餌付け問題。写真を撮るだけでイヌワシのことを考えていない餌付けは、イヌワシにとってプラスにはなりません。餌付けが最も頻繁にされた1990年台はイヌワシは全く繁殖に成功していません。その頃に餌付け禁止の看板を環境省や県自然保護課・米原市と連盟で立てました。また、ドライブウェイに来ているカメラマンに餌をやらないよう直接お願いもして回りましたが、侵入防止柵や看板も壊される始末でした。
1999年頃に2年近くドライブウェイが道路の崩壊で通行止めになり、餌付けもなくなりました。その1年後からイヌワシが繁殖に成功するようになりました。2001年からの5年間で4回繁殖に成功しています。
無計画で過剰な餌付けがイヌワシの繁殖に良い影響を与えなかったことが分かります。イヌワシが餌付け場所で待ち続けて、行動範囲が縮小して本来の狩りができない状況だったのです。
しかし、ドライブウェイ開通後は徐々に餌付け行為が再発するようになり、現在に至っています。昨年2022年からは法律で国立公園など特別保護地区での餌付けが禁止されたことや、不法投棄として警察が動いたことなどで餌付けはなくなったと思われます。
このイヌワシ子育てライブの餌不足を見て、伊吹山が自然度の低い山だとの書き込みが増えていますが、伊吹山だけでなく全国の山で自然度の低下が起こっていると考えられます。日本イヌワシ研究会の「つがい数の減少と繁殖成功率低下の33年間の推移」によると、全国のイヌワシのつがい数340のうち、2013年までに99つがいも消滅しています。特に2000年以降は急激に減少しています。現在の2023年までにはさらに多くの消滅つがいがあったと推測されます。
滋賀県でも11つがい生息していたのが現在は4つがいだけになっています。そのうちの1つがいが伊吹山のイヌワシです。標高1,377m、それほど高い山ではなくそれほど山奥にあるわけでもない、昔から人の生活に利用されてきた身近な山でありながら、豊かさを保ってきたのは伊吹山のポテンシャルの高さからだと思います。イヌワシの繁殖成功率の低下は全国的な傾向であり、各地で同様の餌不足に陥っていると推察されます。
今年の伊吹ペアの餌不足は異常な状況です。他の年でも子育ては餌不足との戦いで、母ワシは干からびた骨を食べて凌ぐことも多いです。それでも雛の成長が遅れることなく育っていました。それが今年は母ワシだけでなく雛(ニーナ)までもが骨で食い繋いでいます。成長具合は普通より20日は遅れています。ニーナは7月24日現在104日齢で、これまでに日本では例がないほど長い子育てになって、両親が子育てを諦めてしまうかもしれない状況になっています。
人による給餌や救護をすべきとの考えもあります。しかし、今1羽の雛が飢えてかわいそうだという理由でやるべきことではなく、日本のイヌワシの個体群を守るためにどのように取り組むかを、有識者で考え合意して実施すべきことなのです。
今回のイヌワシライブは、早急な対策の必要性を強く訴えるものになると思っています。
イヌワシや多くの野生動物を守る環境保全は何をやるべきなのでしょうか?色々な保全策がこれからも実施されていくものと思います。
その一つとして僕が提案したいのは以下の保全策です。
イヌワシとツキノワグマの分布や生息状況は、ほとんど一致しています。また、ブナ林の分布とイヌワシの分布もかなり一致しています。そして人工林率が高い地域からイヌワシの生息が消滅している傾向があります。
これらを総合的に考えると、単一の樹木で下層植生が育たず動植物が生息しにくい人工林が、森林面積の40%以上を占めている環境が、イヌワシの生息に悪影響を及ぼしている可能性が高いと考えられます。
手入れされずに放置された人工林が多くあることから、そうした不良な人工林を優先的に伐採して、自然の林へと転換する必要性を強く感じます。人工林率30%以下、できれば20%に。
イヌワシ子育てのライブ配信は下記URLからご覧ください。
URL:https://youtube.com/live/7GT1ToXBM64
※お願い
イヌワシ子育てのライブ配信は、警戒心の強いイヌワシに影響を与えず、多くの方々にイヌワシを観察してもらうための企画です。巣を探し回ったり撮影しようとして、巣に近づかないでください。人が巣に近づくと親鳥は巣から出てしまい、卵やヒナが死んでしまいます。
また、飛べるようになった幼鳥を追い回すことがないようお願いします。