カワウの過密な営巣によって竹生島のほとんどの樹木が枯れ始めている。
カワウの巣の下では、糞によって植物や地上が真っ白になっている。葉が糞に覆われて光合成ができなくなったり、土壌中の成分の変化などによって樹木が枯れると考えられている。島の北部では、すでに樹木が無くなって草原状になっている部分が目立つ。かろうじて残っている樹木も、枯木であるか葉をほとんどつけていない立ち枯れ寸前となっている。森が残っているのは、観光客が訪れる寺や神社の周辺だけである。
カワウは人間の活動エリアを避けて営巣しているのは明らかである。しかし、営巣する樹木が少なくなってきた現在、これまで営巣していなかった社寺近くの林にまで徐々に進入し始めている。強い生命力に勢いづいているカワウは、人間の活動エリアまで占領するような勢いである。
本来カワウは樹の上に巣を作りヒナを育てる。しかし、樹木が減った竹生島で繁殖を継続するために、カワウは樹木のないところでは地上に巣を作り始めた。樹上に営巣するカワウが、地上での営巣に挑戦したのだ。
地上での子育ては卵やヒナにとって非常に危険である。いろんな動物に食べられてしまう危険がある。しかし、竹生島は琵琶湖に浮かぶ島であるため、天敵となる動物は陸地に比べると非常に少ない。この島でカワウの天敵となるのは、卵やヒナを食べるヘビとカラス、ヒナを狙うトビくらいだ。琵琶湖周辺の陸地では、これらの動物以外にタヌキ・キツネ・テン・イタチ・ハクビシン・アライグマ・イヌ・ネコなど、何倍もの天敵が生息している。
竹生島には天敵が少ないので、地上で子育てをするには好都合だ。年々樹木が減り、地上営巣が増えている。しかし、地上に巣を作る時でも、まったく樹木がない場所はあまり好まない。枯木でもいいから少しでも立木がある場所にたくさんの地上営巣が見られる。開けた場所は他の動物から見つかりやすいので、少しでも巣の上を覆うものがあると安心できるのかもしれない。
樹上の巣でも地上の巣でも、カワウのヒナたちは順調に育っている。地上と樹上のヒナの育ち具合に差はないように見える。ヒナよりも親鳥のほうが、地上営巣の不安によるストレスは大きいだろう。樹上営巣する鳥が地上に営巣することは、ものすごい冒険である。竹生島から樹木がすっかりなくなってしまった時には、カワウは地上に巣を作って不安な生活をするよりも、樹木のある他の地域へ繁殖地を移動することを選択するだろう。
それにしてもカワウ自身が選んだ繁殖地を、自分たちの糞によって破壊してしまうとは、理解しがたい生態である。
樹木が枯死しカワウが出て行った後、大量の糞は土壌を肥やし、植物の生育を促す素晴らしい肥料となる。何十年か後に再びカワウが戻ってきた時、繁殖地となり得る森がここに復元しているだろう。
カワウは、そこまで計算に入れて今日まで脈々と生き続けてきたのかもしれない。