週刊「日本の天然記念物 動物編」イヌワシ

写真 須藤一成(表紙他15点提供)
発行 2003年 小学館
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内容 2002年6月6日から50週連続で発行されたウィークリーブックで、日本の天然記念物を写真とイラストでわかりやすく解説している。全ての号に解説されている動物の立体フィギュアが付属している。

写真集 イヌワシ Golden Eagle

著者 須藤一成
発行 1994年 平凡社
取扱 Amazon
内容 日本の森林生態系の頂点に立つ大型猛禽類イヌワシ。日本国内の生息数は500羽程度とされ,絶滅の危機に瀕している。イヌワシのダイナミックな狩り,悠々たる飛翔,人の手の届かぬ断崖での子育てなど,その生活史のすべてを日本で初めてとらえた写真集。

Vol.40 イヌワシの生息環境を脅かす風力発電

風況ポールに当たる直前で回避するイヌワシ

地球温暖化に拍車をかけるCO2(二酸化炭素)の排出量削減を目指して、各地で風力発電の計画が持ち上がっている。

風力発電は、再生可能なクリーンエネルギーとして注目を集めている。しかし、この環境に優しいエネルギーも、風車の設置場所の選択を誤るとバードストライク(鳥類の風車への衝突死)が多発し、風車本体や道路・送電線などの建設によりCO2の吸収源である森林が伐採され、野生生物の生息地破壊も引き起こす。

風車のプロペラは、先端部で時速300km以上になることもあり、鳥の目にはプロペラが見えなくなってしまうのだ。この現象は「モーションスメア現象」と呼ばれている。

5,000基あまりの風車が立ち並ぶ米国のアルタモントパスのウィンドファームの例では、猛禽類だけで年間1,000羽前後が衝突死している。日本国内では北海道苫前町にある3基の風車近くで、2004年2月と3月に相次いでオジロワシの切断死体が発見されている。また、2004年9月には、根室市の5基の風車近くでオジロワシの切断死体が発見された。

風力発電が、環境に優しいクリーンなエネルギーとして機能するために、以下のような場所への設置は避けるべきだと考えられている。

・渡り鳥のルートになっている地域
・希少種の生息地
・国立公園や鳥獣保護区など
・風車の建設によって自然環境の価値が下がる地域

また、新エネルギー財団では、風力発電を設置するには、その場所までの搬入道路があることや、近くに高圧送電線が通っているなどの条件を満たすことが必要であると明記している。

風力発電は、再生可能なクリーンエネルギーとしての利用価値は十分にあるだろう。しかし、巨大な風車を設置するのだから自然環境や野生生物への影響が大きくなることも忘れてはならない。

ところが、避けるべき場所での風車建設計画が、全国に多数存在している。その中のひとつに、滋賀県米原市の奥伊吹地域に計画されている風力発電施設がある。ここは、天然記念物で国内希少野生動植物種に指定されているイヌワシの生息地である。胸高直径が60〜100cmのブナ林が残る動植物豊かな地域である。伊吹町(現米原市)が実施した動植物調査の結果では、積極的に自然環境を守る地域としてゾーニングされている。

風力発電計画地でのイヌワシの行動をビデオ撮影するために、7月に2日間現地で観察した。1日目、イヌワシは1回出現し、計画地尾根を横切って消えた。2日目、イヌワシは9回出現した。ペアで計画地の尾根に沿って獲物を探しながら何度も往復し、風車の設置予定地点を15回も通過した。

ここには風力や風向などを調べるために高さ約30mの風況ポール1本が立っている。ポールは何本ものワイヤーに支えられて立っている。イヌワシは獲物を探しながら下を見て飛行していたので、このポールとワイヤーに直前で気付いて回避するといった場面があった。これが風車であったなら、見えないプロペラに巻き込まれていただろう。

この地域に風力発電施設が建設されれば、イヌワシが風車に巻き込まれることは必至である。ブナ林を切り開き、道なき尾根部に道路や鉄塔・送電線を新設することにもなる。

奥伊吹地域は風車の設置を避けるべき場所なのだ。

クリーンエネルギーと地域振興を隠れ蓑に、この計画が推し進められようとしている。自然環境の指標種であるイヌワシを守らなければ…。

Vol.21 猛禽類の生存戦略

人工物に止まるクマタカ

猛禽類は、個体数の減少や繁殖成功率の低下など、将来が危ぶまれる種類が多い中で、環境の変化にうまく順応してしたたかに生きる種類も少なからずいる。

猛禽類は警戒心が強く、人間とは距離を置いて生活していると考えられていたが、近年では都市部のビル街や市街地の公園で繁殖するものなど、人間の往来の激しい場所へ進出する個体が見受けられるようになった。オオタカやハヤブサの仲間は人間が作り出した新しい環境に順応して繁殖を始めている。

猛禽類の生存を左右する主な要因は、獲物となる動物の豊富さである。彼らは、都市部や郊外で増えているドバトやスズメなどに目をつけたのだ。中型のオオタカやハヤブサはドバトを主に捕食し、小型のハイタカやツミなどはスズメや他の小鳥を捕食する。

本来岩場で繁殖するハヤブサは都市部の高層ビルで繁殖し、森林性のオオタカの仲間は公園や郊外の林に営巣する。人間への警戒心を少しずつ和らげながら進出してきたのである。

市街地に進出する猛禽類がいる一方で、イヌワシやクマタカは山地に住み続ける。彼らはノウサギやヤマドリ・リス・テンなどを獲物とするために、市街地への進出はありえないだろう。イヌワシやクマタカは、昔ながらの自然環境が残る山地帯で生活し続けるしかないのだ。昔ながらの自然環境とはいっても、近年では奥山にまで開発の波が押し寄せ、彼らの生活も少しずつ変わってきている。

山地に住むクマタカだが、山の中にそびえ立つ巨大な人工物である高圧鉄塔をよく利用する。まわりの樹木よりも何倍も高い鉄塔は見晴らしが利くので、獲物を探すのにも周辺の見張りをするのにも非常に都合がいい。しかし、高圧鉄塔は感電の危険性がある。実際に感電して黒焦げになったクマタカの死体も見つかっている。飛行中に高圧線にぶつかる危険性もあり、海外の国立公園などでは、高圧線によく目立つ目印をつけたり、鉄塔の感電する恐れのある部分に止まれなくして、代わりに安全な位置に止まり木を取り付けているところがある。

高圧鉄塔はイヌワシにも利用価値の高いものだと思えるが、イヌワシが鉄塔に止まったのを一度も見たことがない。

猛禽類も環境の変化を有利に利用できるように少しずつその環境に順応してきている。獲物が豊富で営巣地が確保できるのであれば、少々の環境変化は受け入れてしまうのだ。しかし、市街地やその郊外の環境の変化は非常に早く大きい。1年後には営巣地や獲物が同じところで確保できるかどうかわからない。非常に不安定な生息地であることは間違いない。

人工物をほとんど利用することのないイヌワシは、環境の変化にも弱い猛禽だと考えられる。その分イヌワシの生息する山地帯は、近年の機械化された奥山開発に圧迫されてはいるものの、市街地周辺に比べると環境の変化は比較的ゆっくりしたものである。

環境への適応力が高い猛禽と、適応力は低いが変化の小さい生息地に住む猛禽、どちらの選択が有利だろうか?

個としては後者の方が、種としては前者の方が有利であろう。

さて、選択の余地があるならば、自分はどちらを選ぶだろうか。

Vol.14 イヌワシ:ライバルはクマタカ

イヌワシの強力なライバル

日本の山地に生息するワシタカ類の中で、イヌワシは最も大きくて力強い。

イヌワシの天敵といえる動物はほとんどいない。イヌワシに天敵がいるとしたらそれは人間であるかもしれない。人間がイヌワシを捕まえて殺してしまうというケースは少ないが、人間活動の増大とともにイヌワシは生息場所を追われつつある。

イヌワシには、天敵ではないが強力なライバルがいる。イヌワシと同じ山地に生息するクマタカである。体のサイズはイヌワシよりひとまわり小さい。小さいとはいえ、体長は70〜80cmとイヌワシに次ぐ大型のワシタカ類だ。

両種ともにノウサギやテン・ヤマドリ・ヘビなどを捕食する。獲物が競合するためと思われるが、イヌワシはクマタカを見つけると、すかさず攻撃をかけて追い払う。

ある晴れた日、クマタカはゆったりと帆翔し空高く舞っていた。急に翼をすぼめて急降下を開始し、慌てて林の中へと消えていった。すかさずイヌワシが現れ、クマタカが消えた林の上を低く飛び回ってクマタカを探した。

またあるときには、イヌワシの営巣地の近くを通りかかったクマタカに対して、上空から弾丸のように急降下して攻撃した。イヌワシの攻撃に気づいたクマタカは、一目散に林の中へ逃げ込んだ。

イヌワシの攻撃を避けられずに、2羽がもつれ合うように林の中へ落下していったことがあった。林の中からすぐに出てきたのはイヌワシだった。一方、クマタカは出てくるのを確認できなかった。得意の林内飛行で移動して行ったのかもしれない。けがをしていなければいいのだが…。

両種の出会いはいつも、少し体の大きいイヌワシが優勢である。翼が短く林の中を上手に飛行するクマタカは、林の中に入ることでイヌワシの攻撃をかわしている。

イヌワシが生息する場所では、クマタカは長時間帆翔したり、高く舞い上がったりするような目立つ行動をあまりしない。イヌワシとの干渉をできるだけ少なくしているようだ。イヌワシが頻繁に出現する場所では、クマタカが生息しているにもかかわらず、その姿を見ることは少ない。

数年前までイヌワシが生息していた場所では、以前はクマタカはほとんど姿を見せず、時折ちらりと姿を見せる程度であったが、イヌワシが姿を消してまもなく、クマタカが悠々と舞い、ハンティングする姿が頻繁に見られるようになった。クマタカは、イヌワシとまともに出くわすことがないように行動を調整していたのだ。

両種は同一地域に暮らしながら、クマタカが林内、イヌワシが開けた場所を主なハンティングエリアとして棲み分けている。

Vol.13 イヌワシ:生息環境の変化

獲物を探して地上近くを飛行する

イヌワシは、1ペアが約100平方キロメートルの行動圏を持っている。

僕が住んでいる伊吹町の面積が109.17平方キロメートルで、ちょうど町内のほぼ全域を行動圏にもつイヌワシが1ペア生息している。イヌワシが1ペアしか住めないところに人間は6000人余りが暮らしている。なんとイヌワシの3000倍以上の密度である。イヌワシは、非常に生息数が少ない動物なのだ。イヌワシの生息数は、日本全国でも数百ペアと推測されている。

イヌワシの生息密度を決定づけている最も重要な要素は、食料となる獲物の生息密度であろう。ノウサギやテン、ヤマドリ、夏期にはヘビなど、生きた動物が主な獲物となる。これらの中型の野生動物がたくさん生息することで、獲物を見つける頻度が増え、狩りをするチャンスが増える。獲物が多ければ広い行動圏を持たなくても十分に生活していけるのだ。

ノウサギやヤマドリの生息数はこの20〜30年非常に少なくなっていると感じられる。僕が山の中を歩き回っても、ノウサギに出くわすことは年に数回程度しかない。お年寄りに聞くと、昔はノウサギは山だけでなく、集落や田畑にまでたくさんいたらしい。近年では集落周辺に足跡や糞はほとんどなく、山でさえも多くは見かけない。東北地方の白神山地の林道を車で走ったことがあるが、1時間に20頭ほどのノウサギが車の前に飛びだしてきた。その頃イヌワシの繁殖成功率が高かった(現在では繁殖成功率は低下している)東北地方では、ノウサギはまだたくさんいたようである。西日本では林道を走ってもノウサギの姿を見ることは珍しい。また、野外でイヌワシを観察していると、獲物を見つけることがいかに大変なことであるかがわかる。

イヌワシは、斜面を吹き上げる風を利用してホバーリング(空中停止飛行)で地上の獲物を探したり、地上スレスレに降下して繁みに隠れている獲物を追いだす行動をしたりと、必死にハンティング行動をくり返す。

1日中目まぐるしくハンティング行動をくり返しても獲物にありつけない。あくる日も朝から盛んにハンティング行動をくり返す。涙ぐましい努力にもかかわらず、ノウサギ1匹出てこないのだ。獲物となる動物が減っている。 抱卵中の雌には雄が獲物を捕えて運んでくる。しかし、雄が獲物を捕獲できないために、雌が空腹に耐えかねて抱卵を中止する繁殖失敗例が何度かあった。生まれたヒナが餓死する例も見受けられる。

獲物の減少はイヌワシにとって致命的だ。さらに追い討ちをかけるのが狩り場の減少だ。近年はイヌワシの棲む奥山にまで開発が押し寄せている。手入れされないスギやヒノキの植林地は薮となって、体の大きいイヌワシは狩りのために飛び込むことができない。炭焼きやたきぎ取りで管理されていた二次林も近年は放置され、人間が歩くのも困難なほど薮化している。

イヌワシは、「獲物の減少」と「狩り場の減少」という二重の困難に直面している。このままではイヌワシに未来はない。
放置された二次林や植林地にもう一度人間が手を入れ管理することで、野生動物と人間が共に利用できる森を復活できないだろうか。僕が現在いちばんやりたい(やるべき)ことである。

Vol.12 イヌワシ:人口巣の設置(その3)

白斑が青空に映える若ワシ

晩秋から初冬、イヌワシの巣造りが次第に本格的になってきた。果たして、秋に造った人工巣を使用してくれるだろうか。

僕の心配をよそに、イヌワシはせっせと人工巣に巣材を積み上げていた。雄と雌が交互に巣材を巣へ搬入している。人工巣は、僕たちが造った時よりひとまわり大きくなって居心地が良さそうだ。イヌワシは、この人工巣を気に入ってくれたのだ。

オーバーハングした岩の下は、雪が積もらず快適そうだ。ツキノワグマの通路を封鎖しているので、繁殖を妨害するものはなくなった。今年の繁殖が楽しみだ。

2月には抱卵している姿を確認した。雄と雌が抱卵を交代する行動も観察できた。繁殖は順調に進んでいる。抱卵の大半は雌が行う。雌が食事や休息の時には、雄が抱卵を交代する。

雄が捕えて巣の近くまで運んできたノウサギやヤマドリなどが雌の食物となる。抱卵期間中の雄の獲物の供給量が、繁殖の成否に大きく関係している。雌は飲まず食わずで雄が獲物を持ち帰るのを待っている。雄が獲物を捕えることができなければ、雌は空腹に耐えかねて抱卵を続けることができなくなってしまう。3日以上も食物にありつけないことはたびたび起こっている。長期間獲物が無い状態が続くと、抱卵中あるいは育雛中の雌は明らかにイライラしているのが見て取れる。巣を離れる回数や時間が多くなる。さらに獲物が捕獲できない状態が続けば、繁殖を中断してしまうだろう。

抱卵中の雌に与える分の獲物が確保できない貧弱な自然環境であるならば、ヒナが孵化しても育てることなどとてもできないだろう。イヌワシたちはそのことを十分に心得ていて、ダメと分かれば無理をすることなく繁殖中断するのではないだろうか。無理をしすぎて体力を失い、今後の繁殖に影響するようならば、かえってマイナスになってしまう。早めに決断して、来年以降の繁殖にかけたほうが長い目で見ると得策だろう。

3月下旬、人工巣で抱卵を続けていたペアは、2羽が同時に巣から離れて飛び回っている。残念ながら今年は繁殖に失敗したようだ。イヌワシの繁殖成功率は近年異常に低くなっている。このペアも例に漏れず、10年以上は繁殖に成功していない。

ペアは翌年もこの人工巣に産卵したが卵は孵化せず、繁殖に失敗した。その後も毎年のように人工巣に産卵したがヒナは孵化しなかった。

人工巣に産卵を続けて6年目、ようやくヒナが誕生した。待ちに待ったヒナの誕生である。何としても元気に巣立ってほしい。はらはらしながら観察を続けた。ツキノワグマが巣に登ってくることもなく、ヒナは順調に育っている。このままいくと5月の下旬には巣立ちを迎えるだろう。

6月に入って巣から離れたところを元気に飛行する若ワシの姿を確認することができた。若ワシが翼と尾羽の白斑を輝かせて飛翔する姿は、何回見ても美しい。一見、悠々と飛行する若ワシだが、まだまだ経験不足である。木の枝に止まり損ねて林の中へ落ちる滑稽な姿を見せるのもこの時期である。

人工巣はがっちりとまだまだ頑丈で、ツキノワグマの侵入を食い止め、オーバーハングが雨や雪からヒナを守っている。

今後もこの巣から若ワシが巣立ち、僕を感動させ続けてくれることを願っている。

Vol.11 イヌワシ:人口巣の設置(その2)

ザイルに身をまかせ宙づりで作業をする

ツキノワグマに襲われたイヌワシの巣は、巣材の半分以上が掻き落とされていた。

絶壁から張り出した小さなかん木の根元に、直径60cm足らずのイヌワシのものとしてはかなり小さい巣がのっていた。通常のイヌワシの巣は、直径100〜150cmくらいの大きさである。もともと巣を造る場所としてはいいところではない。巣を支えているかん木も、クマによって折られている。

イヌワシの巣場所としては、雨や雪が当たらないように巣の上がオーバーハングしていて、巣の土台となる水平なテラスがある岩場がベストである。こうした条件のいい巣場所はなかなか無いものだ。この巣はオーバーハングがなく、雨や雪がまともにかかってしまう。

ザイルで絶壁を降下して巣まで降りてみて初めて、巣を支えているかん木がクマによって折られていること、かん木の根元は小さくてこれ以上巣を広げられないこと、オーバーハングが無いことなど、現在ある巣を補修するだけでは営巣地として不十分であることがわかった。

巣から約7m横の同じ岩壁にオーバーハングした場所がある。クマがイヌワシの巣へ登ってきたのも、このオーバーハングの下の割れ目を伝って来たのだ。この割れ目に大きな石を敷き詰めてクマの通り道を封鎖すると、うまい具合に巣をかけるテラスが出来上がる。オーバーハングと巣をかけるテラスのあるなかなかいい条件の営巣地になりそうだ。予定外ではあったが、イヌワシの巣を基礎から人工的に造ることになった。

人工的に巣を造るとひとことで言うと簡単そうであるが、そこは断崖絶壁、ザイルを頼りに宙づりでの作業である。また、イヌワシに完全な人工の巣を提供するという日本初の試みでもあるのだ。

作業は、イヌワシが営巣地にあまり関心を示さなくなる夏の終わりから秋にかけて行った。人間への警戒心が非常に強いイヌワシを刺激しないための最低限の配慮である。

作業には多くの人間が必要である。巣まで降下して作業する人2名。降下する人のサポート1〜2名。巣のある岩壁の下からのサポートと、テラスに敷き詰める石や巣の材料となる枯木を拾い集めて巣の位置まで引き上げる人2〜3名。1日に5〜7名ほどの人間が必要である。

この人工巣造りには、信頼できるイヌワシ仲間が集まった。皆それぞれ各地のフィールドで研究・保護に熱心に取り組んでいる仲間達だ。遠いところでは400kmもの道のりを車を運転してかけつけてくれたのだ。

早朝から登山し、岩場に張り付いて泥まみれになって夕方まで巣造り。夕方からは、沢へ下ってのんびりと疲れを癒しながらキャンプを楽しむ。

こうした毎日をくり返すこと10日間、のべ60人もの人間がかかわって、新しいイヌワシの巣が完成した。出来映えは上々。十分に満足のいく巣が完成した。あとはイヌワシのお気に召すかどうか。どんなふうに巣を仕上げるかはイヌワシしだい。冬から始まるイヌワシの巣造りで、さらに巣材を積み上げ、彼らの思い通りの巣を完成させてくれればそれでいいのだ。