落して巣に獲物が無くなったときに、巣へ運び込む。渡り鳥を次々と襲って、一時にたくさんの獲物を捕えるが、貯蔵することによって無駄なく獲物を利用しているようだ。

海岸はハヤブサにとって絶好の生息地だ。しかし、ハヤブサを調べていくうちに彼らの生息地は海岸だけではないことがわかった。生息地の条件を満たす場所は海岸から離れた内陸部にもあったのだ。

農耕地が広がる平野や大きな川・湖などが海原に変わって狩り場となる。山麓部の採石場や高層ビルまでもが営巣地となっている。獲物となる小鳥がたくさん生息していれば条件は満たされる。さらに渡り鳥の通過コースになっていれば申し分ない。

野生動物たちは、生息地の条件が整えばそこへ進出してくる。逆に、条件が失われたところからは姿を消す。

野生動物が生息するとは考えられないような採石場でさえもハヤブサはヒナを育てている。人間への警戒心を少し解き、騒がしいのを我慢して、なんとか暮らしている。ハヤブサにとっては、騒がしくても楽しい我が家であるのかもしれない。採石場を利用する例は数多く見られる。

ハヤブサは都市部にも姿を現した。本来、都市部には野生動物は少ないが、ハヤブサは都市部で数を増やしていたドバトに目をつけた。営巣地は、人間が近づきにくい高層ビルを利用した。

ドバトという一種類の獲物に依存する生活は非常に危ういものである。しかしながら当分は、都市に進出するハヤブサが各地で現れるだろう。

買い物や通勤途中で見上げた空に、猛スピードで急降下するハヤブサの姿が見られるかもしれない。