第5回伊吹山のイヌワシ観察会

伊吹山文化資料館のイヌワシ幼鳥の剥製の前で記念撮影

朝8時、いつも通り米原駅を出発。今日は朝から雨で早朝には土砂降りだった。伊吹山は5合あたりから上がガスに覆われて山は見えない。このあとも雨は降り続く予報だ。
ガスが上がる見込みはない。今回は迷うことなくドライブウェイに上がる選択肢はない。雨バージョンの行程に変更した。

この雨バージョン、観察会前日になって雨とガスは避けられなさそうと弱気になって、急遽山麓の平野部で観察できそうなものを考えてすぐに下見に出発した。
1つは鉄塔に営巣するミサゴだ。ミサゴはもう巣立ち時期なので巣には何もいないかもしれない。ラッキーにも2ヶ所の巣のうちの1つでまだ子育て中だ。ミサゴは近年、鉄塔で営巣しているペアが増えている。滋賀県内のあちこちで鉄塔営巣が見られる。
山にある高い鉄塔の頂上に巣が造られているので、平地から大勢が観察してもミサゴが警戒することはない。バスの中から観察することも可能なので少々の雨でも大丈夫だ。
2つ目は彦根城にあるカワウのコロニー、こちらも繁殖は最終段階なのでどれくらいがコロニーに残っているのかわからない。到着してみると、まだまだコロニーは賑やかだ。全体的に巣内の子育ては終わりだが、巣立った幼鳥は巣の近くにいて親鳥が魚を持ち帰るのを待っている。
ここではカワウを観察後、彦根城を自由に散策オプションありとした。

観察会当日、ミサゴは巣にいる母ミサゴと雛2羽を観察することができた。父ミサゴが巣に来たり近くを飛んだりしているのも1時間足らずの観察中に見ることができた。
彦根城のカワウは、繁殖が遅くに始まった巣では子育て中だ。巣立った幼鳥が親鳥と一緒にコロニーに戻ってきて親鳥から給餌を受けていた。親鳥が口を開けると幼鳥がその口の中に嘴ごと頭まで入って、親鳥がそのうに溜め込んできた魚を吐き戻すのを受け取っている。
アオサギやダイサギとともに営巣している賑やかなコロニーを観察した。

鉄塔の頂上にあるミサゴの巣


巣の右端に母のミサゴ、中には巣立ち間近の雛が2羽がいる


ミサゴを観察

巣立ったカワウの幼鳥たち


カワウの観察

雨バージョン、最初はいつも通り伊吹山文化資料館へ行った。イヌワシ幼鳥の剥製を見て、レクチャールームでイヌワシとカワウの2つのテーマで僕と須藤明子が話をした。

昨年のニーナの子育てを振り返って、繁殖が失敗した原因を考えてみた。
昨年のデータや映像から、明らかに4月28日の最初の落石から雌ワシは常に上を警戒するようになっていた。そして翌日からはまだニーナが小さいにも関わらず、雌ワシは日中のほとんどを巣から離れて過ごした。何度も落石があり5日目の夜(5/3)には、とうとう雌ワシは巣に戻らなかった。
ニーナは22日齢でひとりで夜間を過ごした。これほど早く雌ワシが添い寝しないのは世界的にも記録的な早さのようだ。
その後も雌ワシは、夜間に帰巣しないことがたびたびあった。5月24日からは夜間に戻ることがなくなった。日中も巣へはあまり来ない。雌ワシは6月28日にヘビを運んだのを最後に巣を訪れることは無くなった。
雄ワシだけが獲物を運んでくるが、4〜5日獲物がないことがたびたび続く。ニーナの成長はどんどん遅れていった。
昨年の状況は、何度も繰り返す落石を非常に恐れた雌ワシが、徐々に巣には戻らなくなったことが繁殖失敗に繋がったのだった。それに加えて記録的な暑さで獲物となる動物が日中に日の当たる場所へ出て来なかったことも獲物が捕れなかった原因だったと思う。

須藤明子からのカワウの話は、増えすぎたカワウの個体数調整の話だ。
希少種の保全と増えすぎたカワウを捕獲するという相反する取り組みと思われるかもしれない。しかし、個体数調整は以前の有害捕獲とは違い全滅を目指すものではない(これまでに全滅できたことは一度もないが)。在来種であるカワウは日本の川で暮らし、当然生息しているべき鳥なのだ。
カワウの漁業等の被害が顕著ではなかった頃の滋賀県内の生息数に戻そうという取り組みだ。目標の生息数より多くても、被害がかなり軽減されたのであればそれ以上個体数を減らさずに維持していくことを目標としている。
イーグレットや滋賀県水産課、朝日漁協、野生動物管理を学んでいる学生などが協力して一大プロジェクトを開始した。成鳥幼鳥を識別し捕獲すべき個体を見極め、捕獲時期や捕獲数を調整しながら慎重に捕獲を実施した結果、カワウの生息数を劇的に減らすことができた。数年後にはカワウの一大生息地、木や草が枯れてしまっていた竹生島に緑が回復し始めた。
カワウの生息数は目標に近づき、漁業被害も軽減されてきた。これくらいの漁業被害ならなんとかやっていけると漁協の方からも言ってもらえるようになった。イーグレットが目指していたカワウとの共存が実現しつつある。

相反するように見えた希少種保全とカワウの個体数調整は、どちらも野生動物と人との共存を目標としたものなのだ。
それを証明することができたのは、1番大きな成果だったと思う。

観察に向かうバスの中

次回「第6回伊吹山のイヌワシ観察会」は8月24・25日のどちらかを予定しています。

Vol.17 ミサゴ:魚食のタカ

水辺の枯木に止まって魚を狙う

ミサゴは、海や川、湖などの上空を飛び回り、水面近くを泳ぐ魚を専門に捕えて食べる。

魚相手とはいえ狩りは豪快だ。魚を見つけると上空から翼をすぼめて急降下。脚を突き出し、バシャッという派手な水しぶきをあげて水中へ突っ込む。深く潜るわけではないが、一瞬、体全体が水中へ消えてから水面に浮かび上がる。狩りが成功していれば脚に魚をつかんでいる。

大きな魚を捕まえて水面から飛び立つのに苦労している姿を目撃することがある。40cm以上もある魚を捕えたときには、しばしの間水中で力比べだ。ようやく空中へ持ち上げて飛行しても、あまりの重さになかなか上昇できない。慌ただしく右へ左へと飛行しながら少しでも高度を稼ぐと、ヒナの待つ巣へ向かって必死で羽ばたきながら移動して行く。

ミサゴは体長約60cm。頭から腹にかけてのまばゆいばかりの白色と翼上面の茶褐色があざやかなコントラストで凛々しく美しい。

生きた獲物を捕食する猛禽類は、引き締まった体とすきのない身のこなし、威厳ある風貌をしている。ミサゴもいい顔つきをしている。

魚を食べる他のワシやタカが、水面をかすめて魚を捕えるのに対して、ミサゴは水面に体当たりするように激しく、もっと深いところの魚を捕える。この激しさがミサゴの精かんさをかもし出しているのかもしれない。

ミサゴは広い範囲の川や海を飛び回って獲物を探すが、中には魚がたくさんいる養魚場に居着いてしまう個体もいる。養魚場の池には非常に高密度で大物が泳いでいる。1日に1?2匹も捕えて食べれば十分である。居心地がいいらしく、毎日池のそばの電柱に止まり、その池から離れようともしない。時々急降下して大きな錦鯉をさらっていく。食餌場所へ運んで行って食べる。食べ終わると再び電柱に戻ってきている。

近年では、川や海の魚が減少している。ミサゴの生活も厳しさを増している。よくぞこの小さな養魚場を見つけたものだと感心させられる。利用できるものを見逃さない野生動物のしたたかさである。

しかし、養魚場に居着いたミサゴには、なぜか精かんさが感じられない。いつも十分な獲物にありつき羽毛を膨らませて止まっている姿は、川や海で獲物を探すシャープなミサゴとは別物のようである。

野生動物も人間も同じように楽な暮らしができることを望んでいる。野生動物はシャープに生きてほしいというのは、僕の勝手な願望であるかもしれない。

しかし、養魚場にべったりと居着いた生活が長続きするとは思えない。養魚場の持ち主は、ミサゴが錦鯉をさらっていることはまだ知らないようだ。ミサゴは今日も電柱でのんびりとくつろいでいる。大事な錦鯉を捕っていることが養魚場の持ち主にばれたなら、一悶着あることは間違いない。

人間とのあつれきの中で悪い結末にならないことを祈りたい。ミサゴという種全体が害鳥のレッテルを貼られることがないよう、持ち主に気づかれないうちにこのミサゴが退散してくれればいいのだが… 。貴婦人のような凛々しいミサゴに免じて大目に見てやってほしい。