伊吹山のイヌワシ繁殖状況2024年6月11日 近くでクマも子育て



雛は孵化後62日、全身が黒い羽毛に覆われた。
遠目には親ワシと同じくらい大きくなったように見える。しかし、巣立ちまではあと20日、7月の第1週のうちに巣立つだろう。早くて6月末だ。
雛は巣の端の灌木の上に乗って、時々首を伸ばして巣の外の景色を見ている。活動的で巣立つことに積極的な様子だ。十分育っているのになかなか巣から飛び出せない個体も時々いる。

今年はドライブウェイの一部のエリア(イヌワシにとって重要な場所)にフェンスを設置して人の立ち入りを無くしたので、イヌワシは巣の見張りと獲物探しの両方ができるその場所を存分に利用している。それが功を奏して獲物は頻繁に巣に運び込まれて、雛の栄養状態は良好だ。
母ワシも朝から巣を離れて獲物を探している。もちろん雛の状況は常にどこかからチェックしている。

10:40に雄ワシが獲物を持って巣に入った。獲物はヤマドリではないかと思われたが、遠いので種の判別は正確にはできない。雄ワシは巣に獲物を放り投げると逃げるように飛び出した。近くの木に止まり、いつもの雄叫びをあげていたかもしれないが、鳴いていたとしても遠くて聞こえはしない。

12:40に雌ワシが巣に戻って雛に給餌をした。その時に雛は元気よく羽ばたき練習をしていた。

13:36に雌ワシが巣の近くにいるツキノワグマを見つけ、クマのすぐ上をかすめて威嚇した。クマは岩の上で寝ていてイヌワシには気づかなかったようだった。
13:40に雄ワシが脚でクマの背中に一撃を喰らわした。これにはクマも驚いたようで慌てて立ち上がり、歩いて林の中へと姿を消した。
1時間半後に再びクマが現れ、同じ岩の上に座った。林の中から今年生まれの子グマが現れて母グマのところへ駆け寄った。クマがここに執着していたのは幼い子グマがそこにいたからだ。イヌワシの巣から50mほどの所でクマも子育てしていたのだ。
18:30頃になって、母グマは子グマを連れてゆっくりと採食しながら移動し始めた。イヌワシの巣からはやや遠ざかったものの、当分はこの辺りにいるだろう。
イヌワシの雛がクマに襲われないか心配だ。僕はこれまでにクマがイヌワシの巣に登って雛を食べてしまったのを2回目撃している。いずれも伊吹山のイヌワシペアの巣だ。
イヌワシの威嚇攻撃は母グマにはほとんど効果はないだろう。しかし、子グマを置き去りにしてイヌワシの巣の崖に登るのはクマにもリスクがある。イヌワシがその間に子グマを襲う可能性がある。実際にイヌワシが子グマを襲ったのが目撃されている。
母グマはこのリスクを考えて、子グマを置き去りにして崖を登ってまでイヌワシの雛を狙わないのかもしれない(そうあってほしい)。
クマは2頭の子どもを産むことが多いが、この母グマは1頭しか子グマを連れていない。もしかしたらすでにイヌワシにさらわれてしまったということもあり得るのでは…
「クマさん、あなたがイヌワシの雛1羽を食べなくても食糧に困ることはないでしょうから、数少ないイヌワシの雛を見逃してください」と祈るしかない。この近くにはこの母子以外にもクマは何頭もいる。

16:34、雌ワシが巣に戻った。そして16:45に巣の中の古い獲物の残骸を持って巣から出た。付近を旋回したあと、残骸を持ったまま巣に戻った。古い残骸を捨てに行ったのだと思ったが持ち帰るとは。5月30日にも同様の行動があった。
数分後、また同じ残骸を持って巣から出た。今度は数百メートル離れたところに捨てた。古い獲物は臭いがきつくなるので、巣から離れた場所に捨てたほうがいい。クマや肉食動物を引きつけないためにも。

18:58、日の入り時刻間近になって雌ワシが巣に戻って来た。雛はもう保温する必要はないが、夜には雌ワシが一緒にいる。
イヌワシペアはクマを警戒しながら毎日を過ごしている。まだ当分この状況が続くだろう。

伊吹山のイヌワシ繁殖状況2024年5月30日



雛は孵化後50日、順調に成長している。
今日は子ジカを2頭捕獲したようだった。夕方に捕獲した子ジカは、上昇気流がなく下降気流のために巣まで高度を上げることができずに地上に置いたままになった。
獣に食べられなければ、明日再度運搬に挑戦するだろう。

伊吹山のイヌワシ繁殖状況2024年5月19日



雛は孵化後40日になった。全身が白い綿毛姿だったのが、翼と尾羽に黒い羽毛が伸び始めて背中は黒く見えるようになった。頭の大きさは雌ワシと変わらないくらいになっている。遠くからでも雛の姿がよく見えるようになった。

10時半頃から雨がポツポツと降り始めたが、オーバーハングの下にあるこの巣には、雨はほとんどかからないだろう。観察を終了した13時まで、雌ワシは巣から離れることなく雛に寄り添っていた。

雄ワシは巣のまわりが見える少し離れた場所に止まって獲物を探している。時々飛び立って、しばらくするとまた見晴らしの利く木や岩に戻ってくる。今日はまだ獲物にはありついていない。
雌ワシが巣を離れずにいることから、巣にはまだ獲物が十分にあるのだろう。雌ワシが狩りに出なくても十分な獲物があるのが理想的だ。
雄ワシには大変なプレッシャーだが頑張ってもらおう。

第4回伊吹山のイヌワシ観察会

朝8時、米原駅を出発。曇りだが空は比較的明るい。普段なら伊吹山が見える場所を通るが、山のほうはどんよりと暗く雲がかかっている。
今年はドライブウェイのすぐ近くに営巣しているので、少しの霧の晴れ間があればイヌワシが姿を現してくれるかもしれない。なんとか視界が得られることを祈るしかない。

今回は米原市の平尾市長も観察会に参加され、一緒のバスに乗って伊吹山へ向かいました。出発前に市長からご挨拶をいただき、米原市のシンボル的な存在のイヌワシと伊吹山の自然環境への市長の熱い思いを聞かせていただきました。

米原市の平尾市長からご挨拶を頂いた

9:45頃、山頂駐車場に到着。まずはトイレに行く人と観察地点に向かう人に分かれて皆がバラバラに出発。トイレの方向と観察地点の方向を伝えたが、20m先が見えない霧の中で全員が観察地点に到着するのかさえ心配になってきた。

皆が観察地点に到着してホッとしたものの霧が晴れる兆しはない。巣は見えないが150mほど下で小雨と霧の悪天候に耐えて抱雛を続ける雌ワシに思いを馳せながら、我々もイヌワシと同じ空間を共有して待ち続ける。

霧の中での観察会

N Uさんが20回分ほどの入山協力金を投入されたのに驚きと感謝

残念ながら霧が晴れることなく正午前に観察を終了。雨足が強まって天候の回復は見込めないと判断して下山。麓にある伊吹山文化資料館でイヌワシ幼鳥の剥製(2019年に巣立ち後半月ほどで落鳥)を見学後、レクチャールームでイヌワシとアフリカの動物の話をしました。

イヌワシと野生動物の話

イヌワシ幼鳥の剥製展示

帰りにも伊吹山はすっぽりと雲の中に入ったままでした。次回こそは天候に恵まれ、元気に飛び回る幼鳥の姿が見られることを期待して、我々は伊吹山を後にしました。

伊吹山のイヌワシ繁殖状況2024年5月5日 雛の姿を確認



新緑が眩く夏鳥たちの囀りが賑やかな季節、雛は孵化後25日程度。そろそろ雛の姿が遠くからでも確認できるかもしれない。

抱卵期から育雛初期には、雄ワシは巣から少し離れたところに止まって周辺を監視していることが多かったが、今は雛の食欲が旺盛になって狩りに忙しいらしく、周辺に姿は見当たらない。
しばらく経って雄ワシが現れた。下を見て丹念に獲物を探している。今日はまだ獲物にありついていない。

雌ワシが巣の上に立って雛へ給餌を開始した。雛の姿が一瞬でも見えるかもしれない。超望遠レンズ越しに目が離せない。
給餌が一段落した頃、白い綿毛に覆われた雛の翼が一瞬巣の上に現れた。体のバランスを取るために翼をバタつかせているところを見ることができた。結構大きくなっている。黒い羽毛が伸び始めているようにも見えるが、遠くて不鮮明な画像なのではっきりと確認はできない。

巣から400mほど離れたところでツキノワグマが木に登っていた。芽吹き始めた新芽をガンガン食べ続けている。イヌワシの生息地にはクマも多い。イヌワシとクマの分布はほぼピッタリと一致している。どちらも豊かな自然環境が残された地域に暮らしている。スギやヒノキの人工林が増えた地域からイヌワシもクマも姿を消しつつある。

午後になって雄ワシが姿を表した時、獲物を食べてそのうが大きく膨れていた。巣への出入りを確認できなかったが、獲物を巣へ運んだ直後なのかもしれない。
雄ワシはお腹がいっぱいになっているが、食欲旺盛な雛がいるので獲物を探して忙しく飛び回っている。
探餌飛行を続けていた雄ワシが急降下を開始した。沢部の落葉広葉樹林の中へと降りて行った。最後はスピードを少し落として翼を少し広げ、エレベーターのように真下へ降下した。このような襲い方をするのは相手が哺乳類のことが多い。
林の中に消えてから待つこと20分。林の中から現れた雄ワシは脚にノウサギをしっかりと掴んでいる。手頃な風が斜面を吹き上げている。雄ワシは上昇気流に乗ってどんどん高度を上げて巣へ獲物を運んで行った。

今日は2回も獲物を捕獲した。雌ワシの給餌の時に雛の姿を3回見ることができた。元気に動き回って順調に育っている。

伊吹山のイヌワシ繁殖状況2024年4月29日



雛が孵化したのを確認してから19日が経った。遠くからの観察でもそろそろ雛の姿が確認できるのではないかと期待して、雌ワシが立ち上がって給餌を始めるのを待った。
雄ワシは巣から少し離れたところで、止まりや飛行を繰り返している。

8:55、雌ワシが立ち上がった。雛の白い綿毛が見えないか望遠レンズ越しに目を凝らす。雌ワシは明らかに給餌をしているが、巣材が盛り上がっていて雛の姿は見えない。
10分ほどで給餌は終わり、雌ワシは雛を保温するために座った。次の給餌を待つしかない。雛が巣の端に近づいて首を伸ばしてくれるとここからでも姿が見えるはずだ。

天気は下り坂。山は徐々に霧がかかり始めた。11時頃には巣は霧に覆われて見えなくなってしまった。巣の下100mまで深い霧に覆われた。今日の雛確認は諦めるしかない。
霧の多い伊吹山で、今年の巣はかなり高標高にあるので霧に覆われることが多い。霧の中では獲物の運搬も困難なのではと思えるのだが…

午後になって、霧の中から雌ワシが現れた。抱雛で強張った体をほぐすのと巣の外で糞をするために巣から出て来たのだ。周辺を少し飛行した後、旋回上昇して霧の中へと入って見えなくなった。巣へ帰って行ったのだろう。
霧で地形が見えないので方向感覚を失ってしまいそうだが、イヌワシは人間とは比べ物にならない鋭い方向感覚を持っているのかもしれない。

第4回伊吹山イヌワシ観察会 参加募集終了

「第4回伊吹山イヌワシ観察会」はたくさんの皆さんの参加申し込みをいただき定員となりました。
募集を終了します。
行き違いで申込みされた方には申し訳ありません。
参加受け付けについてはメールで返信させていただきます。

次回は7月14日を予定しています。

ツキノワグマ、くくり罠で手のひら切断か



くくり罠での錯誤捕獲が非常に多い。
近年のニホンジカの激増で、様々な方法でシカの捕獲が実施されている。その中で、くくり罠による捕獲は無差別的であり、仕掛けられたくくり罠の数も多いので、シカ以外の野生動物がたくさん犠牲になっている。

山の中で見つけたツキノワグマは、右前脚の手の半分から先がなくなっていた。右前脚は爪がないので幹を抱え込むようにして木を登っていた。
そのクマの左耳には黄色のタグが付いている。錯誤捕獲されてタグを付けて放獣した個体である。黄色いタグは滋賀県内で捕獲されたクマだと聞いた。
錯誤捕獲されたクマを殺さず放獣したが、手を締め上げたくくり罠で手の先端部はダメになってしまったのだろう。
このクマは一命をとりとめた。県によっては錯誤捕獲されたクマは殺すところも多い。

林道脇には点々とくくり罠が仕掛けられている。免許を持った人1人当たり30個まで罠を仕掛ける事ができる。1つの県の中でも何千個も仕掛けられているだろう。
捕獲目的のシカだけが捕まるのではない。くくり罠の輪の中に脚を突っ込んだらキツネやタヌキなど中型以上の動物は罠にかかってしまう。
仕掛けが作動する重さを調節できる罠も出てきているが、カモシカやクマなど同等以上の体重の動物には意味がない。相変わらず今でも脚先を無くしたキツネやタヌキの新たな個体が現れる。仕掛けの作動調節は、うまく機能しているとは思えない。走っているキツネの脚が仕掛けの踏み板を踏み抜く力と、静かに歩いているシカが踏み抜く力に違いはあるのだろうか?

以前アップしたくくり罠関連のものは以下にあります。

脚を失った野生動物。くくり罠との関係

脚を失った野生動物。くくり罠との関係

丘の上のアナグマハウス 4月11〜15日

丘の上のアナグマハウス 4月11〜15日

第4回伊吹山イヌワシ観察会のお知らせ

「第4回伊吹山のイヌワシ観察会」を2024年5月12日(日)に開催します。
眩いばかりの新緑に包まれた伊吹山で孵化後1ヶ月の雛を育てるイヌワシペアの行動を観察します。
巣へ獲物を運ぶ姿を観察できるかもしれません。
周辺にはツキノワグマやニホンジカ、カモシカなどが生息し、様々な野生動物を探索します。
渡来した夏鳥の賑やかな囀りにも注目。

観察会は1〜2ヶ月に1回実施する予定です。
次回は2024年7月14日(日)を予定しています。

第4回伊吹山イヌワシ観察会案内
イヌワシ観察会案内

参加申込書
第4回イヌワシ観察会参加申込書

オオタカの繁殖 抱卵期2024年4月1日



オオタカは産卵して抱卵中だった。雌が抱卵し、雄は近くの木で巣のまわりの見張りをしている。
雄はしばらく止まりを続けた後、伸びをして飛び出して行った。何かを見つけて追うというふうではなく、ふらふらと右へ左へと飛行して獲物を探している。
そのうちに狙いを定めて一直線にスピードを上げた。地上近くで反転して降下して見えなくなった。狩りの結果が見えないのは残念だが、地上付近まで高度が下がると視界を得るのは難しい。

ここの周辺にはドバトの数千羽の群れが飛び回り、農耕地に降りて採食している。オオタカはそのドバトを狙うことが多い。この狩りの結果は不明だが、数時間後には獲物を巣の近くに運んで来て雌に渡した。
雌が獲物を食べている間、雄は雌に代わって抱卵をした。
雌が獲物を食べて巣に戻って来たのは25分後だった。そのうが膨れて獲物を食べたことがわかる。

河川沿いにはオオタカやノスリ・ハイタカ・チュウヒ・ハイイロチュウヒ・トビ・ハヤブサ・チョウゲンボウなどたくさんの猛禽類が狩りをしながら暮らしている。
農耕地や市街地が広がるエリアの中であっても、河川沿いは林や草花が茂る野生動物の素晴らしい生息場所である。

しかし、近年この河川敷の林が急速に失われている。
ここのオオタカも最初に使用していた大木の巣は、刈り払われてなくなってしまった。200mほど巣の場所を移動して繁殖している。そしてまたこの巣の近くまで伐採が進んでいる。
かつてキツネがカヤネズミを狩っていた場所も整地され、芝生のような草と平坦な地形になってしまった。カヤネズミや多くの野生動物が生息できる場所ではなくなった。
山から河口まで続く河川、平野部では唯一残された野生動物の生息地を残すことは重要なことだと思う。