アフリカから謹賀新年

小鳥のように小さいアフリカ最小のハヤブサ、Pygmy Falconのペア(上が雄)

今年は、南アフリカで年を越した。日本の年末のような慌ただしさは感じられず、正月休みもなく元日から普通に仕事が始まった。日本の年越しのような特別さはあまり感じられなかったが、これは僕が南アでは旅人であることが大きく影響しているのかもしれない。
それでもKgalagadi Transfrontier Park(カラハリトランスフロンティア公園)での年に1回のミッドナイトサファリ(年越しサファリ)に参加して、夜中に野生動物を探しながら新年を迎えることができた。0時になると「Happy New Year」とサファリカーの中のみんなで声を掛け合いながら、暗闇の中で静かに盛り上がった。日本とは時差が7時間もある。日本はもうすでに元日の朝7時だ。

2〜3時間の仮眠の後を、新年の早朝からPark内をいつも通り動物を探し、撮影を続けた。元日もいつも通り快晴。清々しい青空が広がっている。
新年早々、今回の撮影対象であるMartial Eagleの幼鳥が目の前に姿を現してくれた。ライオンも日陰で寝そべっているのを近くから観察できた。今日は特別に、昼に一旦ロッジに戻って休息した。夕方から再度動物探しに出かける。

Martial Eagleの幼鳥

Ostrich(ダチョウ)は子だくさん

Ostrichのペアが時折雛鳥を連れて歩いているのを見かける。背が高く大きな親鳥とは比べ物にならないほど小さな雛たちが、草陰から次々と出てくる。ヒナの数を数えてみると、なんと33羽もいるではないか。1羽の雌が33個も卵を産んだとは考えにくい。不思議に思って図鑑を調べると、Ostrichは一夫多妻で、3〜4羽の雌が同じ巣に卵を産んで1羽の雌が抱卵するらしい。それにしても33個もの卵を抱えきれるのかと謎は残る。

地上に座って抱卵中のOstrichを見つけて、時々通りがかりにこの巣を観察すると、たまに雌に変わって雄が抱卵していることがある。雌が採食する間雄が交代しているのだ。
立ち上がった時に、卵が少しだけ見えたが、200mほどの距離があるのと、地面を少し掘ったくぼみに産卵されているのとで詳細はわからない。他のペアでも二十数羽の雛を連れているのを見ているので、この巣にも2〜30個の卵があると思われる。
卵は2段重ねくらいになっているのだろうか?この抱卵の謎が解けるわけではないが、雛が孵化して歩き回り始めたら、何羽いるのか数えてみたいと思っている。

33羽の雛とOstrichの雄親

Caracal(カラカル)現わる

強い日差しを避けて、ほとんどの動物が日陰に入って休息している。そのような昼下がり、4頭のCheetah(チーター)が水場にやって来てひとしきり水を飲み、近くの木陰に寝転がって休息を始めた。
ふとCheetahと反対の方向へ目をやった時、木陰で何かが動いた。Caracalがそこに座っていた。長年アフリカへ通っているが、まだ一度もCaracalに出会ったことがなかった。同じネコ科のCheetahと比べるとかなり小さいが、飼いネコの2〜3倍の大きさがある。想像していた通り、飼いネコのような弱々しさを全く感じさせない逞しいネコだ。

CaracalはCheetahのほうを気にして見つめている。水場に水を飲みに行きたくて、Cheetahが立ち去るのを待っているのかもしれない。しかし、Cheetahは水場から離れる様子はない。時間が経つにつれ、太陽の傾きが少しずつ変化するので、日陰が移動するのに合わせてCaracalもじわじわと座り場所を変えている。
そのうちにCaracalは立ち上がり、木の根元に歩み寄って何かをくわえ上げた。黄色っぽい全身に長い尾を持ったMongooseのようだった。捕らえたこの獲物を近くに置いていたのだ。
Caracalは丘を駆け上って見えなくなった。

木陰で日差しを避けて休息するCaracal

野生動物は日陰で休息

真夏のKgalagadi Transfrontier parkは暑い。気温は40度を越えている。野生動物たちは、直射日光を避けて木陰に入っている。強烈な直射日光が当たる日向と木陰のコントラストは強く、木陰にいる野生動物はかなり見つけにくい。

哺乳類はもちろん、鳥類も木陰に集っている。猛禽類も直射日光を避けて木の中ほどに止まっていたり木の根元の地上にいたりと、これまで冬場に見ていたのとは違った行動をしている。

木陰で日差しを避けるPale Chanting Goshawk

Black Backed Jackalも木陰で休息

アフリカ入り

11日に南アフリカ入りし、Kgalagadi Transfrontier parkにやって来た。いつものことながら、飛行機の窓から見降ろすアフリカの大地は赤茶色かった。Upington空港でレンタカーを借りて、Kgalagadi Transfrontier Parkまで250kmほどのドライブだ。
ここは南半球なので、今は真夏だ。暑い。しかし、近年の日本も35度を越える暑さだから同じくらいかもしれない。湿度は日本よりも低い。

飛行機から見下ろした南アフリカの大地

翌日から公園内を車で走る。砂地でかなり走りにくい。空港で借りた2WD車では、砂が深くなると走れない。何度もスタックして、通りがかった人に車を押してもらって何とか脱出できたというような危ういこともあった。レンタカーで4WD車は少ないが、2WD車ではそのうちに身動きが取れなくなってしまうだろう。

いよいよKgalagadi Transfrontier Parkへ入って行く

半砂漠地帯を車で走る

「美人」な動物

以前、雑誌の表紙用に写真を送った時、編集者から「美人ですね」とだけ書かれたメールが返って来た。普通なら何のことか分からないのだが、僕自身もその写真を見て「美人」だと感じていたので、すぐに写真に写っている動物のことだと分かった。
写真の主はSteenbok。中型犬くらいの大きさの小型のアンテロープだ。鼻筋にシャープな黒い模様があって、より一層顔が整って見える。見れば見るほど、Steenbokが「美人」に見えてくる。

「わたし美人かしら?」

猛禽類の狩りも命がけ

肉食獣の狩りが命がけであることは前回書いたが、ワシやタカなど猛禽類の狩りもまた命がけだ。
Martial Eagleが大木の頂上に止まり獲物を探していた。1時間ほど経った頃、Martialが獲物を見つけたようだ。首を伸ばして前方下部をさかんに見ている。ひょいと飛び立ち降下した。翼をすぼめて翻るように急角度に地上に向かって降下してブッシュの裏に消えた。少し待つが出て来ない。

狩りに成功したと思い、その辺りが見えるところに移動する。降りたところはほぼピンポイントで分かっているのだが、見つからない。そのうちに翼と尾羽を半開きにしてボロ布のように地上に伏せているMartialを発見した。
獲物をおさえこんでいるのだと思うが、姿勢があまりにも低く横たわっているように見える。しばらくして頭を上げたので、後方から顔が見えた。すぐに頭を下げて見えなくなった。何度か頭を上げたり下げたりを繰り返した後、立ち上がった。脚で頭を掻き、羽繕いをしてから飛んで行った。しかし、獲物はなく、狩りは失敗していた。

地上に横たわるようにして時々頭を上げる

狩りが失敗して10分以上もの間、地上に横たわるように動かなかったのはなぜだろうか?それも普通に座っているというよりも倒れているように見えた。おそらく獲物に襲いかかった時、誤って地面に激突したのだと思う。以前日本でクマタカが林道脇で死んでいるのを見つけたことがあった。これも獲物を追いかけて林道の法面に激突して死んだものと考えられた。今回のMartialは脳震盪を起こしただけで事なきを得た。

立ち上がったが、獲物はなかった

猛禽類も楽々と獲物を手に入れている訳ではない。特に獲物が鳥類の場合には、地上すれすれまで猛スピードで突っ込んで行くので、地上への激突の危険性も高い。どこまで猛スピードで突っ込めるかで狩りの成功率は変わるだろう。成功率を上げるためには危険度も高まる。厳しい選択だ。

✳ 23日にアフリカを発ち、24日夜に日本に戻りましたが、もう少しアフリカの動物についての報告を予定しています。

肉食獣に怪我はつきもの

今回1カ月の間に怪我をしているライオンを2頭も見た。1頭は左脚首辺りが裂けてぱっくりと口を開け、傷は奥のほうまで達している。人間なら何針も縫う大怪我であるが、このライオンは歩いても怪我をしていることをほとんど感じさせない。雌2頭で行動しているので、獲物が捕れずに困ることもないだろう。

別の1頭は、右後脚を引きずるように歩いていて具合が悪そうだ。少し距離があるので怪我の詳細はわからないが、立ったり座ったりするのもやりにくそうだ。この状態では獲物を捕獲するような激しい動きはできないだろう。単独で周りに仲間はいない。インパラが近くを通っても狩をする素振りは見せなかった。傷が癒えるのを静かに待つのだろうか?このライオンのこれからの行動が気になるところだ。

肉食獣の怪我の頻度は高いのではないかと思える。ライオンなどの大型肉食獣は、自分よりも大きな動物も度々捕獲するので、狩りは非常に激しいものになる。角を持った動物も多いので角で突かれたり脚で蹴られたり、油断すると自分の生命も危ない。強いということばかりが強調される肉食獣だが、彼らも死と隣り合わせで狩りに挑んでいるのだ。

毒ヘビ、樹上で生活

枝を伝って移動する

世界最強クラスの毒ヘビ、ブラックマンバ。「噛まれたら30分以内に血清をうたなければ死んでしまう」と現地の人に聞いたことがある。30分というのが事実かどうかはわからないが、非常に強い毒を持っていることは確かだ。

ブラックマンバにはこれまでに何度かお目にかかった。1度目はジンバブエの国立公園内の道路だった。長さが3mほどもある大きなもので、素早く道路を横切っていった。また、捕獲した2,5mほどのブラックマンバを間近で見たこともある。その後も道路を横切るのを2回くらい見た。

今回はクルーガー国立公園のレストキャンプ内で、人や車が通る道脇の木に登って枝の上でとぐろを巻いていた。1.8mくらいの大きさなので、4m以上にもなるブラックマンバとしては小ぶりなほうだと思う。大勢の人が木の下に集まってブラックマンバを見ていた。

日本なら人の集まるレストキャンプのようなところへ毒ヘビが出てきたなら、すぐに捕獲されるだろう。アフリカではどうするだろうかと興味があった。

ブラックマンバの語源は、口の中が黒いことからきているらしい。舌も黒い

2日後、そのレストキャンプに行くと、同じ木の下で数人が上を見ている。ブラックマンバが前回と同じ木の上にいた。枝を伝って少しずつ移動している。数羽の小鳥がヘビの周りに来て騒いでいる。その4日後には、2本隣の木に移っていた。枝が重なり合っているので、枝伝いに移動して来たのだろう。5日以上も木の上で暮らしている。

アフリカではブラックマンバを木から落としてまでは捕獲はしなかった。レストキャンプと外の原野をヘビは行き来できるので、1匹を捕獲したところでレストキャンプ内が安全というわけではない。

自分の身の安全は自分で十分注意して、自己責任で行動すべし、ということだ。

地味だが鳴き声は派手な鳥

大きく口を開いて派手に鳴く

ブッシュの中では見つけるのが困難な地味な色彩の鳥、Redcrested Korhaan。普段の動きは超スローモション。風にそよぐ草や枝に擬態しながら歩いているのだと思う。体色がブッシュの中では目立たない迷彩色なので、大きく素早い動きをしなければ外敵に見つかりにくい。ところが雄の鳴き声は、非常に大きく変わった声を出す。

カチッ、カチッ、カチッと響き渡る音がするので、周辺で工事でも行われているのかと見回すが何もない。その後続けてピィカチッ、ピィカチッという声に変わり、ようやく鳥の声だろうと分かった。ブッシュの中に立ち尽くして鳴いている1羽のKorhaanがいた。縄張り宣言なのか雌を呼ぶ声なのか、かなり大きな声なので遠くまで届いているだろう。

この声に注意していると、遠くのあちこちから鳴き声が聞こえていることに気づいた。Korhaanも繁殖期に入ったのだ。