ニホンジカ 袋角から枝角へ



ニホンジカは雄だけに角がある。年齢を重ねるほどに立派になる角が、毎年落ちて新たに伸びてくる。4月中旬頃に角を落とす個体が多いが、個体によって早いものや遅いものがいる。早い個体は3月末に角を落としていた。

角が落ちるとすぐに新しい袋角と呼ばれる表皮に包まれた柔らかい角が伸び始める。4ヶ月ほどかけて袋角が成長する。8月末から9月初め頃に表皮が剥がれて骨化した硬い角が現れる。

9月になるとニホンジカの繁殖期に入る。雄ジカたちは雌ジカを求めて争うことになる。この時期には雄ジカは他の雄ジカが近くにいることをかなり気にするようになる。大抵の場合は戦わずに自分の強さをアピールして勝敗が決まる。強さイコール角の大きさのようなのだ。大体は角が大きいほうが勝つ。同年齢で角の大きさがほぼ同じの場合は、お互いの角を絡めて押し合って勝負している。
9月には新しく大きくなった角が骨化して頑丈になるのも、雌をめぐる戦いに勝つためだ。

9月に入り、雄ジカが雌ジカを獲得するために忙しく活動する季節になった。雄ジカの「ピー〜」と鳴くラッティングコールが山に響き渡る。

第6回伊吹山イヌワシ観察会 報告

8月24日、バスは8時に米原駅を出発し、7月の第5回観察会で見たミサゴの巣を遠目に見ながら通過した。巣にはもう雛はいないようだった。
関ヶ原駅を経由してドライブウェイの入り口で全員がバスに乗車した。40名の参加者でほぼ満席になった。

1週間前の天気予報では雨の予報で、開催も危ぶまれた。天気が好転する兆しが現れたのは2日前になってからだった。雨マークがなくなって曇りの予想。伊吹山は霧がかかりやすい山なので、すっきりしない天気だと霧に覆われる心配が残るが期待できそうだ。
前日の予報では一時的に晴れマークも出てきて、僕の気持ちも晴れやかになってきた。
朝、伊吹山がすっきりと見えている。天気は良くなった。

観察を開始してまもなく、対岸斜面にツキノワグマが現れた。足早に尾根を超えて裏側に消えた。
サーナを探して皆で観察を続ける。それにしても今日は暑い。標高1,000mを越える山の上とは思えないほど暑すぎる。バスが作る日陰に入って観察する。
昼のトイレ休憩の時間が来た。イヌワシは成鳥が遠くに少し見えただけだ。休憩する時間も惜しいので、休憩時間を短縮して観察地点に戻った。

バスの日陰を利用して観察

山頂への散策は、サーナが出現していないので観察を続ける人が多く、今回は少人数で出発。歩人倶楽部さんの花の案内を聞きながらゆっくりと登山。山頂部一帯はシカ侵入防止策で囲ってあるので、外側よりも明らかにたくさんの植物が生育している。それでも柵の内側にも少数のシカがいる。シカが食べない植物が残って目立っている。シカが食べないサラシナショウマが白く咲き誇っている。
ワレモコウが深紅の小さい花を咲かせている。昔、尾瀬に行った時にその花を知り、それ以来のワレモコウファンの僕は、シカに食べられずに咲いているのを見て嬉しかった。
イヌワシが出てこないかと登山しながらも空を見上げて歩いた。ハヤブサ幼鳥が山頂を素早く横切った。チョウゲンボウは3回出現があり、皆でゆっくり観察ができた。
観察継続チームからイヌワシ成鳥が飛行し、ドライブウエイ法面の上に止まったと無線で連絡があった。山頂からは見えないところだ。駐車場まで下山すれば見ることができる。残念ながら下山する前にイヌワシは飛び去った。

8合目駐車場から山頂を見上げる

サラシナショウマが目立った

観察チームと合流し残り1時間ほど、全員で全力でサーナを探す。サーナは現れなかった。
今日のファーストディスカバリー賞は、サーナの発見がなかったのでクマの発見者かイヌワシ成鳥の発見者か迷ったが、遠くを飛翔するイヌワシ成鳥を発見された和歌山県から参加の森下仁美さんに決定した。
最初の発見によって観察への集中力がさらに高まりました。ありがとうございました。
サーナと会うことはできなかったが、次回に期待して帰路に就いた。

最初の発見に感謝

サーナの出現がなく気になっていたので、4日後にイーグレット総出でサーナの行動を調査した。霧が多い天気だったが、サーナは何度も出現し、親ワシについて飛び回り、ホッとした。
サーナはこの1週間ほどの間に行動範囲を広げていて、かなり遠出をしていた。観察会の時も伊吹山から離れて行動していたのかもしれない。

伊吹山のイヌワシ幼鳥「サーナ」2024年8月雌雄判別



野外でイヌワシの性別を外見で判断するには、大きさと体形を雌雄が分かっている個体と比較する。イヌワシは雄より雌のほうが大きい。雌雄の大きさの違いはそれほど顕著ではないが、1km以上離れていても注意深く観察することで大きさの違いを認識することは可能だ。
注意する点のひとつは、比較する2羽が観察者から同じ距離にいるかどうかを見極める必要がある。2羽が離れているのに同じところにいると勘違いすると、遠くにいる個体が大きい雌であっても小さく見えて、雄と間違えてしまうことがある。もうひとつは、飛行している場合に、翼の形や見る角度によって大きく見えたり小さく見えたりすることだ。何度も観察して総合的に判断する必要がある。

サーナはどうだろうか?雌ワシと一緒に飛行している時、ほとんどの場合に明らかに小さく見える。雄ワシと飛行している時は、同じくらいかやや大きく感じる。また親子3羽が同じところに止まったときには、雌ワシのようにボリューム感はなく雄ワシと似た体形だ。
サーナは雄ワシである。  可能性が極めて高い。

第7回伊吹山イヌワシ観察会のお知らせ

「第7回伊吹山のイヌワシ観察会」を2024年9月21日(土)に開催します。
21日が雨天の場合に備えて22日を予備日とします。
両日とも悪天候が予想される場合、9月の観察会は中止となることがあります。

イヌワシの幼鳥サーナは、徐々に行動範囲を広げながら元気に飛び回っています。
狩りに挑むサーナが観察できると期待しています。
多くの皆様の参加をお待ちしています。

第7回伊吹山イヌワシ観察会案内
イヌワシ観察会案内

参加申込書
参加申込書(Excel)
参加申込書(PDF)

伊吹山のイヌワシ「ニーナ」の巣、ライブ配信のお知らせ

昨年ライブ配信をしましたニーナの巣をもう一度見たい、一周忌に黙祷したいという要望がありましたので、7月30日16:00〜18:00までの2時間、ライブで巣を見ていただくことにしました。

巣は昨年から大きな変化はなく、しっかりと残っています。今年も一輪のコオニユリが7月16日から22日まで咲いていました。

今年は1〜2月に巣造りをしましたが、その後は使用されることなく巣は空のままです。
興味のある方はご覧ください。

イーグレット・オフィスのYouTubeチャンネル、「伊吹山イヌワシライブ 2024-07-30」です。
https://www.youtube.com/@EagletOffice/streams

第6回伊吹山イヌワシ観察会 参加募集間もなく終了

「第6回伊吹山イヌワシ観察会」はたくさんの皆さんの参加申し込みをいただき間もなく定員となります。
定員になりましたら受付は終了します。
参加をお受けできるかどうかはメールで返信させていただきます。
可能な限り参加していただけるようにしたいと思いますが、今回参加できない場合は申し訳ありませんが次回以降の参加をお待ちしています。

次回は9月21または22日を予定しています。

第6回伊吹山イヌワシ観察会のお知らせ

「第6回伊吹山のイヌワシ観察会」を2024年8月24日(土)に開催します。
第3回から第5回まで3回連続で天候に恵まれずにイヌワシの観察ができませんでしたので、今回は24日が雨天の場合に備えて25日を予備日とします。
両日とも悪天候が予想される場合、8月の観察会は中止となることがあります。

イヌワシの幼鳥サーナは、徐々に行動範囲を広げながら元気に飛び回っています。
観察会では、この幼鳥の飛翔する姿が観察できると期待しています。
多くの皆様の参加をお待ちしています。

第6回伊吹山イヌワシ観察会案内
イヌワシ観察会案内

参加申込書
参加申込書(Excel)
参加申込書(PDF)

第5回伊吹山のイヌワシ観察会

伊吹山文化資料館のイヌワシ幼鳥の剥製の前で記念撮影

朝8時、いつも通り米原駅を出発。今日は朝から雨で早朝には土砂降りだった。伊吹山は5合あたりから上がガスに覆われて山は見えない。このあとも雨は降り続く予報だ。
ガスが上がる見込みはない。今回は迷うことなくドライブウェイに上がる選択肢はない。雨バージョンの行程に変更した。

この雨バージョン、観察会前日になって雨とガスは避けられなさそうと弱気になって、急遽山麓の平野部で観察できそうなものを考えてすぐに下見に出発した。
1つは鉄塔に営巣するミサゴだ。ミサゴはもう巣立ち時期なので巣には何もいないかもしれない。ラッキーにも2ヶ所の巣のうちの1つでまだ子育て中だ。ミサゴは近年、鉄塔で営巣しているペアが増えている。滋賀県内のあちこちで鉄塔営巣が見られる。
山にある高い鉄塔の頂上に巣が造られているので、平地から大勢が観察してもミサゴが警戒することはない。バスの中から観察することも可能なので少々の雨でも大丈夫だ。
2つ目は彦根城にあるカワウのコロニー、こちらも繁殖は最終段階なのでどれくらいがコロニーに残っているのかわからない。到着してみると、まだまだコロニーは賑やかだ。全体的に巣内の子育ては終わりだが、巣立った幼鳥は巣の近くにいて親鳥が魚を持ち帰るのを待っている。
ここではカワウを観察後、彦根城を自由に散策オプションありとした。

観察会当日、ミサゴは巣にいる母ミサゴと雛2羽を観察することができた。父ミサゴが巣に来たり近くを飛んだりしているのも1時間足らずの観察中に見ることができた。
彦根城のカワウは、繁殖が遅くに始まった巣では子育て中だ。巣立った幼鳥が親鳥と一緒にコロニーに戻ってきて親鳥から給餌を受けていた。親鳥が口を開けると幼鳥がその口の中に嘴ごと頭まで入って、親鳥がそのうに溜め込んできた魚を吐き戻すのを受け取っている。
アオサギやダイサギとともに営巣している賑やかなコロニーを観察した。

鉄塔の頂上にあるミサゴの巣


巣の右端に母のミサゴ、中には巣立ち間近の雛が2羽がいる


ミサゴを観察

巣立ったカワウの幼鳥たち


カワウの観察

雨バージョン、最初はいつも通り伊吹山文化資料館へ行った。イヌワシ幼鳥の剥製を見て、レクチャールームでイヌワシとカワウの2つのテーマで僕と須藤明子が話をした。

昨年のニーナの子育てを振り返って、繁殖が失敗した原因を考えてみた。
昨年のデータや映像から、明らかに4月28日の最初の落石から雌ワシは常に上を警戒するようになっていた。そして翌日からはまだニーナが小さいにも関わらず、雌ワシは日中のほとんどを巣から離れて過ごした。何度も落石があり5日目の夜(5/3)には、とうとう雌ワシは巣に戻らなかった。
ニーナは22日齢でひとりで夜間を過ごした。これほど早く雌ワシが添い寝しないのは世界的にも記録的な早さのようだ。
その後も雌ワシは、夜間に帰巣しないことがたびたびあった。5月24日からは夜間に戻ることがなくなった。日中も巣へはあまり来ない。雌ワシは6月28日にヘビを運んだのを最後に巣を訪れることは無くなった。
雄ワシだけが獲物を運んでくるが、4〜5日獲物がないことがたびたび続く。ニーナの成長はどんどん遅れていった。
昨年の状況は、何度も繰り返す落石を非常に恐れた雌ワシが、徐々に巣には戻らなくなったことが繁殖失敗に繋がったのだった。それに加えて記録的な暑さで獲物となる動物が日中に日の当たる場所へ出て来なかったことも獲物が捕れなかった原因だったと思う。

須藤明子からのカワウの話は、増えすぎたカワウの個体数調整の話だ。
希少種の保全と増えすぎたカワウを捕獲するという相反する取り組みと思われるかもしれない。しかし、個体数調整は以前の有害捕獲とは違い全滅を目指すものではない(これまでに全滅できたことは一度もないが)。在来種であるカワウは日本の川で暮らし、当然生息しているべき鳥なのだ。
カワウの漁業等の被害が顕著ではなかった頃の滋賀県内の生息数に戻そうという取り組みだ。目標の生息数より多くても、被害がかなり軽減されたのであればそれ以上個体数を減らさずに維持していくことを目標としている。
イーグレットや滋賀県水産課、朝日漁協、野生動物管理を学んでいる学生などが協力して一大プロジェクトを開始した。成鳥幼鳥を識別し捕獲すべき個体を見極め、捕獲時期や捕獲数を調整しながら慎重に捕獲を実施した結果、カワウの生息数を劇的に減らすことができた。数年後にはカワウの一大生息地、木や草が枯れてしまっていた竹生島に緑が回復し始めた。
カワウの生息数は目標に近づき、漁業被害も軽減されてきた。これくらいの漁業被害ならなんとかやっていけると漁協の方からも言ってもらえるようになった。イーグレットが目指していたカワウとの共存が実現しつつある。

相反するように見えた希少種保全とカワウの個体数調整は、どちらも野生動物と人との共存を目標としたものなのだ。
それを証明することができたのは、1番大きな成果だったと思う。

観察に向かうバスの中

次回「第6回伊吹山のイヌワシ観察会」は8月24・25日のどちらかを予定しています。

伊吹山のイヌワシ幼鳥「サーナ」2024年6月24日



サーナは相変わらず元気に飛び回っている。先日19日に見た時にはギクシャクとしてぎこちない飛行だったのが、今日は堂々として滑らかな飛行になっている。それでも両親のように自由自在な飛行ができるようになるには、あと数ヶ月はかかる。
両親と一緒に飛んで行こうとはするものの、ある程度のところまで行くとUターンして戻って来る。遠いところはサーナにとってまだ未知の世界、恐ろしい場所なのだ。これはサーナだけでなく、どの幼鳥も同じだ。

15:20に父ワシが獲物を運んできた。獲物の種類を特定することはできなかったが、ノウサギのように見えた。サーナはすぐに父ワシを見つけて近づいていった。父ワシは旋回を繰り返し、どこで獲物をサーナに受け渡そうか場所を探している。母ワシも近くに来て旋回していた。
やがて高度を下げて沢に入って行った。サーナは獲物にありつくことができた。

伊吹山のイヌワシ幼鳥の名前が決まりました!

「サーナ」と命名

19日に巣立ちを確認したイヌワシ幼鳥は、昨日21日には親鳥からヘビをもらうなど巣立ち後も順調に生活しています。

2024年伊吹山のイヌワシ幼鳥を「サーナ」と命名しました。

健全な環境で元気に暮らしてほしいという思いを込めて、ラテン語で「健康・健全」を意味するsanaとしました。
今年はイヌワシにとって重要な場所にフェンスを張って人の立ち入りを制限し、イヌワシの観察や撮影をルールに従って行なったことで、イヌワシの生活が本来の健全な状態に近づき、雛が無事に巣立ちできました。
サーナには、まだまだこれから生きるための試練が待ち受けていますが、通常よりかなり早い思い切った巣立ちの勇敢さで乗り越えてくれることでしょう。

野生動物への名付けについて批判的な意見もあるようですが、多くの人に親しまれている動物に名前をつけることは自然なことと考えています。
ゴリラ研究者として知られる総合地球環境学研究所長の山極寿一さんが、新聞の「識者コラム」で「名付けがつくる動物の物語 日本流の自然観」として野生動物の名付けについて見解を示されています。「名前をつけるということは、動物を、個性を持った個体として見る行為である」と述べられ「その自然観を大切にしたい」と括られています。
各紙のデジタル版で読むことができます。ご一読いただきたいと思います。
引き続き皆様と一緒に、サーナや伊吹山の自然を見守っていきたいと考えています。