Vol.40 イヌワシの生息環境を脅かす風力発電

風況ポールに当たる直前で回避するイヌワシ

地球温暖化に拍車をかけるCO2(二酸化炭素)の排出量削減を目指して、各地で風力発電の計画が持ち上がっている。

風力発電は、再生可能なクリーンエネルギーとして注目を集めている。しかし、この環境に優しいエネルギーも、風車の設置場所の選択を誤るとバードストライク(鳥類の風車への衝突死)が多発し、風車本体や道路・送電線などの建設によりCO2の吸収源である森林が伐採され、野生生物の生息地破壊も引き起こす。

風車のプロペラは、先端部で時速300km以上になることもあり、鳥の目にはプロペラが見えなくなってしまうのだ。この現象は「モーションスメア現象」と呼ばれている。

5,000基あまりの風車が立ち並ぶ米国のアルタモントパスのウィンドファームの例では、猛禽類だけで年間1,000羽前後が衝突死している。日本国内では北海道苫前町にある3基の風車近くで、2004年2月と3月に相次いでオジロワシの切断死体が発見されている。また、2004年9月には、根室市の5基の風車近くでオジロワシの切断死体が発見された。

風力発電が、環境に優しいクリーンなエネルギーとして機能するために、以下のような場所への設置は避けるべきだと考えられている。

・渡り鳥のルートになっている地域
・希少種の生息地
・国立公園や鳥獣保護区など
・風車の建設によって自然環境の価値が下がる地域

また、新エネルギー財団では、風力発電を設置するには、その場所までの搬入道路があることや、近くに高圧送電線が通っているなどの条件を満たすことが必要であると明記している。

風力発電は、再生可能なクリーンエネルギーとしての利用価値は十分にあるだろう。しかし、巨大な風車を設置するのだから自然環境や野生生物への影響が大きくなることも忘れてはならない。

ところが、避けるべき場所での風車建設計画が、全国に多数存在している。その中のひとつに、滋賀県米原市の奥伊吹地域に計画されている風力発電施設がある。ここは、天然記念物で国内希少野生動植物種に指定されているイヌワシの生息地である。胸高直径が60〜100cmのブナ林が残る動植物豊かな地域である。伊吹町(現米原市)が実施した動植物調査の結果では、積極的に自然環境を守る地域としてゾーニングされている。

風力発電計画地でのイヌワシの行動をビデオ撮影するために、7月に2日間現地で観察した。1日目、イヌワシは1回出現し、計画地尾根を横切って消えた。2日目、イヌワシは9回出現した。ペアで計画地の尾根に沿って獲物を探しながら何度も往復し、風車の設置予定地点を15回も通過した。

ここには風力や風向などを調べるために高さ約30mの風況ポール1本が立っている。ポールは何本ものワイヤーに支えられて立っている。イヌワシは獲物を探しながら下を見て飛行していたので、このポールとワイヤーに直前で気付いて回避するといった場面があった。これが風車であったなら、見えないプロペラに巻き込まれていただろう。

この地域に風力発電施設が建設されれば、イヌワシが風車に巻き込まれることは必至である。ブナ林を切り開き、道なき尾根部に道路や鉄塔・送電線を新設することにもなる。

奥伊吹地域は風車の設置を避けるべき場所なのだ。

クリーンエネルギーと地域振興を隠れ蓑に、この計画が推し進められようとしている。自然環境の指標種であるイヌワシを守らなければ…。