第29回環動昆大会「湖国滋賀で展開される有害生物管理のいま」

第29回環動昆大会にて「湖国滋賀で展開される有害生物管理のいま」 の公開セミナーが開催されます。弊社からは須藤明子が参加、「科学的・計画的捕獲によるカワウ管理」と題して講演を行います。

□詳細はこちら

■主催:公益社団法人福井県獣医師会 野生動物・自然環境保全事業委員会
■日時:2017年11月19日 13:00~16:00
■会場:滋賀県立大学・交流センターホール(H会場)
■お問い合わせ:第29回日本環境動物昆虫学会大会実行委員会

シンポジウム『これからの狩猟と管理捕獲を考える』

2013年5月18日(土)に岐阜大学で開かれるシンポジウム「これからの狩猟と管理捕獲を考える」に、弊社より須藤明子がパネリストとして参加、近隣県発の最新情報として「滋賀県におけるカワウのカリング実績 ~専門的・職能的捕獲技術者による科学的な取り組み~」と題して発表を行います。プログラム他詳細については、下記URLにてご確認ください。

■主催:岐阜県
■共催:岐阜大学野生動物管理学研究センター他
■日時:2013年5月18日(土)13:00~17:15
■会場:岐阜大学講堂
■対象:一般市民・行政関係者・狩猟関係者(入場無料・事前申込不要)
■URL:http://rcwm.blog.fc2.com/blog-entry-35.html

野生動物管理のための狩猟学

野生動物管理のための狩猟学

共著 須藤明子(株式会社イーグレット・オフィス)
「カワウにおける個体群管理のための捕獲」
編集 梶光一・伊吾田宏正・鈴木正嗣
発行 2013年 朝倉書店
内容 本書は、2010年7月17日に東京農工大学において開催された国際シンポジウム「野生動物管理の担い手:狩猟者と専門的捕獲技術者の育成」の講演内容を中心にまとめられた。滋賀県琵琶湖で行なわれたカワウの個体群管理を事例に、専門的捕獲技術者の必要性について概説した。

岐阜から生物多様性を考える

岐阜から生物多様性を考える

共著 須藤明子(株式会社イーグレット・オフィス)
「カワウとイヌワシと生物多様性保全」
監修 小見山章
編集 小見山章・荒井聡・加藤正吾
発行 2012年 岐阜新聞社
内容 2010年、岐阜大学において「岐阜から生物多様性を考える研究会」が、4回にわたり公開で行なわれた。毎回、研究者が自らフィールドで調べた結果を発表し、高校生を含めたフロアと講演者との活発な議論が交わされ、ともに生物多様性について「考える」貴重な機会となった。この研究会の内容をまとめたのが本書である。

Vol.45 カワウ:生息数と魚の関係

コロニーから一斉に飛び立つカワウ

琵琶湖に浮かぶ竹生島。カワウの活動は夜明けを待ちかねていたかのように始まる。

星の瞬く夜空が少しずつ白み始めると、カワウはねぐらから採食地を目指して次々と飛び立っていく。第一陣は空を透かしてかろうじてその姿が確認できる程度の明るさになると出発する。

最初は1羽2羽と少数が飛び出していくだけであるが、明るくなるにつれてその数は一気に増えていく。最初の個体が出て行ってから30分とたたないうちに、10分間に6,000羽を超える大集団となって一斉に飛び立っていく。ピークは20〜30分間ほどで終わり、急激にその数は減少する。

出て行くカワウの減少とは反対に、今度は帰ってくるカワウが徐々に増えてくる。朝一番に向かった採食地で魚を捕らえて「そのう」にため込み、巣で待つヒナに運んでくるのだ。出動のピークから1時間ほどで帰りのピークがやって来る。魚を十分に捕ることができた個体から順次帰ってくるので、出動の時のような大集団とはならず、数十〜百羽程度の小群である。それでもピーク時には10分間で2,000羽を超える。

カワウは口から溢れんばかりに魚を詰め込んで帰ってくる。中には魚の尻尾が口からはみ出しているものもいる。これらの魚を吐き戻してヒナに与えるのである。

琵琶湖に棲む3万羽以上ものカワウが捕らえる魚は莫大な数に違いない。しかしながら、カワウはすべての魚を捕り尽くしてしまうわけではない。魚全体の数からすると、カワウが食べる割合は意外に小さい。カワウの捕食量が稚魚の誕生を上回って一方的に多くなると魚は減っていくことになる。食物が減るとカワウの生息状況に大きな影響を及ぼし、やがてカワウも減少することになる。今のところそのような大きな減少がカワウに見られていない。

カワウが食べる魚の数は、魚全体からするとわずかであるとは言え、養魚池化しつつある琵琶湖やその周辺の川で魚を捕るのであるから、漁業被害の問題は避けて通れない。人間が魚を放流すればするほど、カワウの食物も増えることになる。カワウが増加し漁業被害もさらに増える。

カワウによる漁業被害をゼロにすることはカワウを全滅させることになってしまう。カワウもこの地球の自然環境を構成している生物の中の一種なのである。仮にカワウがいなくなったとしても、漁業被害がなくなるわけではないのだ。外来魚であるブラックバスは天敵のカワウがいなくなると増加して、アユなどの魚をさらにたくさん食べることになる可能性がある。魚を食べる生物は他にもたくさんいる。これらの生物がカワウの分まで魚を食べて増えるかもしれない。いろんなものが相互に関連しあって自然界は成り立っている。これは我々人間の想像力をはるかに越えている。

川や湖という自然の恵みを利用した漁業では、我々は謙虚に「野生動物による被害をどこまで認めるか」について考えた上で被害防除に取り組まなければならないのかもしれない。

Vol.44 カワウ:環境への適応力「地上営巣」

地上巣・樹上巣に関係なくのびのびと育つヒナ

カワウの過密な営巣によって竹生島のほとんどの樹木が枯れ始めている。

カワウの巣の下では、糞によって植物や地上が真っ白になっている。葉が糞に覆われて光合成ができなくなったり、土壌中の成分の変化などによって樹木が枯れると考えられている。島の北部では、すでに樹木が無くなって草原状になっている部分が目立つ。かろうじて残っている樹木も、枯木であるか葉をほとんどつけていない立ち枯れ寸前となっている。森が残っているのは、観光客が訪れる寺や神社の周辺だけである。

カワウは人間の活動エリアを避けて営巣しているのは明らかである。しかし、営巣する樹木が少なくなってきた現在、これまで営巣していなかった社寺近くの林にまで徐々に進入し始めている。強い生命力に勢いづいているカワウは、人間の活動エリアまで占領するような勢いである。

本来カワウは樹の上に巣を作りヒナを育てる。しかし、樹木が減った竹生島で繁殖を継続するために、カワウは樹木のないところでは地上に巣を作り始めた。樹上に営巣するカワウが、地上での営巣に挑戦したのだ。

地上での子育ては卵やヒナにとって非常に危険である。いろんな動物に食べられてしまう危険がある。しかし、竹生島は琵琶湖に浮かぶ島であるため、天敵となる動物は陸地に比べると非常に少ない。この島でカワウの天敵となるのは、卵やヒナを食べるヘビとカラス、ヒナを狙うトビくらいだ。琵琶湖周辺の陸地では、これらの動物以外にタヌキ・キツネ・テン・イタチ・ハクビシン・アライグマ・イヌ・ネコなど、何倍もの天敵が生息している。

竹生島には天敵が少ないので、地上で子育てをするには好都合だ。年々樹木が減り、地上営巣が増えている。しかし、地上に巣を作る時でも、まったく樹木がない場所はあまり好まない。枯木でもいいから少しでも立木がある場所にたくさんの地上営巣が見られる。開けた場所は他の動物から見つかりやすいので、少しでも巣の上を覆うものがあると安心できるのかもしれない。

樹上の巣でも地上の巣でも、カワウのヒナたちは順調に育っている。地上と樹上のヒナの育ち具合に差はないように見える。ヒナよりも親鳥のほうが、地上営巣の不安によるストレスは大きいだろう。樹上営巣する鳥が地上に営巣することは、ものすごい冒険である。竹生島から樹木がすっかりなくなってしまった時には、カワウは地上に巣を作って不安な生活をするよりも、樹木のある他の地域へ繁殖地を移動することを選択するだろう。

それにしてもカワウ自身が選んだ繁殖地を、自分たちの糞によって破壊してしまうとは、理解しがたい生態である。

樹木が枯死しカワウが出て行った後、大量の糞は土壌を肥やし、植物の生育を促す素晴らしい肥料となる。何十年か後に再びカワウが戻ってきた時、繁殖地となり得る森がここに復元しているだろう。

カワウは、そこまで計算に入れて今日まで脈々と生き続けてきたのかもしれない。

Vol.43 カワウ:琵琶湖で激増

巣は樹木の枝の至る所に作られている

近年、イヌワシやクマタカなどの猛禽類が自然環境の悪化とともに減少しているとは逆に、個体数が増加している鳥類がいる。

全身真っ黒な水鳥、カワウがその一つである。カワウの生息地である河川や湖沼の状態が、以前と比べて良くなっているわけではないけれども、滋賀県のようにカワウが急激に増えている地域が多くなった。

昨年、滋賀県の琵琶湖では、3万5千羽の生息が確認されている。2万羽以上のカワウが集団で繁殖する竹生島は、日本全国でダントツに個体数が多い最大の繁殖地である。早朝、群れが一斉に採食場所へ飛び立つ様子は、空一面が真っ黒になると言っても過言ではない。カワウは、魚が集まる場所を目指して次々と飛び去っていく。早朝には琵琶湖へ流れ込む河川の河口に向かうことが多い。日中には、大集団が魚を捕りながら湖上を移動しているのもよく目にする。

野生動物が増加するためには十分な餌量が確保できることが前提である。カワウが異常なほどに個体数を増やしたのは、餌となる魚の生息状況に変化が起きている可能性が高い。釣りのために河川に大量に放流される養殖魚は警戒心が弱くカワウに捕獲されやすい。琵琶湖ではブラックバスやブルーギルなどの外来魚が増殖している。漁業形態の変化や河川環境の変化もまた、カワウが魚を捕りやすい状況を作り出している。梁漁や堰堤などでせき止められた場所では、魚の行き来が遮られてたまり場となりやすく、カワウにとって絶好の餌場となっている。人間の活動がカワウの異常な増加の一役を担っていることは間違いないであろう。

営巣の状態もまたすさまじいものがある。一本の木に20〜30個もの巣が架けられていることも珍しくない。超過密状態である。隣り合った巣では、首を伸ばせば隣の巣まで届いてしまうほどの密集ぶりだ。上の巣から落ちてきた糞を、下の巣にいるカワウが頭からかぶりながらも平気な顔をして卵を抱いている。

巣の下を歩くときは要注意だ。タイミングが悪いと液状の糞が頭上から降ってくる。さらにゲロ爆弾なるものも投下される。これは、カワウのヒナの仕業である。親からもらって食べた魚を口から吐き戻して落とすのだ。半分消化しかかった何匹ものどろどろの魚の塊であるから、これが付着すると臭くてたまらないし、高いところから落ちてくるから当たり所が悪いとかなり痛い。

ヒナの様子を見ていると、明らかに巣に接近する人間を狙ってゲロ爆弾を投下していることが分かる。人間を巣の近くから退散させるのが狙いだ。カワウの狙いどおり、大した目的がなければすぐさま逃げ帰るところであるが、我々にはカワウの現状を調査し、撮影するという任務がある。このまま逃げ帰るわけにもいかない。常に自分が歩くルート上にある巣の中のヒナの様子を見ながら突き進むしかない。ヒナが大きな口を開けて爆弾を投下しそうになると、こちらは直前で立ち止まって爆弾をかわす。ヒナがお尻を巣の外に向けて糞をしそうになると、こちらは慌ててその場を走り去る。

すべてを避けて通ることは難しい。帰る頃には体中にすっかり臭いが染み付いている。人間の感覚はよくしたもので、自分では臭いが気にならなくなる。しかし、すれ違った人は鼻がひん曲がるほど臭かったに違いない。