Vol.36 ニホンイタチ

ウズラ小屋に現れたニホンイタチ

子供の頃、学校の行き帰りにたびたびイタチを見かけた。

いつも敏捷な動きで、一瞬のうちに目の前を通り抜けて石垣のすき間や物陰に隠れてしまった。「イタチさん、もう一度姿を見せとくれ。」と呼びかけると、再び顔を出してくれると母から聞いていた。そのようにすると不思議に、イタチは隠れた場所から顔を出して僕のほうを振り返った。

いつの頃からか、こうした呼びかけをしなくなったが、イタチはなぜ僕の呼びかけに応じて顔をのぞかせたのか、今でも不思議である。イタチは好奇心が強いために、大きな声がすると何事かと顔をのぞかせて確認していたのかも知れない。

次回イタチに出会ったら久々に試してみよう。はたして、再度顔を見せてくれるだろうか…。

イタチは、ネズミや昆虫類、ノウサギの子供などを捕えて食べる。また、水に潜って魚も捕える。水陸両用のハンターだ。泳ぎも上手く、ちょっとした急流もえっちらおっちらと泳いで渡る。水中では、岩のすき間に顔を突っ込んでひとつひとつ丁寧に魚を探している。体長30?40cm程のイタチが、20cm以上もある魚を捕まえてくることもめずらしくない。魚をくわえた口を高く上げて、川から上がって歩く様はいかにも誇らしげである。

午前中は川で魚を捕って過ごし、午後になると川に姿を見せなくなることが多かった。午後は、ネズミなどを狙って山の中に入っているのかもしれない。

夜になると、天井裏でネズミを追いかけるイタチの足音が聞こえることがある。トットットットッとネズミの小さな足音に続いて、ドッドッドッドッとイタチの足音がネズミを追っていく。ネズミは捕まると食べられてしまうし、イタチにしても食べなければ死んでしまう。どちらも生死をかけた戦いである。

昔は、多くの家でニワトリを飼っていた。ニワトリ小屋にイタチが侵入して、ニワトリを片っ端から殺してしまったという話を時々耳にした。イタチはほんの僅かなすき間を見つけて、細長いスマートな体でいとも簡単に侵入してしまうのだ。

最近ではイタチを見かける機会が少なくなったが、それでも時には家の庭に現れて、そのしなやかで美しい姿を披露してくれる。我家のウズラ小屋にも時々現れて、中の様子を窺っている。金網にぶら下がったり小屋のまわりを回ったりしながら侵入するすき間を探している。

僕はその様子を窓越しにそっとのぞいている。ひとつひとつの動作が非常にかわいらしい。僕が見ていることに気づいても、悪びれた様子も無く、時々僕の様子を窺いながら点検を続けている。侵入経路が無いことが分かると、そそくさと次の目的地へと消えていく。

日本に生息しているイタチはニホンイタチである。しかし、近年では外来種であるチョウセンイタチが市街地を中心に住み着き、郊外へと分布を広げている。在来種のニホンイタチがチョウセンイタチに取って代わられるのではないかと心配である。