ヨハネスブルグを出発して3日目にしてようやく国境に到着した。
出入国事務所の駐車場へ入ったところで、2、3人が我々の車の前に来て、駐車場の端の大型トラックの後ろに並ぶように先導した。順番待ちと思い、手渡された出国手続き用紙(本物)に何の疑いもなく記入した。この用紙と入国査証代金をUS$100の紙幣でその男に支払った。3人で90ドルなので10ドルの返金があるはずだが、受け取った男の方を振り返ると徐々に我々から遠ざかっている。
その時になってだまされたことに気がついた。車から飛びだして追いかけたが、相手は長い足で素早く走って事務所の建物に入っていった。続いて僕も飛び込んだが、逃げた男は見当たらない。100ドルは取られてしまったが、お金だけですんだのは運が良かったと思ってあきらめることにした。
その後も、こそ泥的なものには何回も遭遇したが、この時の教訓が生かされて大事に至るようなことはなかった。この地では、こそ泥的な犯罪は日常茶飯であり、だまされるほうが悪いのだ。
初めて訪れた南部アフリカは、話に聞いていたとおり赤茶けた大地だった。それでも樹木は思っていたより繁っている。とは言っても、日本のような立派な森林ではない。灌木あるいは疎林といったところである。林床の植物は少なく赤茶けた土が露出している。
ジンバブエまでの道中に、道路脇の木や上空に数十羽のケープバルチャー(ハゲワシの一種)が集まっているところがあった。近くに動物の死体があるに違いない。まわりを見渡すとバルチャーが舞い降りていく場所に牛の死体があった。
広大なエリアを飛び回って死体を探すバルチャーは、相当な視力の持ち主である。獲物を発見した仲間を見つけて、周辺から次々と集まってくる。はるか遠くを飛翔する仲間の姿を見つけて、飛び方などからそこに獲物があるかどうかまで見分けているのだ。
巣から100km以上も離れた遠くまで獲物を探しに出かけることがあるらしい。すごい飛翔力である。高空を滑翔していく姿を見かけるのは、獲物を探して長距離移動中なのかもしれない。普段から長距離移動をする鳥であるだけに、帆翔や滑翔をする姿は悠々として様になっている。
次々と死体の近くへ舞い降り、ゆっさゆっさと体を揺さぶりながら駆け寄って、押し合い圧し合い死体をむさぼっている。
腹いっぱい食べて重くなった体で、少し助走をつけてなんとか飛び立っていく。素嚢に肉を詰め込んで、ヒナの待つ巣へ向かう。ため込んだ肉片を巣の上で吐き戻してヒナに与えるのだ。
近年では、野生動物の死体が少なくなったことや家畜の死体を放置しなくなったことによりバルチャーの数が減りつつあるようだ。南アフリカでは、生息数が減少しているバルチャーの保護活動が各地で行われている。
アフリカでは、野生動物の主な生息地は国立公園や私設の動物保護区に限られている。この中は厳重に管理され護られている。しかし、一歩外へ出た私有地では、家畜や農作物が獣にやられないように囲いを造って進入を阻み、これまた厳重に守られている。アフリカでは、野生動物と人間の生活圏を分けることで、広い意味での共存が実現している。
日本では国立公園は厳重に守られているとは言い難いが、現在まで野生動物と人間が同じ地域でなんとか共存してきた。これは先進国としては、極めて希有な状況である。このままの共存関係を守り続けられれば、世界に誇れるすばらしいことである。