琵琶湖に浮かぶ竹生島。カワウの活動は夜明けを待ちかねていたかのように始まる。
星の瞬く夜空が少しずつ白み始めると、カワウはねぐらから採食地を目指して次々と飛び立っていく。第一陣は空を透かしてかろうじてその姿が確認できる程度の明るさになると出発する。
最初は1羽2羽と少数が飛び出していくだけであるが、明るくなるにつれてその数は一気に増えていく。最初の個体が出て行ってから30分とたたないうちに、10分間に6,000羽を超える大集団となって一斉に飛び立っていく。ピークは20〜30分間ほどで終わり、急激にその数は減少する。
出て行くカワウの減少とは反対に、今度は帰ってくるカワウが徐々に増えてくる。朝一番に向かった採食地で魚を捕らえて「そのう」にため込み、巣で待つヒナに運んでくるのだ。出動のピークから1時間ほどで帰りのピークがやって来る。魚を十分に捕ることができた個体から順次帰ってくるので、出動の時のような大集団とはならず、数十〜百羽程度の小群である。それでもピーク時には10分間で2,000羽を超える。
カワウは口から溢れんばかりに魚を詰め込んで帰ってくる。中には魚の尻尾が口からはみ出しているものもいる。これらの魚を吐き戻してヒナに与えるのである。
琵琶湖に棲む3万羽以上ものカワウが捕らえる魚は莫大な数に違いない。しかしながら、カワウはすべての魚を捕り尽くしてしまうわけではない。魚全体の数からすると、カワウが食べる割合は意外に小さい。カワウの捕食量が稚魚の誕生を上回って一方的に多くなると魚は減っていくことになる。食物が減るとカワウの生息状況に大きな影響を及ぼし、やがてカワウも減少することになる。今のところそのような大きな減少がカワウに見られていない。
カワウが食べる魚の数は、魚全体からするとわずかであるとは言え、養魚池化しつつある琵琶湖やその周辺の川で魚を捕るのであるから、漁業被害の問題は避けて通れない。人間が魚を放流すればするほど、カワウの食物も増えることになる。カワウが増加し漁業被害もさらに増える。
カワウによる漁業被害をゼロにすることはカワウを全滅させることになってしまう。カワウもこの地球の自然環境を構成している生物の中の一種なのである。仮にカワウがいなくなったとしても、漁業被害がなくなるわけではないのだ。外来魚であるブラックバスは天敵のカワウがいなくなると増加して、アユなどの魚をさらにたくさん食べることになる可能性がある。魚を食べる生物は他にもたくさんいる。これらの生物がカワウの分まで魚を食べて増えるかもしれない。いろんなものが相互に関連しあって自然界は成り立っている。これは我々人間の想像力をはるかに越えている。
川や湖という自然の恵みを利用した漁業では、我々は謙虚に「野生動物による被害をどこまで認めるか」について考えた上で被害防除に取り組まなければならないのかもしれない。